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#32、喧嘩はやめて




魔害獣使いの達人…。

初耳だ、そんなヤバそうな人物がいたなんて。


「帝国には、そんな人がいたんですね…。」


「私も、会った事は無いし、それ以上の情報は知らないんだけどねー♪

ただ、千両役者フルコースの一角に、そういう達人がいるって事だけはよく言われてる♪

その人の情報は帝国内でもトップシークレットの一つで、正体を知ってるのは片手で数えられる程の人数だって、帝国軍の中でも専らの噂だよ♪

まあ、有名な帝国軍七不思議の一つだし、存在自体が都市伝説みたいなものだけどね♪」


成る程、興味深い話ではある。

信憑性はともかく、一体一体が災害のような恐ろしい魔害獣達が、全く帝都を襲わないのは明らかに不自然。

それを操れる人がいるのならば、なるほど得心がいく。

これから戦う事もあるかもしれないし、有益な情報として頭の中に入れておこう。



「で、今はそんな話より、目の前の魔害獣だよね♪

二人ともどうする?

縄張りを犯さないよう遠回りして行くか、このまま突っ切るか♪」


「突っ切ります。」


「即答ッ!?

害悪指数3000超えなのに、大丈夫なの?」


心配そうなコロちゃんにそう聞かれるけど、私は自信満々に答えてみせる。



「大丈夫も何も、全然余裕ですよ!

こっちは元帝国軍の主役メインディッシュと、それに勝利したこの私、そしてコロちゃん。

この黄金パーティなら、まるで負ける気がしないでしょう!」


「アタシが戦力に入ってるのがちょっと気掛かりだけど…。

まあ、アンタ達二人がいるならそうそう負ける事は無いでしょ。」


「もう、コロちゃんは自己評価低過ぎですよ〜。」


「そうそう♪私の作品を倒せる程の実力があるんだから、もっと胸張って良いんだよ♪」


「う〜ん…」


コロちゃん、もしかして何か悩んでる?

相談に乗ってあげたい気持ちはあるけど、今はあの鳥の魔害獣をどうにかしないと。




バードオブプレイ。

初めて聞いた魔害獣だけど、シャツキフさんが知っているという事はこの辺じゃ有名な魔害獣なんだろう。

討伐対象に指定されたとも言ってたし、倒して魔核をギルドに持って行けば、そこそこ良いお金になるんじゃないかと思う。



「それじゃ、突っ切ると決まったなら早速縄張り侵犯〜♪」


なんの躊躇いも無く、シャツキフさんが小気味良いステップと共にバードオブプレイの真下へと近づいて行く。

私とコロちゃんもそれに続いて早歩きでついて行く。





「キュアァァァァッ!!」



当然ながら、自身のテリトリーに無断で侵入されたバードオブプレイは、甲高い鳴き声を上げながら急降下してくる。

茶色と白のツートンカラーのボディ、獲物を射殺すかのような鋭利な眼光、羽根を広げたその巨体は、ラスコフ村の民家二軒分はある。

そんな巨大猛禽類が、頭上からミサイルみたいに降ってきた。


しかも、狙っているのは真っ先に縄張りを犯した先導者のシャツキフさん。



「シャツキフさん、気を付けて下さい!」


「大丈夫大丈夫♪

『海色のブループルーフ』」


美術館での戦いの時、私の攻撃を弾いた貝殻の盾が、シャツキフさんの頭上に現れる。

磯の香り漂う美麗な盾は、バードオブプレイのくちばしが直撃するもその衝撃を見事に吸収してみせる。


「『海鳴り』」


カウンターの衝撃波が怪鳥を襲い、弾き返す。

バードオブプレイは体勢を崩しかけるもすぐさま立て直し、今度はコロちゃんに狙いを定め、突進してくる。

自分の攻撃が防がれても瞬時に状況を判断して、今度は一番戦闘力の低い人間を見定め狙っていくスタイルか。

流石に害悪指数3050KCは伊達じゃない。

高い知能に見合った狡猾さ、さっきは大見得切った私だけど、決して油断は出来ない。



「だけどまだまだッ!」


コロちゃんの前に立ち、割り箸の斬撃によって敵を牽制する。

私の目の黒いうちは、あんな鳥如きの卑怯な攻撃など通す訳がない。



「ギィッ!ギィッ!」


バードオブプレイの狙いが厄介な私に変更され、上空への急上昇からの急降下攻撃を何度も繰り返してくる。

本気を出した怪鳥のヒットアンドアウェイ攻撃は思った以上に手強く、あまりの速さになかなか反撃に転じられない。



「『超速画ソニックドロウ』」


だけど私には、仲間がいる。



「『爆弾魔デビルボンバー』」


シャツキフさんが描いたのは、頭に導火線が付いた黒い小悪魔。

人間の頭程度の大きさのそれを一瞬で何体も描き上げ、疑似生命体となった彼らが背中の羽根をパタパタと羽ばたかせ、急降下してくるバードオブプレイの進路上に立ちはだかる。


巨大なバードオブプレイはちっぽけな雑魚と侮っているのか、小悪魔の壁を蹴散らそうと減速せずにそのまま突っ込んで来る!





