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#20、最強の機甲魔害獣





「あー、そうだった。私今日お休みじゃんよー。

どうりで、他の人達が『何でお前いんの?』みたいな視線で私を見てくる訳だー。」


カーラが頭を抱えて恥ずかしがっている様子を、ランカーシス博士は指を差しながら爆笑している。



「あーもう、そんなに笑わないでってば!仕方ないでしょ!

最近忙しくて、なかなかメンテ出来てない機器類や機甲魔害獣なんかが溜まってるからさー。気になって気になって。

気付いたら、出勤日だと勘違いして来ちゃったの。」


そう言いながらカーラは、先程までクリストフが操作していた機械に擦り寄る。



「だってほら、さ。機械って、角張っててメタリックで超可愛いじゃん。ハァ、ハァ…

見てるだけで呼吸が荒くなってくるのに、触るとほらぁ、こんなに硬くて興奮してくるッ!ハァ…


こんな可愛い子達が、私のエロ……ゲフンゲフン!

…私のメンテナンスを待ってるなんて考えたら、いてもたってもいられなくなるでしょ!」


機械に頬擦りしながら、この小説がR−18指定になりかねないような破廉恥極まりない言動をするカーラを前に、その場の全員がドン引きしていた。



「…あー、何か笑ってごめん。」


ランカーシス博士が、珍しく真顔で謝った。

カーラが何を言い間違えそうになったのか、追求する者もいなかった。




「まあでもさぁ、カーラちゃんが来ちゃったのなら、彼女からも話を聞きたいなぁ。

今回の機甲魔害獣は、特に傑作なんでしょぉ?ニヒヒ。」


「うん、そう!そうなの!傑作どころか、今まで造った既存の機甲魔害獣の中でも、間違いなく最高傑作なんだよ!

まあ、私だけじゃなく、クリストフ君や他の皆の協力もあって、ようやく製作に着手出来たんだよねー。

まだ未完成ではあるけど、さっきのダイアウルフよりも強いよー。」


カーラに促され、クリストフが機械を操作。

ダイアウルフが出て来たのとは別の隔壁が開き、今度は人の形をしたシルエットが中から出て来る。

見目麗しい女性の姿をしたそれは、背が高く、流れるような金色の長髪をたなびかせ、実験体用の上下真っ白な衣服を着ている。




「おお、綺麗な女の人だねぇ。」


「そりゃそうだよ!だって…」


カーラは、狂気的な笑顔を浮かべる。






「私のお姉ちゃんなんだもんッ!」












「最強の機甲魔害獣、『パルセノキッサス』。

従来の機甲魔害獣とは異なり、機械と人間のハイブリッドになります。俗に言う、サイボーグと呼ばれるものに近いですね。

適性を持つ人物はごく僅かで、捜索は難航するかと思っていた矢先に、カーラさんのお姉さん、セイラ・ラボさんに適性因子が発見され、本人も快く協力してくれました。

妹の力になれるなら、と。」


窓越しに、自分の姉に熱っぽい視線を送っているカーラに代わり、クリストフが説明役に復帰する。


「パルセノキッサスのボディは超が付く程の特別製でして、素材はどれも非常に希少で入手困難な物ばかり。今回だけで多額の予算と膨大な人材を要しました。

なので量産は不可能ですが、コストに見合った働きは十分に期待出来るでしょう。」


「…ボディ?見た所、普通の人間に見えるけどぉ?」


少し訝しむような表情で、カーラと並んで窓からセイラを見つめる姫皇帝。

しかし、少し確認しただけで、その表情は得心いったような顔に変わった。



「フヒヒ、成る程ねぇ。〝そういう事〟かぁ。」


「クックク、流石はカリュウちゃァん、分かっちまったかァァ!

