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#28、創造から破壊まで




「むぐぉ、むごッ!」


私達に呆気なく捕らえられた変態メイズは、女子トイレの個室で拘束されていた。

光学迷彩軍服が未だに故障中だったらしく、素の戦闘力は殆ど無い彼は呆気なく私の延髄斬りでKOされ、そのまま女子トイレに引き摺り込まれた。

こんな変態野郎を女子トイレに入れるのは甚だ不本意だけど、今はそうも言ってられない。


掃除用具入れにあったホースで両手両足を拘束し、捻った大きめの雑巾を顔を一周させて猿轡さつぐつわのように口に噛ませ、声を出せないようにしてある。

私達を散々盗撮&ストーキングしていたので、これでもまだまだ気は晴れない。



「さて、急いでいるので手早く情報を聞き出しましょう。

メイズさん、シャツキフさんはどこに居るのか知っていますか?」


私は雑巾猿轡を緩め、最低限喋れるようにする。


「ぷはッ!」


「勿論、大声を出すのはNGですからね。

そんな事されたら私、ビックリしてつい自慢の割り箸で貴方の脳天貫いちゃうかもしれません。」


私は戯けたようにニヤリと笑いながら、メイズのこめかみに割り箸を突きつける。

うん、こういうの好きなのかもしれない、私。



「…く、くそォ。そんなチャチな脅しなんかで、簡単に教える訳ないだろ。」


相手は一応腐っても帝国軍所属の達人。

この程度じゃ折れてくれないのは想定内だ。


「う〜ん、それは残念ですねぇ。

あ、よく見たら良いカメラ持ってますね。貸して下さいよ。」


「あ、おい、よせ!」


有無を言わさず、メイズが腰にぶら下げていたカメラを奪い取る。


「おお、最新型のデジカメですか。確かこれ、ランカーシス技研系列の会社から今年発売されたばかりのやつですよね。

高画質で大容量保存出来る優れ物!

テレビでCMやってるの見て、欲しかったんですよねー。」


これは本音だ。

まさか、憧れのカメラがこんな変態に悪用されていたとは、残念でならない。


「おいコラ、やめろ!

