第三者の目
八人への処分方針は決まった。
それでも、政朝は報告書を閉じることができなかった。
パーティー券の販売実績に応じて資金を戻す仕組みは、複数年にわたって続けられていた。
還付金という名称を、政策研究活動費へ変える判断。
パーティー券の販売実績に基づいて、議員ごとの支給額を計算する仕組み。
算出された金額を承認し、それぞれの政治団体へ送金する手続き。
担当職員だけで、すべてを決めたとは考えにくい。
「まだ、誰が制度を続けると決めたのか分かっていない」
政朝は、処分対象者の一覧から党内調査報告書へ視線を戻した。
「今の党内調査では、八人が金を受け取っていたことまでは分かった。でも、制度を残すと決めた人間が誰なのかは、はっきりしていないんだ」
「調べた者たちは、何と申しておる?」
「党本部の職員と政策集団の事務担当者から話を聞いた。ただ、誰に聞いても『前から続いていた制度を引き継いだだけ』という答えだった」
「その内容だと、最初に決めた者は永遠に現れぬな」
「そういうことになる」
政朝は報告書の余白へ、ペンを走らせた。
『第三者機関』
「党内調査だけでは限界がある。外部の専門家による調査機関を設置したい」
「第三者の目か。妥当だな」
サザレは小さく頷いた。
「己の不始末を己だけで調べれば、どれほど正しく調べたと主張しても、疑いは残る」
「やっぱり、党の人間だけじゃ駄目だよな」
「調べる者に不正を隠すつもりがなくとも、身内への遠慮は生じる。自分たちに都合のよい思い込みにも気づきにくい」
「うん。この件の調査には、元裁判官や弁護士、公認会計士。それから、政治資金制度を研究している学者にも入ってもらうつもりだ」
「その道を修めた者の視点で判断してもらうのだな」
「そういうこと。元裁判官や弁護士には、手続きや責任の所在を見てもらう。公認会計士には金の流れ。学者には、制度そのものに問題がなかったかを調べてもらう」
「一つの方向から見ただけでは、都合の悪い穴を見落とすかもしれぬ。第三者機関の設置は良い考えだな。やるならば徹底的に調査しなくてはな」
「党本部や政策集団の帳簿、銀行口座、会議資料、電子メールも確認してもらうよ」
政朝は必要な調査項目を指で数えながら、順番に書き加えていく。
その手元を眺めていたサザレが、ふと口を開いた。
「その者たちは、誰が選ぶ?」
「党本部が――」
そこまで答えたところで、政朝の手が止まった。
「……いや、それじゃ駄目か」
「調べられる者が、調べる者を選ぶ。そなたなら、その調査を信じられるか?」
「信じにくいな。自由推進党に都合のよい人を集めたと思われる」
「実際にそのつもりがなくとも、疑いは残るであろう」
政朝は書きかけた文字を二重線で消した。
「委員の候補者は、複数の外部団体から推薦してもらおう」
「外部団体とは?」
「弁護士会や公認会計士の団体、大学などに候補者を推薦してもらう。その中から選ぶとしても、党が理由を示さずに候補者を外せない仕組みにする」
「初めから結論を決めた調査だとは思われにくくなるな」
「委員長も、党の人間には決めさせない方がいい」
「推薦された者たちの中で選ばせるのか?」
「それがいいと思う」
政朝は『委員長は委員の互選』と書き加えた。
サザレは文字を追ったあと、報告書の束へ視線を移した。
「ふむ。では調べた結果は、すべて公にするのか?」
「できる限りは」
「できる限り、か」
その言葉だけで、サザレの眉が僅かに動いた。
「全部をそのまま公開するのは無理だよ。関係のない人の個人情報や、支援者の連絡先まで出すわけにはいかない。それに、今回の問題とは関係のない選挙戦略や、支援団体に関する情報が混じっている可能性もある」
「都合の悪いものを、すべて機密と呼んで隠す者もおるぞ」
「だから、非公開にする部分も党だけでは決めない。第三者機関に判断してもらう」
「隠す範囲まで、隠したい者に決めさせぬということか」
「最終報告書は、個人情報や無関係な機密を除いて公開する。何を非公開にしたのかも、可能な範囲で理由を示してもらう」
「それならばよい」
サザレは小さく頷いた。
「だが、もう一つ、忘れておるぞ」
「何を?」
「いつまで調べるのだ?」
政朝は答えに詰まった。
「徹底的に調べるなら、時間はかかると思うけど」
「期限を決めずに『調査中』と唱え続ければ、やがて人々の関心は薄れる。忘れられるのを待つことも、隠すことと大差あるまい」
「耳が痛いな……」
「胃だけではなく、耳まで痛むのか?」
「例えだよ」
政朝は机の上に置かれた予定表へ目を向けた。
数年分の帳簿や電子メールを調べるとなれば、短期間で終わる作業ではない。
それでも、期限を決めずに始めるわけにはいかなかった。
「三か月以内に中間報告。半年以内に最終報告を出してもらう」
「半年を待つ間に、重大な事実が見つかったなら?」
「最終報告まで黙っているのはまずいな」
「すぐに公表せよ、と言いたいところだが、調査の途中で知らせれば、ほかの者が証拠を隠すかもしれぬ。故に、調査を妨げない範囲で順次公表するべきだ。何でもすぐに発表すればよいわけではないが、都合が悪いから黙っていることも認めぬ。どうだ?」
政朝は少し考え、報告時期の下へ新たな項目を書き加えた。
「よし、それで行こう。公表する時期は第三者機関に判断してもらう。ただし、調査中という言葉を、都合の悪い事実を隠すためには使わせない」
「うむ。それならばよい」
