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#14、今回のターゲット




炎鬼鯉の討伐に成功した、次の日。


私とコロちゃんは、薄暗い洞窟の中にいた。

場所は昨日、炎鬼鯉と戦った湖のすぐ近くで、ガイラの街から迷わず真っ直ぐここまで来れた。

事前情報によると、どうやらこの洞窟はつい最近まで観光地として扱われていたらしく、最奥に光り輝く綺麗な泉があるらしい。

でも、例の如く危険な魔害獣が何処からか湧いてきて、ガイラの街の観光協会がギルドに緊急で討伐依頼を出したんだそうな。


緊急なだけに報酬は大きいけど、害悪指数は1000を超えるらしく、並大抵の賞金稼ぎでは複数人で掛かっても厳しい相手だ。

だけど、そんな強敵相手だからこそ、達人である私の真価が問われるのかもしれない。



「それにしても、洞窟っていうのがこんなに快適な空間だったなんてね。」


コロちゃんの言う通り、この洞窟は観光地なだけあって照明は至る箇所に設置してあり、涼しく、野生の生き物も殆ど見かけない。

しっかりと整備されている証拠だ。


「いや、コロちゃん。それはこの洞窟が特別なだけですよ。

普通、洞窟というのはもっとジメジメしてて息苦しく、暗くて前も見えないし、蝙蝠やネズミや虫なんかもウジャウジャいますからね。

不衛生で、特に蝙蝠のフンなんかには未知の病原菌が潜んでたりもします。


…この洞窟は、そういった心配はしなくて大丈夫そうですけど。」


「うわぁ…快適な洞窟で良かった。」


ラスコフ村の賞金稼ぎギルドで働いていた頃、村近くの洞窟まで魔害獣退治に出向いた事がある。

こんな人間の手で整備された小綺麗な洞窟よりも、遥かに劣悪な環境の魔窟だった。


そんな魔窟で害悪指数100程度の魔害獣を狩って小額の報酬を得ていた過去を思い返して、今と比べてみると何だか馬鹿らしくなってきた。

これからはもっと、魔害獣の生息地も気にするようにしよう。

一応私だって女子だし、汚い所は御免だ。




洞窟内を進む事数分で、開けた場所に出た。

ここは洞窟の中間地点らしく、辺りに鉄製のテーブルや椅子がちらほら配置されているので、休憩所として利用されていたのが伺える。


「あれは、お土産屋さんの屋台かしら。」


「飲食店の屋台もありますし、本当に洞窟なのか疑わしくなりますね。」


本来なら多くの観光客とそれを狙った商売人達で賑わっているのだろうけど、今は物音一つせず無音の静寂に包まれている。





だからこそ、ピチョンと水滴らしき物が垂れる音にも、気付く事が出来た。




「……水滴?」


ふと頭上を見上げた私は、瞬時に臨戦態勢へと突入する。


「コロちゃん、気を付けて下さい!

天井に魔害獣がいます!」


「えッ!?ウソッ!」


コロちゃんも頭上を仰ぎ見て、天井の鍾乳洞に貼り付く異形を確認する。





ゲルゲイザー、害悪指数1025KC。


濃い緑色でゲル状の不定形な体を持つ、気持ち悪いスライムモンスター。

そして何よりの特徴が、その柔らかボディからは無数の目玉が生えている事だ。


その異様な姿は、多くの人に生理的嫌悪感を抱かせるだろう。

多くの目玉が私とコロちゃんに視線を送り、ゲル状ボディがグジュグジュボコボコと気持ち悪い音を立てて泡立っている。


「来ます!」


私が身構えると同時に、ゲルゲイザーの体が一斉に分裂!