高い金出して買ったばかりなんだぞそれ!そうやって下手に弄るんじゃない!」


私はデジカメを操作して、保存されている画像を確認する。


中身はやはり、クロとか通り越して完全なるディープブラックだ。

私とコロちゃんの盗撮写真以外にも、多数の女性が被害に遭っているのが判明した。


中には、知った顔も見つかった。



「この写真、写ってるのユウリさんじゃないですか。ガイラの街の監督官の。」


私との激闘を繰り広げたユウリさんが、眠たそうな表情で着替えている写真を見つけてしまった。


「おうともよ。お前らをストーキングしてた片手間にな。

監督官みたいな有名人は特に写真の〝需要〟が高いからなぁ、稼がせて貰ってるぞ。」



下衆だ、あまりにも下衆過ぎる。

今すぐデジカメを地面に叩きつけたい衝動に駆られるけど、ここは我慢すべきだ。

ここでカメラを破壊してしまったら、コイツを脅迫する材料が無くなってしまう。

それに、悪用されているカメラに罪は無い。



「…まあ、貴方の罪状は後でゆっくり清算するとしましょう。

今は、シャツキフさんの居所を教えて貰うのが先です。

素直に教えてくれないとどうなるか、言わなくても分かりますよね?」


私は、分かりやすく犯罪の証拠であるデジカメをチラつかせる。


「ぐぬゥゥ!」


「早く教えてくれないと、うっかり手が滑って、このデジカメを帝都の饕餮城宛てに郵送してしまうかもしれません。

軍が調べたら、あっという間に誰の物かバレちゃいますよねぇ。」


「わ、分かった!言う!言うからやめて!」


「どこですか?」


「…隣の棟の最上階にある、あの人のアトリエだ。」


「嘘だったら、どうなるか分かっ…」

「あー!分かってるからとっとと行ってこい!」


「では。」


もう一度延髄斬りを決めてメイズをしっかりと眠らせてから、私とコロちゃんはシャツキフさんのアトリエへと急いだ。
















◆◆



道中は、比較的楽だった。

動く作品達は私達を完全に見失っており、物陰に隠れつつ少しずつアトリエへ近づく。

途中で館内のパンフレットも手に入れ、描かれている地図を参考に出来たのもデカい。

辿り着いたアトリエの前の扉にも、敵は一体もいなかった。


いや、流石に見張りすら居ないというのは不自然過ぎる。

これは恐らく罠。私達を誘っているのか。



「あまりにも静か過ぎます。コロちゃん、最大限の警戒を絶やさないで下さいね。」


「うん、言われなくても。」


同時にゴクリと唾を飲み、意を決して私はアトリエの扉を開いた。








アトリエ内は兎に角広かった。

最上階の殆どのスペースが、恐らくアトリエなのだろう。そう思える程の広さだ。


制作途中なのか、駄作として放置されてるのか、中途半端な出来の作品達が大量に散乱していて、少し不気味でもある。

画材やよく分からない用途の道具なんかが棚に並べてあって、その数はかなりの量。

お陰で、このアトリエは広さの割に若干窮屈にも感じる。



「やあやあ、来てくれたんだね♪

君達なら、ここまで辿り着いてくれると信じていたよ♪」


シャツキフさんが、姿を現す。

アトリエの入り口から一直線に進んだ先、つまりこのアトリエの最奥のスペース。

そこだけ作品も画材も片付けられていて、壁は全面ガラス張り、広い庭から遠くの山々まで素敵な景色を一望出来る。


「御託はいいです。早く解毒剤を渡して下さい。」


「まあまあ、そんなに慌てないで♪

そんなに急いで慌ててたんじゃ、気付けるものにも気付けないよ♪」


「…どういう意味ですか?」


ニッコリと含み笑いを浮かべるシャツキフさんに、私は若干の苛立ちを覚える。

そして、その苛立ちの殆どは、焦りと後悔へと変わる事になる。




「アディーナちゃん、君の相棒、顔色悪いみたいだね♪」


「え?」


そう言われ、背筋がヒヤリとした。

咄嗟にコロちゃんの顔色を伺うと、確かに青ざめていて具合が悪そうだ。

どおりで、さっきから口数が少なかった訳だ。


どうして今の今まで気付かなかったのか!

解毒剤を手に入れるという目的に囚われ過ぎて、コロちゃんの体調を蔑ろにしていては本末転倒じゃないか。


「アディーナ、大丈夫だから。少し目眩がする程度だし。

タイムリミットまでまだ時間あるし。」


「いえ、コロちゃんは無理せず休んでいて下さい。」


「う、うん…。」


私に諭され、渋々とコロちゃんは隅へ退避する。

動き出しそうな作品も無さそうなスペースだし、比較的安全だと思う。



「そもそも、コロちゃんに注入した毒って何なんですか?

メイズさんの上官である貴女なら、知ってるんじゃないですか?」


「うん、知ってる♪」


「なっ!?」


「毒の名前は確か、アワオドラチレン、とか言ったかな。

ランカーシス技研が開発した、非常に強力な猛毒♪」


やはりというか、またランカーシス技研…ッ!



「この毒が完全に回ると…



嗚呼、口に出すのもおぞましい♪










着てる服を全部脱いで、裸で盆踊りを踊り出す♪」




なッ!?




「何ですってッ!?」


私は、背後で休んでいるコロちゃんに目を向ける。



不本意ながらも、全裸のコロちゃんが満面の笑みで、「はぁ〜、ヨイヨイ!」とか言いながら盆踊りしている場面を想像してしまう。


「ちょっとアディーナ、アンタ今、変な事考えてたでしょ?」


「プッ、いや、そんな訳…無いに決まって…ククッ!」


「おいコラ笑うな。」


コロちゃんに思いっきり睥睨へいげいされるけど、この笑いを堪えるのは酷というものだ。




「ムッフッフ♪全裸で盆踊り、一周回って芸術かもね♪」


「んな訳ないでしょッ!早く解毒剤を頂戴!一刻も早く!」


毒の正体を知ってから、急にコロちゃんが必死になった。

確かに、人生最悪クラスの痴態を晒す事になると知ったからには、それも当然だろう。


「ん〜、だから私から無理矢理奪うしかないって♪

そんなにがっつかないで。」


「でしたら、とっとと始めましょう。

コロちゃんが社会的に抹殺されて引き篭もりにでもなったら、私の旅に支障が出ますので。」


「…何かムカッとする言い回しね。」



私は割り箸を構え、敵の出方を探る。

相手は帝国軍の幹部。一瞬の油断が命取りとなり得る。



「さあさ皆、もう起きる時間だよー♪出ーておーいでー♪」


見目麗しい美少女が、絵筆型ステッキの石突きで足元を二、三小突く。



「「「はーーーいッ!!」」」



それを合図に、周囲の作品達が一斉に動き出す。

大半が画材や棚などの影に隠れていたようで、想像以上の量だ。

玄関ホールの時よりも多いかもしれない。


「ちょっとアディーナ、敵多過ぎないッ!?」


「安心して下さい、策があります。」


そう言って、私はすぐ近くの棚を蹴り倒す。



「…何を?」


金属製のパイプを組み立てて作られた簡素な棚は、軽く蹴っただけであっさり倒れ、並べてあった画材を床にぶち撒ける。


「もう、あんまり不必要に荒らさないでよ!

片付けるのも大変なんだからね♪」


「その心配は、しなくて大丈夫ですよ。


全部、燃えて無くなりますからッ!」




倒れた棚。散らばる画材。

その中に、フタが破損して中身が溢れている一斗缶が混じっている。


その一斗缶には、炎のイラストに大きくバツ印が描かれていた。


「燃えて…?


