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#11、魔害獣バンシー



館の地下への入り口は、地図を参考にしたらすぐに見つかった。

というか、一階廊下の突き当たりの鉄扉に、〝地下室入り口〟と思いっきり書いてある。

鍵も掛かっていない。


「よし、行きましょう。」


「ち、地下室ぅぅ……」


「ほら、怖がってないでさっさと行きますよ。」


「こ、怖がってなんかないからッ!」


未だに強がっているコロちゃんを引き連れ、扉を開けた先に伸びる地下への階段を降りて行く。

コロちゃんは今のところ、ぶっちゃけ足手纏いにしかなっていない…。







地下室に着くと、エネルギープラントらしき物体はすぐ見つかった。

球状のガラスやゴチャゴチャした機械が沢山設置されていて、一見起動させるだけでも苦労しそうだ。


まあ、この時の為のコロちゃんだ。



「コロちゃん、任せましたよ。」


「う〜ん、あんまり期待しないでよ。」


コロちゃんは、少しだけど機械弄りが出来る。

ラスコフ村に来る前に、少しかじっていたそうだ。


幸い近くの棚に工具箱もあったので、コロちゃんは道具を取り出してガチャガチャ機械を弄り始める。


数分待っていたら、コロちゃんの「よし。」の一声と共に、暗黒世界だった地下室が一気に光に満ち溢れた。


「わ。コロちゃん流石ですね。」


「ん〜まぁ、構造が割と簡単で、アタシでも扱えるレベルだったから。」


どちらかと言うと機械音痴な私には、こんなの複雑そうなのは見ただけでチンプンカンプンだ。


「でもこれで、コロちゃんの恐怖も緩和されますね。良かった。」


「うん、本当。

じゃなくて、別に怖くなんてないしッ!」


「いやだから、もう強がっても無駄ですってば…。」










◆◆



私とコロちゃんは地下室を出て、真っ直ぐに二階へ上がる階段まで来た。


「それじゃ、行きますよ。」


「……ぅ、うん…」


明るくても怖いものは怖いのか、コロちゃんは身を縮めて必死に恐怖に抗っているようだ。

その結果、もう私の服を引っ張るなんて事は無くなった。


私達は慎重に階段を上がりきるけど、まだ何も異常は起こらない。

二階に上がった先は左右に廊下が伸びていて、分かれ道となっていた。



「確か、階段を上がって右に曲がって、その先の廊下を道なりに歩いて行けば…」


ふと右手側の廊下に目をやると、一瞬妙な物が見えた。

その廊下はすぐに左側に道が曲がっているのだけれど、その曲がり角の向こう側に長い髪の毛のような物体が消えていくのが確認出来た。


「…今のって」

「ギャアアアアァァァァァ出たァァァァァッッ!!」


コロちゃんも視認してしまったのか、盛大に悲鳴を上げてしまう。

ショックのあまり私の体に抱き付いて、やたら強い力で離れる気配が無い。



「コロちゃん、怖いのは仕方ないですけど、お願いですから冷静にして下さい。

恐怖に囚われたら、アンデットの思う壺です!」


半パニック状態のコロちゃんは、涙目で私を抱き締めたまま、無言で首を縦に振りまくる。

怖がるコロちゃんを説得し、何とかコロちゃんが離れてくれたその時だった。



「…………。」







廊下の方に向き直った私とコロちゃんの前に、見慣れない風貌の少女が立っていた。

私に気取られる事なく唐突に出現したその少女は、一目でこの世の存在ではないと分かる程に肌が青白く、まるで生気を感じられない。

桃色の長髪に、赤く大きなリボン。

フリルがふんだんに付いた、黒いゴスロリ風のドレスを着ている。


しかし、そんな可憐な風貌とは裏腹に、彼女の瞳からは強い殺気が感じられる程、こっちを睨み付けている。


「で、ででででで、出た出たぁ出ちゃったァァァァッ!?」


「ちょ、コロちゃん落ち着いて。」


「キャアアァァァァァァッッ!!」


その悲鳴は、コロちゃんのものではなかった。

予習した魔害獣バンシーの特徴といえば、尋常じゃない悲鳴による強烈な音波攻撃。

それが今、目の前のご本人から直接放たれた。



「くっ…!」


あまりの衝撃に、私とコロちゃんは弾き飛ばされ、床に叩きつけられる。

頑丈な私はともかく、コロちゃんは今の一撃だけで結構なダメージだろう。

案の定、まだ立つ事も出来ずに悶絶していた。


