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#13、魔害獣ハント




ゴメスさんは両拳を握り締め、熱く語り始めた。


「幽霊……それも魔害獣バンシーがもてなしてくれる、今までに無いホテル!

これは、何よりも強力な話題性になると、私は踏んでいる!

だからこそ、君に頼みたいんだッ!君にしか出来ないんだッ!」


ゴメスさんが、頭を下げてシエルさんにお願いした。

横から見ている私とコロちゃんにも、その本気度がひしひしと伝わってくる。



「うん、やってみたい!面白そう!」


対するシエルさんは、相変わらずノリノリだった。



「…ほ、本当にいいのかい?」


あまりにもとんとん拍子に話が進んでいくので、ゴメスさんがつい聞き返した。


「うん、やる事無くて暇だったし。

お客さんとお話するのも楽しそうだから、そういうのも悪く無いかな、と。

寧ろ大歓迎。」


「よし、そうと決まれば、早速改修業者に連絡だ!

シエル君、待っててくれたまえ!」


ゴメスさんは勢いに任せて、そのまま走り去ってしまった。

あの体型からは想像出来ないレベルの走力だ。


「速い…」




「そう言えばシエルさん、例の秘密はもう別の場所に隠したんですか?」


「ん?ああ、あれ。

あの漫画さ、もう隠さない事にしたの。」



「……え?」


意外な返事を、シエルさんはあっけらかんと言ってのけた。


「…隠さないって、それでいいんですか?」


「うん、いいの。

一度死んだ私が、自我を持った魔害獣として復活出来たのって、凄く運が良いし、これってチャンスかもしれないしね!

だったら、生きてた頃に夢見てた漫画家への道も、もしかしたら歩めるかなって。」


「シエルさん…。」


シエルさんの語る夢に、私とコロちゃんは感動する。


「だから、あの隠してた漫画は、私が漫画家として成功すれば、プレミア付いて高く売れるかもしれないし。」


台無し…



「ま、しばらくはゴメスさんのお手伝いでもしながら、漫画を描いてみようかな。

二人共、本当にありがとうね。」


死してなお、自らの夢を叶えようと突き進む彼女は、もしかしたらとんでもない大器なのかもしれない。










◆◆



「えぇ!?凄いじゃないですかぁ。

バンシーと仲良くなっちゃうなんてぇ、凄く珍しい事ですよぉ?一体何したんですか?」


コロちゃんが一人で賞金稼ぎギルドに赴くと、先日と同じチャラい雰囲気の受付のお姉さんが、驚きながら出迎えてくれた。


「…まあ、色々とあって。」


受付のお姉さんの声が必要以上に大きいので、嫌でも周囲から注目を浴びてしまう。

コロちゃんは目立ちたくないので、身を低くしながら受付のお姉さんと話す。



「でも、依頼はあくまでも〝討伐〟依頼ですからねぇ。

証拠になる魔核も無いし、これはどう見ても討伐したとは言えないんだよなぁ。」


「ぅえッ!?」


痛い所を突かれ、言葉を詰まらせるコロちゃん。




「アハハ、冗談冗談!

手段はどうあれぇ、脅威が取り除かれたんだから有り有り。

魔核は無いけど、依頼主のゴメスさんから先程連絡があったので、ちゃんと報酬は出ますよぉ。ちょっと待っててね。」


受付のお姉さんがヘラヘラ笑いながら立ち上がり、背後にある扉の中へ消える。

少し待つと扉が再び開き、中から封筒を持ったお姉さんが出て来た。


「はいこれ、お疲れ様。」


封筒の中身は、報酬の現金。

コロちゃんはその場で中身を取り出し、紙幣の厚みを感じると共に指で挟みながら慣れた手つきで捲りながら数える。

しっかりと間違いなく受け取った事を確認し、現金を封筒に戻す。


「確かに、受け取りました。

また次回来た時も、よろしく。」


「はいはーい、こちらこそぉ。」


柔和な態度の受付のお姉さんに少し心を許したのか、コロちゃんも終始笑顔だった。












◆◆



「…タダで泊めてくれるアカシさんのビルじゃなくて、この街の宿屋に泊まるんですか?」


再びギルドの側の公園のベンチで待っていたら、戻って来たコロちゃんが宿屋に泊まりたいと言ってきた。

軍資金を工面する為に、わざわざコロちゃんを賞金稼ぎとして登録してまでお金を稼いでいたのに、どういう事なのだろう。


「…だ、だって、こんな目立つ街中で〝どこでも事務所〟を使うのも嫌じゃない。

目立たない場所で使っても、どこで誰が見てるか分からないし。

それに、アカシさんのビルに連日泊まり切りっていうのも、何だか悪いし…。」


コロちゃんの言葉は、明らかに歯切れが悪かった。

確かに言っている事は一理ある気もするけど、本音は違うような、そんな気がする。



「まあ、宿屋はそんな高くないですし、私は構いませんけど。

どうしたんですかコロちゃん。何か、私に言いたい事があるんですか?」


「んん…。」


コロちゃんは小さく唸った後、今度ははっきりとした口調で答えた。




「アタシは、出来ればアンタと一緒の部屋で二人きりで寝たいの!」





人も疎らな公園とはいえ、公衆の面前でそんな事を言われてしまった。

コロちゃんも言った後にその事に気付き、一瞬で顔を真っ赤にする。


「ご、ごめん。アタシ、大声で何て事言って…ッ!」


「いえ、それはいいんですけど…

でも、別に二人きりならアカシさんの事務所でも同じなのでは?」


「あーもう、アンタ本当に分かってないわね!