…まさかッ!?」


「この塗料、可燃性ですよね?」


私は、手に握っている割り箸で倒れた棚を斬り付ける。

割り箸と金属とがぶつかり合い、生じるのは勿論火花だ。


火花が床に広がる塗料の液に触れた瞬間、激しい爆音と共に生まれた炎が、周囲の物を燃やしながら広がっていく。



「やってくれるねー♪

確かに、芸術家にとって炎は天敵♪特に絵なんかは一瞬で灰になっちゃうから困るよね♪」


緊張感をまるで感じられないシャツキフさんとは対照的に、私達を取り囲んでいた作品達は、必死になって広がる炎から逃げ回っている。


「まあ、ここまできたら、君の狙いも分かってきたよ♪」


途端に、頭上から雨が降り注ぐ。

いや、これは天然の雨じゃなくて、火気にスプリンクラーが反応して、アトリエ全域に冷たいシャワーが降っているのだ。



一応、私の狙い通りだ。



「ぎゃーッ!?」


「水だー!逃げろー!」


意思を持つ絵画達が、一斉に散開し逃げ出す。

絵画の天敵は火だけでなく水も同様だ。

逃げ遅れた絵画は瞬く間にびしょ濡れになり、床に墜落して行動不能となる。


これだけで、敵戦力が大幅に減少した。



「うん、やっぱり一筋縄じゃいかないね♪

建物の設備を利用してくるなんて、こりゃまた厄介だ♪」


「この美術館のパンフレットに、〝館内全域において防火・防災システム完備〟と書いてあったので。

もしかしたら利用出来るのでは、と思いました。」


「普段はスプリンクラーが作動してもいいように、透明のガラス板で覆って防水しながら展示してるんだけどねー♪

でも、そんな事してたら当然、戦いの時に絵が〝飛び出せなくなって〟邪魔じゃない♪

だから、ガラス板は外したんだけど、それが仇となったかー♪参ったなぁ♪」


台詞とは裏腹に、シャツキフさんは面白そうにケラケラ笑っている。

今や殆どの絵が水を吸ってダメになっているというのに、あの余裕は一体なんなんだ?


「絵がもう無理なら、他の種類の作品に活躍して貰うまで♪

ほうら皆、頑張ってー♪」


火は既に鎮火し、スプリンクラーも稼働を終了する。

バシャバシャと水溜りを踏みしめながら、今度は彫像の群れが押し寄せて来た。



「『割り箸殺法・渦紫陽花うずあじさい』」


より敵が密集している箇所を狙い、割り箸の一閃を叩き込む。

冴え渡る閃光は、数体の彫像を一撃のもとに斬り裂いた。



「ん−、やるねやるね♪聞きしに勝る強さだよ♪」


「自分の作品が破壊されて、悲しくないんですか?」


「ムフフ、破壊もまた芸術♪

永遠に遺る芸術なんてこの世に存在しないからね。創造から破壊までの一連の流れ、それら全てを引っくるめたものこそが、私にとっての芸術だからねぇ♪」


成る程、芸術家ではない私にはいまいち理解出来ない思考だ。

でも、シャツキフさんの言う事を裏打ちするように、破壊された作品達は満足そうな笑みを浮かべているようにも見える。

彼らにとっての造物主であるシャツキフさんの思想は、彼女の子である作品達にも伝播し、特有の死生観のようなものを生み出しているのかもしれない。



「でも、そろそろ私も静観してるだけなの飽きてきたなぁ♪」


彫像達の猛攻を防ぎ、苛烈な反撃で着実に私は敵の数を減らしていく。

その様子を見て、シャツキフさんは唇を尖らせていた。


「うん決めた、参戦しよっと♪」


不吉な発言を耳にした私は、彫像と戦いつつ横目でシャツキフさんの動きを確認する。

どうやら、両手で何かを捏ねているように見える。



「『土色の剣(イエローソード)』」



捏ねていたのは、黄土色の粘土だった。

その粘土を大剣の形に捏ね上げ、ドヤ顔しながら頭上高く掲げている。



そこまではまだ可愛げがあった。




それを振り下ろした瞬間、私は戦慄した。

縦一文字の白刃が、地を裂きながら、私の元へ迫って来る。


何という斬撃。

追い詰められたバッタのように横に飛び跳ね、寸前で回避には成功する。


この時点で、私は改めて思い知った。

芸術作品を操って攻撃してくるのは、彼女の実力的にはまだまだ前座だったと。


ここから、主役メインディッシュの称号を持つ猛者が、満を持して本領を発揮するのだ。


⚪︎コロちゃんのメモ帳



ウシール村


元々はエアフォルク王国の属領で、酪農と麦畑が主産業の牧歌的な田舎町ね。

都会であるガイラの街へ道が続いてるから、意外とそこそこ人通りはあるみたい。





…他に書く事が無いんだけど。

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