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#27、魂が込められているのさ




芸術の達人を名乗った少女、シャツキフ・ラピルーク。

彼女はシルクハットを被り直し、私達に笑顔を向ける。


「まずは、君達に非礼を詫びるね♪

ここに誘い出す為とはいえ、コロちゃんに毒を打ったのは、そこのメイズ君の独断なんだ♪

ちゃんと健全な手段を取らせなかった私の監督不行届きになるんで、ごめんね♪」


「素直に謝る気持ちがあるなら、解毒剤もくれると嬉しいんですが。」


「そうしたいのは山々なんだけど、そうしたら君達帰っちゃうかもしれないでしょ?

だから、まだ返さない♪」


反省してる様子がまるで無いシャツキフさんは、階段の中腹で立ち止まり、自身の被っているシルクハットを指差す。



「解毒剤は、この帽子の中♪

折角のVIP待遇のお客様なんだから、隅から隅まで私の芸術を堪能していってよ♪」


そう言い、シャツキフさんが手に持つ絵筆型ステッキを頭上に翳すと、周囲から激しい物音が聞こえだす。



「ちょ、ちょっと何よこれッ!?」


コロちゃんは獲物である手槍を取り出し、私も割り箸を取り出して身構える。





「『芸術的黒幕アーティスティック・フィクサー』」




私とコロちゃんは、驚きに目を見開いた。



美術館中に展示された数多の作品達が、一斉に動き出したのだ。

絵画は額縁ごと浮遊し、中に描かれた人物が生きているかのように表情を変えている。

彫刻は多少ギクシャクしながらも、しっかりとした足取りで歩行している。

何なのかよく分からないオブジェは、宙に浮いたり床を転がっている。


ついさっきまで静謐な空間だった美術館が、まるでお祭り騒ぎだ。



「私の作品は、比喩的な表現で魂が込められてるんじゃない♪

〝正真正銘本当に〟魂が込められているのさ♪

だから動きだすし、その喜びで皆はしゃぎ出す♪」


動き出した作品達は、まだ攻撃してくる様子はない。

ひたすら玄関ホール中を踊り回り、宙を舞い、ニヤニヤ笑いながら騒いでいる。




「石造りの兵隊さんは、常に戦場を求めてる♪

勇猛果敢で血の気が多い♪君達みたいなお子様は、早く帰らにゃ刃の錆にされちゃうヨ♪」


シャツキフさんの歌うような口調に合わせるように、様々な武器を携えた兵士の石像達が私達を取り囲み、襲い掛かってくる。


「くっ、コロちゃん、大丈夫ですか!?」


「何とか、凌いでるけどッ!こいつら、かなり強い!」


コロちゃんの言う通り、ただ石像が動いてるだけじゃない。

一体一体が歴戦の強者みたいな強さで、例えるなら害悪指数1000前後の魔害獣と遜色無い程の戦闘力だ。

まさか、この周囲の作品全部が、このレベルの強さなのか…!


コロちゃんを守るのを最優先事項にして、石像兵を一体ずつ確実に倒していく。




「『割り箸殺法・渦紫陽花』」



割り箸の一閃が、コロちゃんを狙っていた石像兵の胴体を真っ二つにし、機能停止させる。

しかし、安堵している時間は一瞬たりとも存在しない。

石像兵はまだまだ沢山いるし、他の作品も無尽蔵。嘲笑うようにこちらを包囲している。


絵に描いたような多勢に無勢。作品一つ破壊するのにわざわざ大技を使っていては、体力が保たないのは自明の理。


「コロちゃん。」


「何?」


「一旦逃げて、態勢を整えましょう。」


「オッケー。」


喋ってる余裕も殆ど無いので、簡潔に撤退を提案する。



「逃げるつもり?無駄無駄♪」


私達の退路を塞ぐように、石像兵同士の隙間に空飛ぶ絵画が立ちはだかる。


「コロちゃん、私の手、しっかり握ってて下さいね。」


「う、うん。」


私はコロちゃんの手を取りながら、石像兵の一体を蹴り飛ばし、無理矢理作った包囲網の隙間を強引に突き進む。

当然、それを見逃す訳もなく、大量の絵画が殺到してくるのだけども。


「ちょっと我慢してて下さい。」


「え?」


私は更にコロちゃんの手を引き寄せ、体全体を持ち上げて本日2度目のお姫様抱っこの体勢を取る。


「え、また!?」


人一人持った状態だと少しキツいけど、今は他の手が思い付かない。

私は両足に力を込め、全力の跳躍!