私はすぐに立ち上がり、バンシーに向き直る。

少女の姿をした幽鬼は、追撃するでもなく、こちらを見据えながら様子を伺っているように見える。



「コロちゃん、立てますか?」


「…うん、何とか。」


私はコロちゃんの手を取り、辛うじて起き上がらせる。

その間も警戒はしていたけども、バンシーが襲って来る気配は一向に無い。





「出てって。」


不意に、バンシーが喋った。

予想外の出来事に、私達は衝撃を受ける。


人語を喋る魔害獣なんて、私は初めて見た。



「…この先には、貴女達が決して見てはいけない物がある。

だから、絶対に行かせる訳にはいかないの。」


淡々と喋っているように見えて、その瞳には他者を徹底的に排斥せんとする、強い意志が込められている。

その異常なまでの気魄に、私も思わず息を呑んだ。



「私達が見てはいけない物、ですか…。

それは一体、なんなんですか?」


「貴女達が知る必要はない。」


語気を強めて、睨み付けてくる。

周りに置かれている高価そうな調度品や絵画が、カタカタと音を立てて揺れている。

噂に聞くポルターガイストというやつかな。


「う、動いて…ッ!ヒィッ!?」


コロちゃんが、私の背後に隠れて怯えている。



「コロちゃん、ここは一旦退きましょう!」


間もなく、あの強烈な悲鳴攻撃の第二波がくる。

殺傷能力は低いとはいえ、無策で突っ込んでも弾き飛ばされて意味がない。


「わ、分かった!」


コロちゃんが私の手を掴み、共に階段を駆け下り、エントランスまで戻る。

またしても、バンシーが追って来る気配はない。

完全に私達を追い払う事だけが目的のようだ。



「…ご、ごめんアディーナ。アタシ、足手纏いになってた。」


「気にしないで下さい。誰だって、苦手なものの一つや二つ、あるものですから。」


「う、うん…。」


今度は強がらず、素直に認めてくれた。

申し訳無さそうな顔してるし、コロちゃんなりに反省してるんだろうか。

私にしがみついたり、真っ先にパニックになってしまった事を。


「無理しないで、外で待っててもいいんですよ。」


「大丈夫、さっきので冷静になれたから、今度は役に立ってみせる。

それに、外で一人で待つのは、それはそれで怖くて嫌だ。」


コロちゃんの顔つきが、急に凛々しくなった。

痩せ我慢なのかもしれないけど、さっきよりは全然頼もしく見える。



「よし、それじゃコロちゃん。私に策があります。聞いて下さい。」


「うん!」


私は地図を広げて、コロちゃんと覗き込む。



「さっきのバンシーの言う事には、彼女はあの廊下の先にある何かを守っているそうです。

そして、あの廊下には部屋が三つ。ゴメスさんの話によると、バンシーはある部屋に近づくと出現するとの事。」


「ある部屋?」


私は、ゴメスさんに言われた部屋を指差す。

三つ並んでいる部屋の内、真ん中の部屋だ。


「この部屋に、私達が決して見てはいけない何かが隠されているそうです。」


「成る程。でも、どうやってその部屋に行くの?

廊下から行ったら、また弾き返されちゃうでしょ。」


「安心して下さい。

それを攻略する為に、コロちゃんにはミッションを一つお願いします。」


「……ミッション?」












◆◆



「…何でまた来たの?

出てけって言ったでしょ。」


二階の廊下に戻ると、当然ながら再び番人であるバンシーと対峙する。

冷たい瞳で見据えられて、ついゾクリと背筋に寒気を感じてしまう。


「いや〜、別に肝試しで来た訳じゃないんで。

仕事なんですよ、ビジネス。」


「つまり、私を討伐しに来た賞金稼ぎって訳ね。私、魔害獣だからね。」


「ご名答。」


バンシーが、つまらなそうに溜め息を吐く。



「さっき、もう一人いたよね?」


「貴女にビックリして、逃げて帰っちゃいました。

彼女、怖がりなので。」


「ふーん。」


バンシーが、私の目を見て睨んでくる。



「だったら、貴女にもちゃんと帰って貰おうかしら。

今度は、弾き飛ばすだけじゃ済まないかもしれないわよ。」


周囲の空気がピリピリと張り詰め、バンシーの長い髪がざわざわと波打っている。



「その前にもう一度聞かせて下さい。貴女はどうして、あの部屋を守っているんですか?