ボトボトと大量に地面に落ち、分裂した体一つに目玉が一つずつ付き、それぞれが独立した意思を持っているのか、多方向から私達に殺到してくる。


ざっと見ただけでも、百体位はいるかもしれない。

地面を這いずりながら移動する様は、まるでナメクジのよう。

ただナメクジと違う点は、ネズミのように機敏で素早い点だった。



「アディーナ、上からも来るよ!」


「任せて下さい!」


私は割り箸を割り、衝撃波で迫る分裂体を吹き飛ばす。

しかし、あくまで先鋒で切り込んできた分裂体を吹き飛ばしただけで、すぐに後続の群れが押し寄せてくる。




「『割り箸殺法・女郎花おみなえし』」


私の姿が消えたかのように飛び上がり、それと同時に分裂体が何体も刻まれる。

ここから更に、着地しながら追加攻撃しようとした、その瞬間だった。


「ぐッ!?」


天井に張り付いていた一体が、私の不意を突いて体当たりしてきた。

どういう原理でその瞬発力が生み出されているのか疑問に感じる位に、重い一撃だった。

連撃に失敗した私は、地面にしたたかに墜落する。



「いっつぅ…」


打ち所が悪かったのか、すぐに立てない。

そんな隙だらけな私に、ここぞとばかりに分裂体が殺到して来る。



「このッ!寄るなァ!」


果敢にも、コロちゃんが私の前に立ち、盾となるように戦っている。

コロちゃんの武器は、扱いやすいシンプルな手槍。

分裂体を貫き、斬り裂き、何とか凌いでいるものの、コロちゃんの戦闘力は他のクローン兵と同格。

どう頑張っても、害悪指数1000を超える魔害獣に、勝てる見込みは無いに等しい。


しかも、倒した分裂体は少し経つと崩壊した体が寄せ集まり、元通りに再生してしまっている。

さっき私が倒した個体も、とっくに再生している事だろう。



「すみませんコロちゃん、後は私に任せて下さい。」


私は痛みを堪えて立ち上がり、直近の分裂体を蹴散らしながらコロちゃんに声を掛ける。



「…う、うん。でも、露払い位ならアタシも手伝えるから!」


「それじゃあ、無理しない範囲でお願いします!」


事前に調べた情報によると、ゲルゲイザーの無数の目玉は殆どがフェイクで、一つだけ本物の目玉が存在し、それが脳の役割も果たしている司令塔らしい。

つまりは、それこそが奴の弱点。



「コロちゃん!分かってると思いますが、この中に本物の目玉が一つだけ潜んでる筈です!

見た目じゃ判別出来ないので、怪しい動きをしている目玉があったら、すぐに教えて下さい。」


「オッケー了解!」


前線で攻めて来る分裂体は、十中八九全部が偽物。

司令塔は、安全な後列で高みの見物をしているのが定石だ。


私とコロちゃんは、断続的に特攻して来る分裂体を何とか捌きつつ、奥に控える敵にも目を光らせる。

その動作で集中し過ぎた所為なのか、コロちゃんが足元に迫っていた分裂体の残骸に気付かず、踏み付けてしまった。


「うわッ!?」


「コロちゃん!」


「へぶッ!」


私が手を伸ばすも間に合わず、見るからに滑りやすそうなゲルボディを踏み付け、ズルリと盛大に転倒してしまうコロちゃん。

その勢いで、コロちゃんの持っていた手槍が持ち主の手を離れ、明後日の方向へ飛んで行ってしまった。



「アタシの武器がッ!」


ギャグみたいに見事な放物線を描いて、不運にも着地点にいた分裂体の目玉を貫き、地面に突き刺さった。

その瞬間だった。



「あれ?」


私達を取り囲んでいた分裂体の大群が、一斉に異常な行動を取り始めた。

その場でグルグル回転し、悶え苦しむようにのたうち回った後、蒸発するように溶けて消えてしまった。

後に残されたのは、コロちゃんの手槍の側でコロコロ転がる魔核のみ。



「これって、もしかしてさ…」


「…コロちゃんの想像してる通りだと、私は思います。

ちょっと信じ難いですが…。」


苦笑いを浮かべる、私とコロちゃん。

この状況が指し示すのは、コロちゃんの手槍が命中した分裂体が、実は本体だったという事実だ。


何という豪運。



「まあ、偶然とは言え、結果オーライです!

凄いですねコロちゃん、貴女のお手柄ですよッ!」


私はコロちゃんの両手を握り締め、激励する。

コロちゃんは少し呆然としていたけど、状況を把握し、受け入れたら、初めての魔害獣討伐に喜んでいた。

うん、今夜は赤飯を炊こう。









◆◆



そしてまた次の日。


私達はマックス君の馬車に乗り、ラスコフ村からガイラの街に来る際に通った森へとやって来た。

別にラスコフ村に行く訳ではなく、用事があるのはこの森だ。

正確には、ラスコフ村への道から外れたルートの先にある、この森の奥地。

そこに潜むと言われている魔害獣が、本日のターゲット。


そいつも害悪指数はゲルゲイザー同様1000を超えているので、報酬はなかなかの金額。


「今回は、コロちゃんに遅れを取らないよう、気合入れて頑張りますよ!」


「いや、だから昨日のは偶然だから。」


「運も実力の内って、どっかの誰かが言ってた気がします。」


「あーはいはい。」


軽口を叩きながらくつろぐ私とコロちゃんを乗せて、馬車はただひたすらに道を進む。

前に通った道は、この森を棲み家にしている魔害獣の縄張りを避けて作られた、比較的安全な道だった。

それでも、あのアルパカザリガニのように出る時は出る。


コロちゃんがギルドで集めた情報によると、今までこの森最強の魔害獣はアルパカザリガニだったのが、最近になってターゲットの魔害獣が現れた事で最強の座を奪われ、現在に至る。