そのまま宙を飛ぶ絵画を足場代わりに踏みつけると、反撃される前に瞬時に別の絵画へ飛び移る。


「おぉ、やるねぇ♪でもでもまだまだ甘い甘い♪

も一度言うけど、私の描く絵は漏れなく魂が宿っててだね♪

故に彼らはいつだって、額縁の外の世界に出たがってる♪」


シャツキフさんの歌の意味は、すぐに理解出来た。

包囲網を抜け切る最後の絵画を踏み付けたその時、何者かに足首を掴まれ、転倒してしまう。

私の手からすっぽ抜けたコロちゃんは、綺麗な受け身で着地を決め、反対に私は背中から床に叩き付けられた。痛い。


コロちゃんの見事な受け身に感心する間も無く、急いで足首を確認した私は、ギョッとする。

絵画に描かれた男性が、絵の具で構成された上半身を絵から飛び出し、両手で私の足首をがっしりと掴んでいたのだ。


絵を動かすだけじゃなく実体化させる事も出来るとは、完全にオカルトの領域だ。



「離れろォ!」


絵画人間を振り解こうとしたら、それよりも早くコロちゃんが手槍を絵画人間の腕に突き刺し、そのまま薙いで切断する。

コロちゃんのお陰で助かった。


「ありがとうございます。」


「これくらい 仕事しないとね。」


今度はコロちゃんに手を引かれ、背中の痛みを我慢しながら立ち上がる。

既にシャツキフさんの作品達が襲い掛かって来てるけど、何とか掻い潜って包囲網の脱出に成功した。



「おや、逃げた♪」



私とコロちゃんは後ろを振り返る事なく玄関ホールを駆け抜け、廊下へと退避した。





「ムッフッフッフ、逃げたはいいけど、余計な地獄を見なけりゃいいね♪」














◆◆



私達二人は適当な部屋を見つけて飛び込み、山のように積まれた画材の裏に隠れた。

運良く倉庫のような部屋だったようで、身を隠すにはうってつけだ。



「とんでもない能力ですね。

非生物に命を与えてしまうとは、まさに神の所業です。」


「うん、しかも強いし。」


あの場で逃げた理由は二つ。

一つは数の暴力でどうしようも無かったのと、二つ目は敵戦力を分散させる為だ。


でも、これは結構リスキーな手で、相手が私達の捜索に手駒を割かず、玄関ホールに全戦力を集中させて待ち構えられでもしたら非常に厳しい。

私達の目的はあくまでもコロちゃんの解毒剤なので、それを持っているシャツキフさんの元へは必ず辿り着かなければならないのだ。


まあ、その時はその時で考えればいいか。

敵の実力がまだまだ未知数で、幾らでも奥の手を隠しているであろう現状では、常に変わる状況に対して柔軟に対応しなければならない。


「とにかくまずは、敵の隙を見つけないといけません。

頃合いを見てこの部屋を出て、シャツキフさんの弱みを探しましょう。」


「うん、それはいいんだけどアディーナ、何か視線みたいなの、感じない?」


「え?視線、ですか?」


コロちゃんのその一言が気になり、部屋を見回してみた。





「あ。」




天井の隅に掛けられていた、首から上が鶏になっている、鶏人間の絵画と目があった。




「コココッコーッ!ココイルヨーッ!第二倉庫ニイルヨーッ!」


どういう原理で絵画が喋ってるのかとか、もう考えるのも馬鹿らしくなってきたけど、鼓膜がビリビリ震える程の大声で鶏人間が騒ぎ出した。



「こ、このニワトリ、うるさ…っ!」


コロちゃんが、苦しそうに両手で耳を塞いでいる。

耐え難い音量の騒音を堪えながら、私は割り箸を鶏人間に目掛けて投擲する。


「ゴッ!?」


直線の軌道を描いた割り箸は、見事に鶏人間の頭部に直撃し、貫通した。

これによって鶏人間は大人しくなったけど、代わりに廊下から足音のような音がドシドシと聞こえてくる。それも複数。


「マズいですね、仲間を呼ばれました。

逃げ道は…!」


画材が積まれた棚の裏に、よく見ると窓が見える。


「どっせい!」


私は迷う事なく棚を強引に引き倒し、窓を勢いよく開ける。

大量の画材が床に散らばるも、そんな事気にしている余裕なんて1ミリも無い。


「コロちゃん!」


「うん!」


私とコロちゃんは、窓から外へ飛び出す。

飛び出した先は、どうやら中庭のようだ。

沢山の花が咲いた植え込みや、中央に石造りの大きな噴水が設置されていて、常時ならゆっくりと歩きながら見て回りたいと思う程に綺麗で、手入れも行き届いている。



「ん?石造りの噴水?」



私の嫌な予感は的中した。

あの噴水、まさかと思ったけど、やっぱりシャツキフさんの作品だ。

噴水の真ん中で、水瓶を抱えた人魚の女性の石像が、穏やかな笑顔を湛えながらこちらに視線を送っている。



水瓶の中身を、私達にぶち撒けようと身構えながら。



「危ないッ!」


「うわッ!?」


コロちゃんも危険を察知していたのか、私が叫ぶのと同時に回避していた。