……いえ、〝生前の貴女の部屋〟を!」


私の言葉を聞いて、バンシーは驚愕と怒りに表情を歪ませる。




「どうして、その事を…ッ!」


「その反応、図星みたいですね。」


私は、バンシーの負のオーラをひしひしと感じながらも、冷静に喋り続ける。


「シエル・マジアさん。

それこそが、今や魔害獣バンシーに成り果てた、貴女の本当の名前です。」


「……ッ!」


動揺が見える。

どうやら、これも当たりのようだ。


ゴメスさんから貰った地図。

それに記されたバンシーが守っている部屋には、ハッキリとシエルの部屋と書かれている。

そして、この館にかつて住んでいた一族の苗字は、マジア。


抜かりない私は、夜になるまでの間に下調べはきちんとしておいたのだ。




「名前を呼ばれたのは、久し振りね。本当に久し振り。

でもだからといって、ここを通す理由にはならない。今すぐ帰って。」


予想通り、名前バレした程度じゃ道を空ける理由にはならない。

なら次は、下調べで手に入れた情報を一気にぶつけていく。



「貴女が亡くなった後、残された家族は遺品整理をしようと貴女の部屋に近づいた。

でも、それを魔害獣化した貴女が追い払った。」


「五月蝿い。」


「貴女のご家族はこの館に住んでいられなくなり、曰く付きの物件として土地ごと売り払ったそうですね。」


「五月蝿い。」


「そうまでして、守り抜かないといけない秘密が、貴女の部屋にはあるという事です。

ここまで来るとどんな秘密なのか、実に気になりますねぇ。」


「五月蝿ァァァァいッッ!!」


再び発せられた、悲鳴攻撃。

私は両手で耳を塞ぎ、吹き飛びそうになるのを必死に堪える。

さっきよりも警戒していた分、何とか踏み留まる事が出来た。


このままじゃ反撃出来ないけど、悲鳴攻撃も永遠に続けられる訳でもない筈だ。




「フゥ…フゥ…」


案の定、一定時間堪えたらエネルギー切れを起こし、息を切らしている。

アンデットなのに息切れするのは変だと思うけど、疲労とエネルギー切れは別物だという事だ。


魔害獣は、原動力である魔核からのエネルギー供給によって、今の悲鳴攻撃のような特殊な攻撃をしてくる場合がある。

当然ながらそのエネルギー供給にも限りがあり、目の前のバンシーのように絶え間なく悲鳴を上げていれば、すぐにエネルギーが切れるという算段だ。

お陰で、頭が結構痛いけど、それは我慢。




「もう終わりですか?

なら、ぼちぼち反撃させて貰いますね。」


私は、獲物である割り箸を取り出し、達人としての力で割る。


「なっ…」


「遅いです。」


バンシーが反撃に転じる間も無く、私は割り箸を眉間に寸止めで突き付ける。

あまりにも反応が遅いので、恐らく普段から悲鳴攻撃頼りで他はからっきしなのだろう。


「…こ、このッ!」


「アンデットに攻撃が通じる聖水を塗ってあります。

動くのはオススメしませんよ。」



「……だったら、早くトドメ刺してよ。あの部屋に入られる位なら、私は死を選ぶ。」


「いや、もう死んでるじゃないですか。

貴女の部屋に、一体何があるんですか?」


「…それだけは、絶対に言えない。言ったら、私の命が無い。」


「だから元々無いじゃないですか。」


これ以上の問答は無意味そうなので、そろそろ〝トドメ〟を刺そう。




「コロちゃーん、出て来ていいですよー!」


私は、大声でそう叫んだ。


「あ、うん。」


「……えッッ!?」


コロちゃんが出て来たのは、例のバンシーが守っている部屋だった。

勿論、バンシー本人は予想だにしない事態を前に大きく動揺している。



「何か、変わったものはありましたか?」


「えっと、何か怪しい箱があったから取り敢えず持って来たけど…。」


コロちゃんが、マル秘と大きく書かれた、いかにも怪しさ満点の箱を手にしていた。

それを目にしたバンシーが、血相を変えて大声を出す。



「やめてェ!それだけは見ちゃダメェ!!」


先程までの無感情な雰囲気は何処へやら、バンシーは涙目になりながら大声を出す。


「しまった!」


私が迂闊だった。

ヤケになったバンシーは残るエネルギーを振り絞ったのか、悲鳴の衝撃波で割り箸を弾き飛ばす。

そのままコロちゃんの方へ脇目も振らずに飛んで行き、箱を奪うように飛び掛かった。



「キャッ!?」


でも、結果的に私の心配は杞憂に終わった。

幽体であるバンシーは箱とコロちゃんをスルリとすり抜け、そのまま通り過ぎてしまう。


ただ、コロちゃんは驚きのあまり尻餅をつき、箱を床に落としてしまった。

その箱は落下の衝撃で開いてしまい、ノートのような物が何冊も零れ落ちた。


⚪︎コロちゃんのメモ帳


バンシー


害悪指数870KC

この世に未練を持ったまま亡くなった少女の霊が、怨念により悪霊化。

そして、その少女の悪霊が稀に魔害獣化するケースがあって、それこそがアンデット型魔害獣のバンシーね。

衝撃だけで人を吹き飛ばす程の、強力な悲鳴攻撃が特徴的。

普通のバンシーは冷酷かつ好戦的で、生者を見かけたら即殺しに行くような凶悪な魔害獣なんだけど、私達が出会ったバンシーは少し違うみたいね…。


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