2-14 魔人の国のお姫様 アケミ編 その1
マンゴーによく似た果物を手に取った。
美味しそうに熟れている。
「おじさん、これ頂戴」
「へい、姫様。お代は結構ですよ。
その代わり、へへ。握手してくれませんかね」
店主のおじさんが照れながら言う。
「握手ぐらいお安いご用よ。でも代金はちゃんと受け取ってね。
魔王様からもちゃんとオカネ払うように言われてるの」
店主と握手し代金を払って店を出る。
「あ!姫様だ!」
小さな子が私を指さして叫んだ。
釣られて周りの大人達も一斉にこっちを見る。
「ほんとだ、姫様こんにちは!」
「え?姫様なの?」
「そうよ、クビにかわいいチョーカー巻いてるでしょ。
あれが目印」
「私初めてお目にかかったわ。噂通りかわいい!」
「あ、あはは。どーもー」
軽く手を振ってその場を離れる。
クルトフでの戦闘中にさらわれて魔人の国まで連れてこられてから
1年近くがたっている。
あの時はいつもなら大の男が数人掛かりでかかってこようとも
ひねりつぶせるだけの自信はあった。
しかし一瞬の隙を突かれ奴属の首輪を巻かれてしまった。
巻かれた瞬間に力が出なくなってしまったのだ。
その後変な臭いの布を口に当てられ気絶させられ
魔人の国まで連れてこられたのだ。
到着してからまた気絶させれている間に首には
新たなチョーカーが巻かれていた。
黒い帯状のそれの真ん中には宝石のように赤く光る
魔石が取り付けられている。
どうやら腕力を普通の女の子程度に抑える効果があり、
魔人の国から出ようとするとチョーカーが締まって
クビが落ちる仕組みになってるらしい。
自分で取り外そうとしても締まるそうだ。
そしてその後、魔王と会ったのだ。
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「お入りください、こちらに魔王様がいらっしゃいます」
やけに丁寧な口調で魔人が私を魔王が待つ部屋に案内した。
この魔人だけではない。
だれもが皆丁寧にそしてにこやかに接してきたのだ。
捕虜と言うよりもお客様扱いされて私はとまどっていた。
だが魔王の顔を見た瞬間、なるほどと思った。
魔王は私にそっくりの外見、いや似ているなんてレベルじゃなくて
『彼女』は私そのものだったのだ。
「はじめまして、アケミさん。まあ私も『アケミ』なんだけど」
「どういう事なの。ちゃんと説明してくれる?」
「もちろんよ。そのために呼んだのですもの。
まず私は魔王です。
固有の名前はないわ。魔王は私一人だしいらないかな。
私は1000年前の勇者との戦いに敗れて肉体を失ったの。
それからは精神だけの存在でこの世に留まっていたのね。
でも精神だけの存在だとこの世界に物理的な影響はなんら与える事が出来ないので
適合する肉体をずっと探し続けていたのよ」
「それが私ってことなの?」
「そう。基本的に魂とも呼ばれる精神は一つの肉体に一つだけ。
普通に生まれればマッチングの必要はないんだけどね。
私の場合はすでに成長した肉体を手に入れないといけなかったの」
「人の肉体を奪ったってことなの?それヒドくない?
あれ?でも私は私でいるし・・・んー、理解が追いつかない」
「まあ最後まで話は聞いて。
適合する肉体はなかなか見つからないのよ。
この世界でずっと待っていたんだけどね。
そこで探す範囲を広げたの。
他の世界や時間軸には居るんじゃないかと思ってね。
そしたら『杉山アケミ』がいたの。
あなたが居た世界の管理者と話をつけて肉体をいただいたってわけ」
「うーん、わかったような解らないような。
で、なんで二つの体に分かれちゃったの?」
「次元を飛び越える際に二つの肉体が生成されたみたいね」
「生成?」
「そう。異世界からの転移メカニズムは知ってる?」
「知ってるワケないでしょ」
「ドアを開けて移動するような感覚ではないのよ。
物理的な移動は出来ないの。
簡単に言うと精神とそれにマッチする自分の肉体データだけが
コッチに来るのね。
そのデータに基づいてこちらの世界の元素が使われて肉体が再生するの。
その際私が貰う肉体とあなたが使う肉体が一つのデータから二つ作られたのよ。
まあ魂の救済措置と呼んでいいわ。
ただ剛力能力だけがあなたに行ってしまったのはバグでしょうね」
「話が突飛過ぎてよく解らない。
あなたと私は同じ肉体だけど別の個性を持つ別の存在なのよね?」
「そのとおり。私は魔王であなたはアケミよ」
「まあそれならいいか、な?ちょっと変な感覚だけど」
「ふふ、それは私も一緒よ」
「じゃあさ、元いた地球の日本に帰れる手段もあるってことなのかな」
「それは解らない。あちらの管理者はあなたに関する権利権限をすべて放棄したから。
また受け入れてくれるかどうかはわからないわね」
「そんな事言わないでその『管理者』と話をしてみてよ」
「それは無理。肉体を手に入れるとこちら側からのリンクは切れる仕組みだし。
あなただって自分から管理者に話をすることなんてできないでしょ?」
「その『管理者』ってなんなの?会ったことなんてないわ」
「そうね、神と呼ばれる存在かしらね」
「あー、いるんだ神様。確かに会った事ないはずだわ」
「あら、会ってはいるのよ。生まれると記憶からなくなるだけで」
「と言うことは・・・・死んだら会えるってこと?」
「そうなるわね」
「これがあなたと私がそっくりである経緯ね。
さて、あなたをここに呼んだのは理由があるの。
剛力を返して欲しいのよ」
「惜しい気もするけどいいわよ。
元々私が持っていた能力じゃないし」
「でも返却方法がわからないのよ」
「駄目じゃーん、しっかりしなさいよ、魔王でしょ?」
「耳が痛いわね。
まあとっかかりの部分は解っているので
確実な方法が確立するまでは客人で居て貰うわね。
私の双子の妹って設定でよろしくね。
みんなには姫って呼ばせるわ」
「えっ」
「なに?不満なの?」
「い、いやー。私がお姫様っていきなり言われても」
「すぐ慣れるわよ。今のところ剛力は押さえ込んであるし
魔人の国からは出られないようになってるので
基本的には好きにしてていいわ。
この城にあなたの居室を用意したし世話人も付けるから。
用事があるときは呼ぶからその時は拒否せず来てね」
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こんな経緯で私は魔人の国のお姫様になったってわけ。