ドドドォン!



と、轟音を草原に響かせ、小悪魔達が一斉に爆裂した。

バードオブプレイが直撃した、その瞬間に。



「痛ァッ!」


まあ、技名からして爆発しそうだなーとは思ってたけど、その火力は想像以上で、守られてる筈の私ですらも爆風で軽く吹っ飛んだ。



そんな大規模な爆発に巻き込まれたのに、ボロボロのバードオブプレイが黒煙を裂き、怒りに任せて無理矢理突っ込んで来た。

流石の耐久力だけど、その動きは速度と精細さを著しく欠いている。



「させるかぁッ!」


私の眼前に躍り出たコロちゃんが、バードオブプレイの嘴に手槍の一撃を叩き込み、怯ませる。

吹っ飛んだ私を守ってくれたのはありがたいけど、お陰で怪鳥の怒りを買ってしまったようだ。


怒り狂った怪鳥は鳴き喚き、コロちゃんを食い殺そうと襲い掛かる。




「コロちゃん、逃げッ…」


「私の事も忘れずに〜♪」


バードオブプレイの背後から大きく跳躍したシャツキフさんが、その背中に粘土の剣を思い切り突き刺した。

怪鳥の嘴がコロちゃんを捕らえる寸前で、地面に縫い付けられるようにバードオブプレイは絶命した。




「…た、助かった。ありがとう…」


「いえいえ、どういたしまして〜♪」


恐怖で尻餅をついていたコロちゃんにシャツキフさんが手を差し伸べて起こしている。

取り敢えず、コロちゃんが無事で良かった。


「アディーナちゃんもごめんね♪

ちょっとばかり火力を強めにしちゃってたみたい♪」


あの爆弾小悪魔、実際結構危なかった。


「そうですね、それについては後で議論するとして…


コロちゃん、さっきは助かりました。」


「…う、うん。結局、アタシ自身シャツキフに助けられちゃったけど。」


「ええ、ですからあまり、無茶な行動は控えるようにして下さいね。」




コロちゃんを戒めるつもりで言ったその発言が、どうやら不味かったらしい。





「何よそれ、つまりはアタシが役立たずって言いたいんでしょ?」


「…え?」


「あちゃ〜…」





コロちゃんを、怒らせてしまった。



「…確かにアタシはただのクローン兵だし、アンタ達みたいに達人でもないし、大して強くもないけどさ…


でも、少しでも戦いの役に立ちたくて、努力もしてるし頑張ってるのにさ…!」


「あ、いや、そういう意味じゃなく…」


「分かった、ごめん。アタシ足手纏いだから、もう戦わないね。二人の邪魔はしないから。」


「あぁ…」


それっきり、コロちゃんはすっかり私と口を聞いてくれなくなった。

コロちゃんは足手纏いじゃない。さっきバードオブプレイの攻撃を防いでくれた時も、美術館でシャツキフさんと戦った時も、コロちゃんはピンチの私を助けてくれた。

それを伝えたいんだけど、今のコロちゃんは全く聞く耳を持ってくれない。


どうしてだろう。

何で彼女は急にヘソを曲げてしまったのか。


「恋する乙女の地雷原は、本人にしか分からないからね〜♪」


シャツキフさんが、私にしか聞こえないように耳打ちしてきた。


「私も乙女ですけど、確かに全然分からないです。」


「天下のランカーシス技研でも、心の地雷探知機は開発出来ないからね〜♪」


「もう、からかわないで下さいよ。」


ちょっぴりウザいシャツキフさんを手で押し除け、嫌な空気感の中、私はバードオブプレイの骸から魔核を回収する。


それから馬車に戻るも、コロちゃんは一言も喋らずにムスッとしながら馬車を輓いている。

一体どうすれば機嫌を直してくれるのか、皆目見当も付かない。



「抱いちゃいなよ〜♪」


また、シャツキフさんに耳打ちされる。

他人事だと思って、楽しんでいるみたいだ。なんて迷惑な人なんだ。


「なんでですか。」


「こういう時は、何も言わずそっと背後から抱き締めてあげるのがいいんだよ♪

特にコロちゃんは、アディーナちゃんにそれやられたら一発なんじゃないかなー♪」


「何を根拠にそんな事…。

ていうか、貴女がその光景を見たいだけなんじゃないですか?」


「えへ、バレたぁ?」


この人の意見は参考にならない。

まだ短い付き合いだけど、それだけははっきりと分かった。





「…あの、コロちゃん。」



「…何?」


勇気を出してコロちゃんに声を掛けてみたら、ぶっきらぼうだけど意外と返事をしてくれた。


「…こ、コロちゃんは最近どんどん強くなってますし、他のクローン兵とは違う特別な子だと私は思いますよ。

ほら、可愛くて強いなんて、とても魅力的な女性だと…」


「だとしても、全部アンタ達には劣るけどね。

アタシは所詮、一介のクローン兵だから。どんなに頑張っても、アンタ達みたいな超人とは住む世界が違うのよ。」




…何という面倒臭い女ッ!


