閑話 俺の姉ちゃん
唐突ですが、どうも。桐谷葵です。
……あ、桐谷ユリカの弟。3人いる弟のうちのいちばん上。長男です。
最近、姉ちゃんがちょっと変わった気がする。
好きな男でもできたのかな、なんて、絶賛思春期男子中学生である俺は勘繰ってしまうけど。
「ホラ、葵!ぼーっとしてないでさっさと食べちゃいなさい!」
母さんに催促されて、俺はシリアルを急いで口に詰め込んだ。咀嚼しながら、改めて台所に立った母さんの横顔を眺める。
──────姉ちゃんは母さんに似ていない。
父さんにそっくりなのだ。
借金残して俺たちを置いて出て行った、父さんに。
……なぜか姉ちゃんは、そのことで母さんに申し訳なく思っている節があるらしい。
大丈夫、母さんは多分思ったよりなんも考えてないよ。その辺俺は母さんに似たんだなとつくづく思う。
父さんは若い頃、びっくりするくらいイケメンだったんだぜ。まあ母さんもフツーに美人だけど。美男美女同士ってヤツ?
だから弟の俺が言うのもなんだが、姉ちゃんは美人だ。そりゃ中学生の時は多少芋っぽい時期もあったけど、高校2年生になった今は、かなり気の強そうな顔の美人になった。
最近は、何だ、その……アイロンで髪をくるっくるに巻いて下ろすのにハマっているらしい。しょっちゅうそればっかやってる。
俺のクラスの女子たちより遥かに薄い化粧なのに何故か顔が濃いのも、間違いなく父さんからの遺伝だな。
姉ちゃんはウザい。
俺がゲームでいちばんいい感じの時に限って弟たちの世話を振ってくる。別に世話を頼まれるのは良い。だけどさ、毎回なんで今なんだよってところで頼んでくるの。没収するわよって脅されて、こないだマジで没収されたし。あの人俺のゲーム機どこに隠してんだろ?このクソ狭い家の中で。
「じゃ、いってきまーす」
「あれ、もう行くの?早くない?」
「今日朝練あるから」
俺の泥だらけになった野球のユニフォームだって、姉ちゃんが洗ってくれる時もある。
ウザいだけじゃないことは知ってる。俺たち兄弟はみんな、姉ちゃんには感謝してる。
俺、知ってるよ。姉ちゃんが俺たちのために奨学金借りて大学行こうとしてるの。
母さんはあんたの学費くらい私が働いてどうにかするって言ってるのに、これ以上お母さんに迷惑かけたくないとか言ってるの、こないだ聞いたんだから。
姉ちゃんはあの進学校の中でも不動の学年2番らしい。1番はナントカとかいう名前のクソ頭のいい男なんだってさ。まあ、俺の読み的に、ソイツとデキてるんじゃないかと思ってる。ソイツの話よくしてるし。
男だけじゃなく、姉ちゃんには新しい友達もできたみたいだ。
いすずさんというらしい。この前友達との電話でその名前が何回か出ていた。
絶対可愛い子だよなぁ、名前的に。俺の頭の中には既に黒髪ロングで色白の清楚系の儚い美少女の想像図が出来上がっていた。
もうすぐ姉ちゃんの学校で文化祭がある。去年も行ったけど、コレはなかなか面白いぜ。
なんてったって外行きの姉ちゃんが眺められる瞬間なんだもん。
死ぬほど爆笑したよね、だって姉ちゃん、学校で『ユリカ様』なんて呼ばれてんだぜ。
しかも桐谷財閥の令嬢なんて呼ばれててさ。
ていうかそもそも、桐谷財閥ってアレだろ?あの、ホテルとか美術館とかテーマパークとか、そーゆーの諸々経営してるあの有名なグループだろ?
同じ苗字なだけなのにそんなわけないじゃん。
ウチ、こんなにビンボーなのに。落差で笑えてくるね。
─────そういや昔、一時期姉ちゃんはそれのせいでクラスの人たちからいじめ……みたいなことをされていた時期があったな。
だからか、姉ちゃんはあんなに遠い高校に通ってる。
地元の知り合いが誰もいないところに行って、その頃のことを忘れようとしているんだと思う。
「おはよー葵!」
the野球部という感じの丸刈りのコイツは、俺の親友。何度かウチに来たこともあるし、多分姉ちゃんは知っている気がする。
「おはー」
「暑くね?」
「それな。もう夏って感じ」
あー、あっちいなぁ……
6月入ったばっかなのにこの暑さ。地球温暖化やっべぇ。
ギラギラと照りつける朝日を全身に受けた俺の肌に、じわりと汗が滲んだ。
この暑さで練習すんのかぁ、あー、めんどいなぁ……
変わり映えのしない俺の毎日。刺激が欲しい。あー、姉ちゃん彼氏でも連れてきてくんねーかなぁ。
顔はいいくせして性格に難があるからな、あの人は。すーぐ暴力振るってくるし。兄弟の中で1番殴られてんのは俺だからな。いい加減被害者ヅラをさせて欲しい。
まあ、今年の文化祭で俺が姉ちゃんの彼氏に良さそうな男でも見つけてやるか。
そしてとりあえず、俺は姉ちゃんにいすずさんを紹介してもらうとしよう。