メチャクチャ金掛かった理由、納得してくれたかァ!?」


「うんうん、これはまぁ、お金掛かっても仕方ないねぇ。ニヒ。」


「それでは早速、戦闘テストに移ります。」



クリストフが再び機械を操作。

すると、ダイアウルフの時同様、開いた床からモノリス状の鉄の板が出現。

しかも今回は、一枚だけではなく十枚程の鉄板が同時に出て来る。



「お姉ちゃん、ゴー!」


今度はカーラが、マイク片手に指示を出す。

クリストフの操作する機械から伸びているマイクで、実験場に指示を出す為の物だろう。


実の妹の声が届いたのか、実験場のセイラはこちらに笑顔を向け、鉄板に向き直る。

それと同時に、鈍い轟音が鳴り響き、鉄板の一枚がひしゃげながら吹き飛んだ。

途轍もない衝撃を受けたのか、吹き飛んだ鉄板は壁に衝突し、潰れた空き缶のように原型を留めていなかった。


「おぉ、凄い威力。」


「あれでもまだまだ調整中です。」


他の鉄板も同様に、触れてもいないのにグシャグシャになって吹き飛び、ただの残骸と化していく。

セイラは不動を決め込み、最初の位置から一歩も動かないどころか、指一本すら動かしていない。


只々、正面に向かって薄ら笑いを浮かべているのみである。




「カリュウ様、これだけじゃありませんよ。

パルセノキッサスには更に、驚異の性能を搭載してあるのです!」


クリストフの操作に合わせて、セイラが出て来たのとは別の隔壁が開いた。

そこから出て来たのは、ボロ切れのような服を纏った、みすぼらしい身なりの少女だった。


戸惑っているのか、辺りをキョロキョロと見回したのち、散乱した鉄板の残骸を見て戦慄している。



「あの女の子は?」


「今回のパルセノキッサスの対人試験に〝快く〟協力してくれた、モルモット役です。

帝都のスラム街から、スカウトして来ました。

ここから先は、少々刺激の強めなシーンが見れると思いますよ。」


セイラがスラムの少女を視界に捉え、そちらに手を翳す。

すると、スラムの少女は急に動きがぎこちなくなり、そのまま四肢を大の字に広げ、宙へ浮かぶ。



…そう、宙に浮いたのだ。


重力を無視するように徐々に高度を上げ、スラムの少女がもがこうとしても、まるで意味がない。

完全に体の自由を奪われたスラムの少女は、滞空したままセイラの元へ近付いていった。



「ヒィ…ッ!?」


スラムの少女が恐怖を感じるも、もう手遅れだった。

既に、セイラの手の届く範囲まで接近してしまっているではないか!





歯をガチガチ鳴らして怯えるスラムの少女を、セイラは腰に手を回し、抱き寄せる。






そして、熱い口づけを交わした。



「うひゃぁ、刺激が強い!」


クリストフと付き添いの研究員二人は、刺激強めの光景を前に顔面を両手で覆う。

だが、指の隙間からちゃっかり覗いてたりする。


「…お、お姉ちゃんが私以外の女の子とキスしてる…!

悔しいけど、こ、興奮する…ッ!」


一人のヤバい奴が、ハァハァと息を荒げながら強化ガラスに貼り付いている。



カリュウとランカーシス博士はその様子を見て、同じ事を思った。




〝一体自分達は、何を見せられているんだろう〟と。





「……フゥ、ご覧頂けたでしょうか?

これこそ、パルセノキッサスに与えられた脅威の必殺技の一つ、『敵の女の子を一発で落として戦闘不能にし、尚且つ愛人にしてしまう強制百合チュー』です!」


「…あぁ、うん、凄いとしか言いようがないねぇ。フヒ。」


激しいキスを終え、トロンとした目のスラムの少女は、完全に茫然自失している。

流石のカリュウも、このような壮絶な光景を前にどう反応すればいいのか困っていた。



「ちなみにパルセノキッサスの口付けには、高濃度のフェロモンによる接吻対象の脳内麻薬過剰分泌、それに伴う強烈な催眠効果がもたらされます。

これに抗うのは、カリュウ様。貴女でも難しいと思いますよ。」


「…うん、そだねぇ。」


挑発的な物言いをするクリストフだが、カリュウは敢えてスルーした。

取り敢えず、スルーしときたい。そんな気分だった。










◆◆



二体の新型機甲魔害獣の見学を終え、カリュウ達は帰って行った。

饕餮城に帰るカリュウを見送った後、カーラは一人、ランカーシス技研地下の調整室へと入って行った。

無機質な白い自動扉の先は、素人には用途の見当もつかないような器具が、テーブルの上に幾つもゴロゴロと転がり、蛍光灯の明かりは薄暗く、マッドサイエンティスト御用達といったような、不気味な雰囲気のある部屋である。


その部屋の奥に、一人の女性が椅子に座り、本を読んでいた。



「…お姉ちゃん!」


「カーラ、お疲れ様。」


子犬のように自身の胸に飛び込んで来る妹を、セイラは慈母の如く優しく抱きとめる。


「ウヘ、ウヘヘ!今日のお姉ちゃん最高だったよ!格好良かったよ。」


「フフ、ありがとう。でもちょっと目が変態チックよ?」


「あぁ、半分機械化したお姉ちゃん、最ッ高!私の好きな物と者が二つ合わさって最高のボディへと昇華して、ウヘヘへへ!もう堪らない、堪らないッ!お姉ちゃん大好き!大好き大好き大好きィッ!」