事務所よりも、宿屋の方が……ほら、何か、いいでしょ!?」


よく分からないけど、コロちゃんに怒られた。


「まあ、私は宿屋でも構いませんよ。」


「うん、ありがと。」




「話は聞かせて貰ったぜぇ!」


突然、低くて荒々しい男の声が、公園に轟いた。


「誰ですか?」


「あ、アンタ達は…ッ!」


見知った人なのか、突如現れた謎の男二人組に、コロちゃんが反応する。



「そこの眼鏡の女は初めましてだな!」


「俺らはアロジム兄弟ってんだ、ヘヘッ!」


スキンヘッドとロングヘアの厳しい兄弟が、ニヤニヤ笑いながら自己紹介してきた。

いかにもならず者って感じだけど、コロちゃんは一体何処でこんな連中と知り合ったんだろう。



「えっと、昨日はありがとう。お陰で助かったわ。」


コロちゃんが何故かお礼を言った。

本当にどういう経緯で知り合ったの?


「フッ、気にするな。同業者を助けるのは賞金稼ぎの基本。新米なら尚更だ。」


「会ったついでに、これをやる。ちょうど余ってたんだ。」


ロングヘアの方の人が、紙切れのような物をコロちゃんに手渡した。

コロちゃんが紙切れを確認すると、目を丸くしていた。



「これ…ッ!?」


「この街の大体の宿屋で使える、割引きクーポン券だ。」


「そいつを使って、少しでも節約をするといい。」


アロジム兄弟は、歯を剥き出しにした笑顔で豪快に笑う。

何なんだ、この人達は。

唐突な親切は、有り難さを通り越して不気味でもある。


「…あの、昨日もそうだったけど、二人はどうしてそんなに親切なの?」


訝しげなコロちゃんが、ハッキリと聞いた。

アロジム兄弟は互いに顔を見合わせてから、コロちゃんの問いに答える。


「…ま、確かに気になるよな。俺も逆の立場だったら、怪しく思うやもしれん。」


「だが、これこそが『助け合いの達人』である、我ら兄弟の生き甲斐!深く気にするな!」


「「さらばッ!」」


それだけ言い残して、アロジム兄弟は俊敏な動きで姿を消した。





「達人だったんだ、あの二人。」


「みたいですね。

帝国軍の人間じゃなさそうですけど、妙な達人もいたもんですね。」


「それ、アディーナが言う?」


何はともあれ、お金が何かと入り用な現状で、割引きクーポンは有り難い。

しかもこれ、よく見たら期間内なら何回でも使えるタイプのやつだ!