それでもギリギリのタイミングだったので、コロちゃんは変な声を出してたけど。


水瓶から放出された液体は、一瞬前まで私達が立っていた石畳をグズグズに溶かしはじめた。



「…濃硫酸ッ!」


あんな女神みたいな風貌の人魚像が、こんな悪魔的な代物を浴びせてくるなんて世も末だ。

きっと作者は相当性格が捻じ曲がってるに違いない。




「ここだー!」


「ヒャッハー!」


鶏人間の呼び声で集結して来た作品達が、叫び声を上げながら続々と中庭に殺到して来る。

海賊の船長みたいな格好をした髭の男が描かれた絵画から、男の上半身だけが飛び出し、サーベルを振りかざす。


「くッ!」


割り箸でサーベルと鍔迫り合いをし、それに勝利。

海賊の絵画を斬り裂き撃破するも、今度は戦場らしき絵が描かれた絵画から、次々と鋭利な矢が射出された。


「『割り箸殺法・梛筏なぎいかだ』」


割り箸を割り、収束された衝撃波が戦場の絵画目掛けて飛んでいき、進路上の矢もろともに絵を破壊する。


休む間も無く、お次は一つ目の怪物が描かれた絵画が目からビームを発射、回避に成功するも着弾した地面が爆発。地面をバウンドしながら数メートルは吹き飛ばされた。


「まだまだ終わらないよ。」


吹き飛んだ先に待ち構えていたのは、大剣を構えた女剣士の石像。

明らかにピンチな状況だけど、かえって私の頭の中は冴えていた。


(今こそ、師匠の教えを再び!)


ストロング・タニとの戦いを思い出す。

割り箸の極意。それは摘む事。



「何?」


まだ立ち上がれてもいない私を真っ二つにしようと、振り下ろされる無慈悲な大剣の一振り。

それが止められたのは、二対の割り箸に摘まれたからだった。

大剣の刀身が、仰向けの私に直撃する直前でピタリと静止し、ビクともしない。


「『割り箸殺法・山荷葉さんかよう』」


「キャッ!?」


私が割り箸を振るうと、石像の女剣士は大剣ごと吹っ飛ばされ、植え込みに突っ込んだ。


「コロちゃん、こっちです!」


「う、うん!」


コロちゃんも爆発に巻き込まれたけど、幸いにも殆ど怪我は無いみたいだ。


「走りますよ!」


「分かった!」


私とコロちゃんは敵の隙間を縫い、美術館内へ通じる扉まで到達する。

玄関ホールの時に比べれば、まだまだ敵の数は少ないので、容易に突破は出来た。


ただ、ある一枚の絵画が私達に追いつき、攻撃を仕掛けてくる。

目からビームを出す、一つ目の怪物である。


「アディーナ、ヤバい!」


「大丈夫です!」


怪物がビームを出す直前、私は一気に距離を詰め、一つ目怪物の絵画をアクロバティックに蹴り飛ばす。

一つ目怪物は衝撃でグルリと180度半回転し、後続の追ってきた作品達に向かってビームを発射したのだ。

多数の作品が爆発に巻き込まれ、一つ目怪物の絵画含め混乱が起こっている。


「さあ、今です!」


「やっぱ凄い、アディーナ!」


コロちゃんが扉を開き、二人同時に中に入る。

どうやら廊下のようで、周囲に敵の姿は無く、目の前に二階へ上がる為の階段がある。


「二階、行きましょう!この階よりは、敵は少ない筈です。」


「うん、そうね。」


私とコロちゃんは、脇目も振らずに階段を駆け上がった。













◆◆



「どっかで休んで対策を練りたいところですが、どこに敵が潜んでいるのか分からないこの状況じゃ、そんな悠長な事はしてられません。

親玉であるシャツキフさんを見つけ出し、一気に倒して終わらせます。」


私は二階の廊下を走りながら、並走するコロちゃんに簡潔に策を話した。

策自体も実に簡潔ではあるけど、一番確実な策だと思う。

長期戦になればなる程、不利になるのは間違いなくこっちだ。


「でも、シャツキフがどこに居るのか分からないわよね。どうするの?」


「そこが一番の問題なんですよね。

こういう時に、ちょっと脅せば敵の情報を吐いてくれるような、都合の良い敵がいてくれれば良いんですけ、ど……」


「え?」


ちょうど通りがかった男子トイレから、肩に包帯を巻いたメイズが出てきた。




「ん〜、ご都合主義。」


「はぁ?」


取り敢えず、この運の悪い変態ストーカーから情報を絞り出そう。そうしよう。



⚪︎コロちゃんのメモ帳



ストロング・タニ


ウシール村の監督官で、『回転ドリルの達人』とかいうよく分からない特技の達人ね。

愛用の武器『針魔王』を装着して体を高速回転させる事で、人間削岩機となって敵を攻撃するわ。

帝国軍に所属する前は裏世界の大物だったらしくて、その筋の人達にかなり顔が利くみたいね。怖い怖い。

ここだけの話、息子のラッシーの変態性は、親として内心複雑な心境らしいわよ。表には出さないけど。

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