「ウフフ、カーラは今日も平常運転ね。

今日はお休みなのに来ちゃうなんて、貴女もドジねぇ。」


「お姉ちゃんに会いたかったしぃ。」


興奮し過ぎてどんどんヒートアップしていくカーラの頭を、宥めるように撫でるセイラ。

すると、熱が冷めるように大人しくなり、「クゥ〜ン」と小さく鳴いた。


もう完全に犬である。



冷静になれたからなのか、カーラはようやく、セイラの隣に人が立っていた事に気付く事が出来た。

先程の実験でモルモットにされていた、スラム街出身の少女である。


「あ、君、さっきの。」


「ッ!!」


カーラに気付かれた事で警戒心を露わにし、セイラの影に隠れるスラムの少女。


「ウフフ、この子はワタシの新しい妹よ。カーラ、仲良くしてあげてね。」


「オッケー!私の新しい後輩妹だ!よろしくね!」


爽やかな笑顔で握手を求めるカーラに、スラムの少女は少しだけ気を許したのか、顔を俯かせながらそれに応じた。













◆◆



饕餮城名物、抽選謁見。

姫皇帝自らが始めたという設定のこの公務は、希望者の中から一日一人抽選で選ばれた帝都の住民が、カリュウに一対一で、10分間のみ直接謁見出来るというものである。

勿論、このような仕事をカリュウがしたがる訳も無く、カリュウが始めたというのは方便。

実際には、マゼンタに「せめて10分位は謁見の仕事でもしろ」的な事を散々言われて、渋々しているのである。

そこで譲歩した時間が、10分。



「はじめまして、ダニエルさん。

わたくしが、グラットン帝国皇帝、カリュウ・ラヒメです。

10分間という短い時間ではありますが、貴方の意見、ひいては市井の声を直接わたくしの耳で聞き、お互いに有意義な10分間にしましょう。」


豪奢な玉座に腰掛けるカリュウは、先程までとは180度別人と言ってもいい。

煌びやかなドレスを優雅に着こなし、縹色の長髪は全ての寝癖を欠片も残さず殲滅している。

全てを優しく包み込むような笑顔の先には、抽選謁見で運良く選ばれた男が跪いていた。








「デュフフフ、カ、カリュウ様!生カリュウ様でござるぅぅぅフゥゥオウッフゥ!」






…何だこの下品な俗物は、という台詞が喉まで出かけた。


出かけたのをすんでの所で飲み込み、平常心を保つ。




「…フフ、ダニエルさんは、随分とユーモラスな方なんですね。」


「ゆ、ゆ、ユーモラスゥ!そうです、ボクがユーモラスなダニエル君です。

カリュウ様にお褒め頂いて幸福の至りでござりましゅるゥゥゥ!デュフゥ!」


「フフフ、時間も押してますし、本題に移りましょうか。」


カリュウの口角は上がっているが、その目は笑っていなかった。

そして、まだ1分も経っていないのに、既にいつもの数倍は疲れていた。



早口でデュフフフ言っているダニエルという男は、普通に太っていた。

そして、普通に眼鏡だった。それも瓶底眼鏡だった。

もう、らしさ全開の見た目である。



「それでは、ダニエルさん。普段帝都で暮らしていて気になった事や、改善して欲しい事。わたくしへの直接の意見など、何でも仰って下さい。」


「えっと、それではカリュウ様。まずは質問を一つよろしいですか?」


「はい、どうぞ。」


「カ、カ、カリュウ様のスリーサイズを知りたいですッ!デュフフ!

あと、趣味や特技、隠し芸、あと下着の色も気になるでフ!」


「…………プライベートな質問は、お控え願えますか?

あと、質問は一つずつでお願いします。」



次、同じような質問をしてきたら、国家反逆罪で公開処刑しよう、とカリュウは密かに決心した。



「そ、そうですよねー!ボクとした事が、ついつい喜びの余り舞い上がってしまって!

ではでは、気を取り直して、ボクが最近気になっているのは、帝都で最近問題視されている、捨てられたペット用魔害獣の野生化についてなのですが…」


あ、ちゃんとした質問は用意してたんだ、と安心したカリュウ。

まあ、それはそれで彼女にとっては面倒なのだが。


ダニエルのマトモな質問にしっかりと付き合い、時間はあっという間に過ぎる。


しかし、残り1分といった所で、ダニエルのある質問に事態は変わった。




「カリュウ様、最後に一つだけ、プライベートな質問をよろしいでしょうか?」


本来なら却下するのだが、先程よりも真剣な表情をしている気がしたので、特別に許可を出した。



「……セクハラめいた質問でなければ。」


「…えっと、あのですね。ズバリ、カリュウ様に好きな人はいますかッ!?」




カリュウの顔に貼り付いていた笑顔が、ほんの一瞬だけ消え失せた。


⚪︎コロちゃんのメモ帳



クリストフ


最近、ランカーシス技研の第十九研究室の室長さんになった人ね。

30代前半という若さで室長に抜擢された秀才で、主に兵器開発が専門分野らしいわ。

仕事面は凄く優秀で、数々の成果を出してはいるみたいだけど、他人に注目されるのが苦手で、すぐ緊張しちゃうあがり症が、本人にとってもコンプレックスらしいわよ。

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