あの兄弟、凄く良い人だ。






「ん?」


コロちゃんと一緒に公園を出ようとした瞬間、違和感を感じる。

この感じ、初めてじゃない。

昨日、手配書を見ていた時に感じた違和感と同じものだ。


多分だけど、誰かに監視されているような気がした。












◆◆



宿屋はシンプルだけど綺麗な内装で、私達の疲れを癒すのに最適な環境だった。

外はすっかり日が落ちて、街灯が暗闇を切り取るように照らしているのが窓から見える。


「さて、ゴメスさんの依頼達成で纏まったお金は手に入ったけど、もう少しガッツリ稼いどきたいわね。アディーナ、もうしばらく戦って貰っても大丈夫?」


「お金は幾らあっても困りませんからね。あと数日はガイラの街に滞在して、軍資金を溜め込みましょうか。」


帝都に囚われている家族は心配だけど、焦り過ぎるのも禁物だ。

金が無くては戦は出来ぬ。

という事で、コロちゃんの言う通り、あと数日は魔害獣ハントに精を出そう。


でもその前に、コロちゃんに伝えるべき事を伝えておくとしよう。




「コロちゃん、一つだけいいですか?」


「どうかした?」


「私達、誰かに監視されてます。恐らくは、昨日から。」


「ええッ!?」


動揺するコロちゃん。

連日感じている妙な違和感。その正体は、恐らく何者かの視線。

それも、かなり手慣れているプロの仕業だ。


「落ち着いて下さい。今も見られているとしたら、慌てるような仕草は怪しまれます。

平常心を保って。」


「…う、うん。

もしかして、帝国軍?」


「分かりません。ですが、可能性は高いでしょう。」


だとしたら、丸一日経っても何も動きが無いのが気になる。

ただただ私達を観察しているだけのような、そんな気もする。


「あくまで、私が監視されてる気がするだけなので、確証はありませんが…

一応、用心しておいた方がいいでしょう。」


ただの杞憂だったら良いけれど、こういう時の勘は大抵当たるものだ。

一抹の不安を抱きながらも、私達は明日からの仕事に備え寝る事にした。


意外とすんなり寝れた。














◆◆



次の日。



私とコロちゃんは、ガイラの街の門から草原へと出て、少し南に進んだ先にある湖畔へとやって来た。

コロちゃん手作りのお弁当は、彩りと栄養バランス、そして味。その全てを兼ね備えた、パーフェクトフードだ。

天気も良かったので、湖を望みながら近くの岩に腰掛け、二人でお弁当を食べる。



「まるでピクニックですねぇ。」


「うん。たまにはこういうのも良いわね。」


ほのぼのとしながらタコさんウィンナーを頬張るけど、本来の目的はピクニックではない。

賞金稼ぎギルドに張り出された依頼で、この湖に巣食う魔害獣を倒しに来たのだ。


だと言うのに、自然豊かな湖畔は平和そのもので、魔害獣の気配など微塵も感じ取れない。



「本当に、この湖にいるのかしらね、魔害獣。」


「確かに、一見何の変哲もない湖ですが…」


私はお弁当を食べ終わると同時に、湖に少しだけ足を浸し、お弁当を食べるのに使用していた割り箸を縦に振るう。

割り箸から放たれた斬撃が湖面を割り、十数メートルに渡って大きな水飛沫を上げた。



「う〜ん、やっぱり使用済みの割り箸だと、大した威力が出ませんね。」


「アディーナ、湖に何かいるッ!」



事前の情報通りだった。

普段は姿を隠しているけど、住処である湖に異常が発生すると即座に姿を現し、主自ら異物を排除しに来る。


「よし、出ましたね。」


全長は恐らく十メートル以上はあるだろうか。

全身が地獄の業火のように赤黒い巨大な鯉が、遠くの湖面から顔を覗かせている。




炎鬼鯉、害悪指数910KC。


ギルドで指名手配されている、バンシーよりも危険な魔害獣の一体。



「コロちゃん、巻き込まれないように気を付けて下さい!」


「う、うん!」


私達の戦意を嗅ぎ取ったのか、禍々しい体色の鯉は猛スピードでこっちへ泳いで来る。

激しい水飛沫を巻き上げ、迷う事無く真っ直ぐに!



炎鬼鯉が私達の目の前まで接近したかと思うと、途端に湖中へと潜行。

直後、派手な水飛沫と共に水面と垂直に飛び跳ね、私達目掛けて火球を吐き出した。


炎鬼鯉は、その名の通り炎を自在に扱う事が出来る魔害獣。

水棲生物なのに炎を操るとか、色々と不便そうな気もする。


「『割り箸殺法・梛筏なぎいかだ』」


私は新しい割り箸を割り、衝撃波を火球に当てる。

普段の放射状の衝撃波と違い、攻撃範囲を一点収束する事で威力を特化させた衝撃波だ。

砲弾のような衝撃波は火球を粉砕し、その奥の炎鬼鯉にも命中し、湖へと撃ち落とす。



私は湖に向かって駆け出し、湖面に浮かぶ木の残骸を飛び石代わりに、炎鬼鯉の背面へと飛び移る。



「『割り箸殺法・渦紫陽花うずあじさい』」


炎鬼鯉が水中に逃げるよりも早く、私の割り箸が巨体を斬り裂く。



「熱ッ!?」


致命傷を受けた炎鬼鯉が、最後の抵抗と言わんばかりに体を赤熱させる。

あまりの高温に周囲の水が蒸発し大量の水蒸気が巻き上がる中、私も高熱に耐えられず湖に飛び込む。

そこに迫る、炎鬼鯉の大口。


「くッ!」


瞬時に割り箸を取り出し、炎を吐き出す前に再び衝撃波を撃ち込もうと思ったけども、その必要は無くなった。


その直前に、炎鬼鯉は息絶えていたのだ。



「フゥ…」


ホッと一息ついてから、水面に浮かぶ魔核を回収してから、コロちゃんの元へ戻った。



⚪︎コロちゃんのメモ帳



シエル・マジア


死後、〝自分の秘密を守りたい〟という未練が強過ぎるあまり、悪霊となり、そして魔害獣バンシーと化した女の子ね。

まあ、アディーナとの戦いを経て、結果的に色々吹っ切れたみたいで良かったけど。

だからと言って魔害獣になった彼女は成仏する事も出来ないから、これからは永遠とも言える時間を活用して、漫画を描き続けるのかしら。

ちなみに、シエルちゃんの死因は餅を喉に詰まらせた窒息死らしいわよ。

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