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2-13 ガウンムアからツイーネへの侵攻  その4 トルグとサラ編


 ツイーネの首都の攻略は熾烈を極めた。

高い城壁をくうで飛び越え門を開けてくるだけなのだが誰も帰ってこない。


 壁の内側に降りたとたんツイーネ側の魔法部隊が一斉に攻撃を加える。

城壁にはバリスタが据え付けられ石や丸太ほどの巨大な矢が飛んでくる。


「攻城兵器を守りに使うとは。なるな、人間共」

「ヴァレリ中将、どうしますか?」

「まずは城壁の上を綺麗にしようか。三人一組で一つの兵器に当たれ。

二人が敵兵を相手にしているうちに一人が燃やしてしまえばいい」


 だが各兵器一つに対し魔法使いが数人護衛についている。

巨大兵器の破壊は遅々として進まなかった。

「ええい、なら五人一組でかかれ!

これ以上損害を出せば貴様ら全員オークの餌にするぞ!

門は外側から壊せんのか?」

「今やってます!」

土魔法で巨大な岩塊を当て続けているのだが、

分厚い鋼鉄製の扉は多少へこんだくらいでびくともしなかった。


「おい、ボイド!見てないでなんとかしろ!」

「では中将閣下、数人土魔法使いをお貸しください」

「おう、好きなだけ連れて行け」


 ボイドは一度空くうを使い兵器が届かぬ高さから城壁の内側を観察した。

「ここから数人壁の向こう側に岩塊を射出してくれ。

最初は当てずっぽうでかまわん。

上空から観察した者が修正を加えてやってくれ」


 しばらくすると城壁の内側に人がまばらな地帯が出来てきた。

「よし、くう部隊は一度上空に上がってから敵が薄い地点に降りて石弾を討ちまくれ。

門の内側を確保せよ!」


「門が開いたぞ!」

一斉に兵士達と魔物を連れたテイマー達がなだれ込む。

後は殲滅するだけだ。


 ヴァレリ中将が上機嫌で叫ぶ。

「ボイド上級尉官、よくやった!正式にウチの部隊に来ないか?」

「有り難きお言葉、しかしグレイン少将と交渉してください」

「喰えない奴よのう」

「では私も城内に行って参ります」


~~~~~~~~


 俺、トルグと妹のサラはすでに王城の近くまで来ていた。

王城の守りはさらに強固で城壁戦よりも困難を極めるだろう。


「ボルド隊長!こっちです」

サラがボイド隊長を呼んだ。

「二人ともご苦労。その格好は?」

俺とサラは王城で使われている使用人の格好をしていた。

「これで王城に侵入します。王族は全員籠城しているようですので

目当ての王子を連れて逃げます」

「そうか、上手くやってくれ。場所は報告のあったあそこか?」

「そうです」


 サフラス王国との国境沿いにある寂れた温泉地のさらに奥に

人里からほぼ隔絶された集落がある。

そこまで行けば追っ手も来ないだろうと考えたのだ。

「中将の興味はルド王国に移っている。

サフラスは魔素が少ないので大部隊での作戦には不向きだ。

おそらく山脈側は無視されるだろう。

そこも危なくなったらサフラス側に亡命させてやれ」


 夜になった。

進入経路は決めてある。北側の水路は幅が広く深い。

泳ぎ着いたとしても高さ30mはあるであろう垂直の壁が待ちかまえている。

そこは比較的守りが薄い。

だがくう使いには無意味な構造だ。


 俺とサラは難なく王城に侵入した。

巡回の兵士が怒鳴りつけてくる。

「おい、貴様ら!使用人がこんなところでなにをしている!」

「ひっ、すいません!僕たち新入りなんで道に迷っっちゃったんです。

厨房はどっちですか?」

「なんだ新入りか。大変な時に城に来ちまったな。

そこの階段を一階まで下りて行き廊下を右に行けば他の使用人がいるから

そいつに聞きな」

「ありがとうございます!」


「兄様、殺さなくていいんですか?」

「それができりゃ楽なんだがな」


 俺たちは言われた階段を下りていき厨房に行く。

王族用と思われる豪華なワゴンを押している女中に尋ねる。

「あの、僕たちランス王子様のお世話に廻れと命を受けたのですが」

「あら、そうだったの。担当の女中が登城してこなかったので替わりに派遣されたのね。

それじゃああっちのワゴンを押して付いてきて頂戴」


 俺たちはワゴンを押して女中の後をついて行った。

重厚なドアの前でいったん止まる。

「私は執務室に入るからここまでね。

あなたたちはアソコのドアを三回ノックしてちょうだい。

ランス王子の付き人が開けてくれるわ」


 言われたとおり三回ノックする。

内側から鍵がはずされる音がしてドアが開いた。


 ワゴンを押し二人で中に入る。

ランス王子は机に向かって書き物をしていた。

女中が二人いるだけで護衛はいなかった。

入れてくれた女中がドアを閉めたのを確認し俺がドア側の、

サラが王子の近くにいる女中の背後に現れ手刀で気絶させた。


「ランス王子、助けにきました。城を出ましょう」

ランスは机に向かったまま無言だ。

「あの、王子?」

「うるさいなあ、今勉強中なの」

「えっと・・・魔人軍がそこまで迫ってきてますので逃げましょう」

「君たち誰だい?使用人の格好してるけど違うよね?」

王子はやっと筆を置きこちらを向いた。


 その時隣の部屋から人が入ってきた。

「母上だ。殺すなよ」

王子が即座に言う。


 気絶させた女中も起こした。

全員が俺に注目している。

「魔人軍は容赦しません。この城に居る者は一人残らず殺されるでしょう。

我々はとある方の命を受け王族の一人を逃がすためにやってきました。

ランス王子には生き延びて貰います。なにか質問は?」


 ランスの母が口を開いた。

「どうかよろしくお願いいたします。

一人でも生き延びればツイーネの再興も適うでしょう。

でもなぜランスなんです?」


 ま、適当に選んだ。

とは言えずに口ごもっているとランスがしゃべり始めた。


「国王陛下である僕のおじいちゃんには二人の子供がいる。

長兄である僕の叔父と次男である父だね。

叔父は次期国王だし三人の息子がいる。

僕は一人っ子だ。

王位継承権は一応あるが目は薄い。それに野心もない。

僕よりも従兄弟達を救った方が良いのではないか?」


 そうだったのか。なにか適当な事を言っておこう。

「だからこそです。継承順位が高いほど狙われやすいでしょうね。

王子、あなたが生き延びてください」


 ランスの母がなにかを取り出した。

紋章の入った短剣だ。

「ランス、これを持ってお行き。王位継承権のある者の証です」

「母上、僕だけ逃げるわけには行きません。

僕もここで皆と一緒に戦いま・・・・・うっ・・・」

サラがうなじに手刀を入れ気絶させた。


 念のため確認する。

「殺してないだろうな?」

「兄様、いくら私でも空気読みます」


 俺は王子を担ぎ上げた。

外が騒がしくなってきている。

ヴァレリ中将は夜襲を命じたのだろう。

「もう時間がありません。行きます」

ランスの母が頭を下げる。

「どうか息子をよろしくお願いいたします」


 俺たちは廊下ではなくベランダに出た。

王子を担いだまま空間を繋ぎ攻城がなされていない北の水路沿いの通りに行く。

「サラ、西はどっちだ」

サラはごそごそと懐をあさり地図を出す。

「あっち」

「よし、行くぞ」


 俺たちは戦禍に飲まれる王城を後にし、

予定してあったサフラスとの国境沿いにある集落を目指した。


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