流石の私も、いい加減イラッとしてきた。



「…分かりましたよ。コロちゃんがそこまで言うなら、もう好きにすればいいじゃないですか!」


私もムキになって、コロちゃんにキツく当たってしまった。


「……ッ!」


コロちゃんは無言で私を睨んだ後、アンタに興味なんてないですよと言わんばかりの勢いでそっぽを向いてしまった。

何なの一体?私の事、好きなんじゃなかったのか!



「あ〜、お二人とも、喧嘩はやめて仲良くしましょ…」


流石にマズいと思ったのか、シャツキフさんが仲裁に入ろうとするも、私とコロちゃんはお互いに引くことが出来ない。意地っ張りだから。


それからの数時間は、まさに最悪の空気だった。

不機嫌そうに馬車を輓く私とコロちゃんの所為で、シャツキフさんもマックス君もシャツキフさんが作った彫刻の馬も、どことなく息苦しそうだ。

三人には申し訳ないけど、私はコロちゃんが自らの非を認めない限り、仲直りするつもりはない。

私はコロちゃんを心配して注意を促しただけなのに、何であんなに言われなきゃならないのか!



それからというもの、私とコロちゃんは一度も言葉を交わす事なく馬車を進めて行く。

どんなに空気が悪くとも、馬車はペースを変えずに進んで行く。

シャツキフさんが何度か仲裁しようと私とコロちゃんに声を掛けて来るけど、最終的には諦めてどうにでもなれと寝てしまった。


そして日も暮れ始めた数時間後、目的地であるコウシン村が見えてきた。

村というよりは小さな街と呼べる程に栄えていて、宿や飲食店、雑貨屋などもあり、賞金稼ぎギルドの支部も存在するらしい。

本来なら、初めて訪れる地にワクワクする筈だけれど、流石に今はそんな気分にはなれない。

コロちゃんも同じらしく、何の感動も顔に出さずに淡々と前を見据えている。



「さ、コウシン村に着きましたよ。シャツキフさん、起きて下さい。」


「ん〜、はいは〜い…♪」


寝息を立てているシャツキフさんを起こしてから、馬車を馬舎に預け、村の中でまず宿を探す。

同じ村であるウシール村よりもずっと大きいけれど、それ以上に気になる部分がある。




「お、もしかして旅のお方ですか?ようこそいらっしゃいました!」


「宿ですか?それならこの通りを真っ直ぐ進んで、突き当たりを左に進んだ先です。良かったら地図描きましょうか?」


「もし良かったらこれ、貰って下さい。この村名物のお茶の詰め合わせセットです。」




村の住人達が、一人残らず全員が満面の笑顔で、異様なまでに親切なのだ。

最初はただ普通に親切な人達なのかなと思ったけど、全員でそう来られると流石に怖くなってくる。

何か、理由でもあるのだろうか?



私達は過剰なまでに親切な村人に付き添われ、村の宿屋まで案内され中に入ると、予想通り懇切丁寧な宿屋の主人に部屋まで連れられ、一息つく。

ここまで親切にされると、逆に息が詰まりそうだ。


あと、未だにコロちゃんとは一言も喋っていない。

いつまでもこうしてギスギスしてる訳にもいかないし、いい加減折れて欲しい。



「それじゃ、先にお風呂入りますので。」


「…う、うん…」


シャツキフさんにだけそう告げて、私は浴場へと向かう。







浴場には、私一人。

溜め息混じりにいそいそと衣服を脱ぎ、湯船に浸かりながら、黙考する。


コロちゃんと仲直りするには、どうすればいいのか。

そもそも、彼女は今、何を考えているのか。


まさか、本気で私の事を嫌いになってしまったのか?



私は未だにカリュウちゃんの事が好きだけど、コロちゃんだって同じくらい大事な人だ。

そんな人に嫌われるのは、やっぱり辛い。




コロちゃんは一体今、何を考えているんだろう。



⚪︎コロちゃんのメモ帳



魔害獣



古くから世界中で猛威を振るう、怪物めいた生物、魔害獣。

こいつらはそもそもどんな生物なのかというと、大地から稀に放出される有毒ガス『魔害ガス』を体内に取り込んで肉体が変異した、元々は普通の生物なのよね。

大抵は凶暴性が増して人を襲うようになるけど、エクレールスネイクみたいに大人しくて、人と共生している魔害獣もいるのね。

強さもピンからキリまでで、ちょっとした腕自慢でも倒せるのから、一国を滅ぼす程の厄災みたいな魔害獣までいるわ。怖い。



それにしても、魔害獣を操る魔害獣使いの達人、かぁ。

本当にそんなのがいたら、アタシ達にとって大きな脅威になり得るでしょうね。



う〜ん、魔害獣使いの達人……


何か引っ掛かるのよねぇ…


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