つまり、この仕事をこなす事で、この森のトップ2がいなくなり、安全度が大幅にアップする見込みだ。

イコール、近隣のラスコフ村の平和にも繋がる。


第二の故郷に、ささやかな恩返しという訳。



正規の道を外れてからしばらく経過した。

ギリギリ道と言えるような黒土の道を進み続け、ふとマックス君が立ち止まった。


「あれ、マックス君。どうかしました?」


マックス君は前方を見据えながら、低い声でいなないている。

マックス君の視線の先を追うと、彼の伝えようとしている事が理解出来た。


「うわぁ…」


コロちゃんも同じ物を見て、苦虫を噛み潰したような顔をしている。



それもその筈、少し離れた道の真ん中で、大きな猪の死骸が転がっていたからだ。



私とコロちゃんはマックス君を近くの木に留め、横たわる巨体に近付く。



「死んでから、そんなに経過してないみたいですね。

見て下さい、この傷口。」


「グロい…」


「じゃなくてほら、よく見て下さい。

凍ってるでしょう?これ。」


猪の外傷はたった一つ。眉間に空いた穴だった。

何かに貫かれたであろうその穴は、何故か凍結していた。


「凍り付いてる部分がまだ溶けずに残ってるという事は、つい先程殺害された可能性が高いです。

とどのつまり、犯人はこの近くにいるッ!」


「何で急に探偵気取り?」


「やってみたかっただけです。」


「でしょうね。」


「捕食目的ではなさそうなので、襲われたところを返り討ちにでもしたんでしょうか。」


それにしても、こんな巨大な動物を一撃で仕留めているという事実から、相手の強さがこう、形として分かりやすく伝わってくる。

そして何より、この異質な凍傷こそが、犯人像を浮き彫りにしているのだ。



「…どうやら、この猪の仇、私達がとらなきゃいけないみたいですね。




……それも、今すぐにッ!」


私は振り向きざま、頭部の数センチ手前まで猛スピードで接近して来た〝何か〟の攻撃を、瞬時に割った割り箸で摘むように受け止めた。


「うわッ、何!?」


「奇襲ですね。失敗させましたが。

それに、ビンゴです。やっぱり、犯人の正体は今回のターゲットで間違いないようです。」


割り箸に摘まれているのは、人間の握り拳程の胴体の甲虫の角だった。



極地カブトムシ、害悪指数1050KC。

白銀の輝きを放つ美麗な外見のカブトムシ。その角からは冷気が溢れ出し、実際摘んでいる割り箸が凍り付いてしまった。

割り箸を侵食するように凍らされるので、侵食が手まで到達する寸前に急いで割り箸を放り投げ、難を逃れる。


「あっぶない…!」


とても危険な能力を持つ魔害獣だ。

しかも猪の頭蓋骨を貫通させている当たり、凍結の能力だけでなく、肉体の頑強さも並みではない筈。

体は小さいけど、決して油断は出来ない。


危険極まる甲虫は掴んでいた割り箸ごと放り投げられ、空中に投げ出された勢いのまま割り箸を手放し、ホバリング飛行する。

そして私に狙いを定めると同時に、闘争本能剥き出しと言わんばかりの突進攻撃を繰り出してくる!


「くッ!」


常人には視認出来ない程の速さで突っ込んでくる白銀の弾丸は、再び私の割り箸に止められる。

そのまま、凍らされる前に側の岩に思い切り叩きつけた。


それでも極地カブトムシの強固な外皮にはダメージが殆ど通らず、怯むことなく飛び上がり、ワンパターンな突進をしてくる。


「仕方ないですね。」


カブトムシの攻撃を、紙一重で躱す。

私に躱されては方向転換し、再び何の工夫もない突進。

躱されては突進。躱されては突進。その繰り返し。


どうやら、戦闘力は高くても知能は低いらしい。


「その突進にも慣れてきましたし、ぼちぼち反撃しましょうか。」


極地カブトムシの攻撃を躱すと同時に、通り過ぎる直前の無防備な体に、強烈な一撃を叩き込む。




「『割り箸殺法・藪柑子やぶこうじ』」


斬るのではなく、貫く。

向こうが刺突攻撃なら、こちらもそうさせて貰うまで。


二本の割り箸を一つに収束し、一点集中高威力の必殺突きを、甲虫の装甲にお見舞いした。

鋭利な槍の如き割り箸は、見事極地カブトムシを貫き、弾丸をも受け付けない鉄の体に風穴を空けた。



「やった!」


カブトムシの生命活動の停止を確認し、一息吐く。

何とか勝てたからいいものの、このレベルの魔害獣に苦戦しているようでは、正直先が思いやられる。

カリュウちゃんに挑む為には、もっともっと強くならなくては。


⚪︎コロちゃんのメモ帳



クローン兵


帝国が戦力として生み出している複製人間ね。ご存知の通り、アタシもその一人よ。

複製人間と言っても、個性はバラバラだし、髪型や私服も自由だし、似てるのは顔つき位かしら。

ちゃんと人権もあるから、帝国軍を辞めて自由に生きる事も出来るわ。

ただ、仕事中の服装だけは直属の上司が決めた装備にしないといけない決まりになってて、上司である達人の趣味や個性が如実に現れてるわね。

複製人間って事は、勿論オリジナルの人間がいる訳で、噂によると帝都の何処かに居るとか居ないとか。

全員が女の子なのは、単純にオリジナルの人が女性だかららしいわよ。

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