「それから、資料の廃棄や改ざんが見つかった場合は――」
「元の不始末よりも、重く罰せよ」
サザレが言葉を引き取った。
「そこまで重くするのか?」
「誤りを犯した者より、誤りを隠すために新たな偽りを重ねた者の方が悪質だ。隠しても処分が変わらぬのなら、正直に話す者などおらぬ」
「確かに……。隠した方が得だと思わせたら駄目だな」
政朝は力を込めて書き込んだ。
「資料の廃棄、改ざん、虚偽の説明は、それ自体を重大な違反として扱う。最初の関与が軽かった人でも、隠蔽に加わった場合は処分を重くする」
「自ら事実を話す者と、真実を消そうとする者を、同じように扱うべきではない」
政朝はペンを止め、書き加えた内容を読み返した。
第三者による調査。
党から独立した委員の選定。
調査結果の原則公開。
明確な調査期限。
そして、証拠の隠蔽や虚偽説明に対する厳しい処分。
「サザレ、俺は八人をどう処分するかだけを考えてた。でも、それだけでは駄目なんだな」
「八人を党から追い出せば、ひとまず責任を取らせることはできる。だが、不正を生んだ仕組みを残したままでは、問題を断ち切ったことにはならぬ」
「人だけを替えても、制度が残っていたら、また誰かが同じことをするかもしれない」
「うむ。今回の者たちだけが特別に欲深かったと決めつけて終われば、いずれ別の者が同じ誘惑に負ける」
政朝は八人の名前が記された一覧から、第三者機関の設置案へ視線を移した。
「処分するだけじゃなく、隠しにくくて、繰り返しにくい仕組みを作る必要があるんだな」
「それでこそ、汚職を根から断つことができる。人を罰するだけで満足せず、不正を生んだ土まで入れ替えよ」
「……大仕事になりそうだ」
「そなたは総理大臣なのであろう? ならば、やるしかあるまい」
「あぁ……胃が痛い」
「だが、先ほどよりは進むべき道が見えた顔をしておるぞ」
政朝は苦笑しながら、第三者機関の設置案へ最後の線を引いた。
「政治資金の管理制度も、すべて見直す。特に金の流れは、誰が見ても分かるようにしないとな」
サザレは、わずかに口元を緩めた。
「それが、そなたが引き受けるべき責任だ」
「ただ、まだ問題があるんだよな」
「まだ終わりではないのか? この時代の政は、ずいぶんと入り組んでおるのだな」
「第三者機関には法的な強制力がないんだ。党を離れた議員や、辞めた職員に資料の提出を求めても、従わせることはできない」
「なるほど。党の規則が及ばぬ者には、調査を強制できぬということか」
「そうなんだ」
「ならば、国会の権限を用いよ。いかなる時代にも、政には強力な制度があるはずだ」
「国政調査権か」
「それを使えば、党の外へ出た者も調べられるのだな?」
「国会が必要と判断すれば、関係者を呼んだり、記録の提出を求めたりできる」
「ならば、国会に調べさせよ」
「俺が命令できるわけじゃないよ」
政朝が答えると、サザレは僅かに首を傾げた。
「総理大臣でもか?」
「国政調査権を持っているのは、衆議院と参議院だ。総理大臣が国会に命令したら、話が逆になってしまう」
「なるほど。政を行う者を、国会が調べるための権限でもあるのか」
「そういうこと」
政朝は新たな紙を取り出した。
「自由推進党として、衆参両院の関係委員会に国政調査を求める。必要なら、政治資金問題を専門に扱う特別委員会の設置も提案する」
「関係者を呼び、話を聞くのだな」
「まずは参考人として説明してもらう。資料も提出してもらって、第三者機関の調査結果と食い違いがないか確認する」
「そこで偽りを述べた者は?」
「参考人は宣誓しないから、嘘をついたことだけで偽証罪に問われるわけじゃない」
「ならば、真実を語らぬ者には何の意味もないではないか」
「だから、説明が食い違ったり、重要な事実を隠している疑いが強まったりした場合は、証人喚問も検討してもらう」
「証人として呼ばれれば、偽りを述べた場合にも責任を問われるのだな」
「宣誓した上で証言するからね」
「それならば、初めから全員を証人として呼べばよい」
「駄目だよ」
政朝が即座に答えると、サザレは不満そうに眉を寄せた。
「なぜだ?」
「証人喚問は、人を罰するための見せしめじゃない。まず資料を確認して、参考人から話を聞く。それでも真相が分からない場合に使うべきだ」
「手順を飛ばせば、真実を明らかにするためではなく、国民の怒りを鎮めるために証人席へ座らせたと思われるか」
「それに、俺が誰を証人として呼ぶか決めるわけでもない。実施するかを決めるのは国会だ」
「では、そなたにできることは何だ?」
「与党の議席を使って、都合の悪い参考人招致や証人喚問を拒否しないことだ」
与党が多数を占めていれば、政府や党に不都合な人物を呼ばないよう押し切ることもできる。
政朝は、その力を使わないと決めた。
「必要な人を呼ぶことを、自由推進党の都合で妨げない。証人喚問を見せしめにはしないけど、身内を守るために拒否することもしない」
「それでよい。罰するために証人席へ座らせるのではない。逃げられぬ場で、真実を語らせるために用いよ」
政朝は国会調査への協力方針を書き加えた。
第三者機関による調査。
国会の国政調査権への全面協力。
二つを組み合わせれば、党内調査だけでは届かない事実にも迫ることができる。
だが、一人だけ、扱いの決まっていない人物が残っていた。
自由推進党幹事長、井上剛。
「あとは、この男だな」
サザレは迷わず井上の名前を示した。
「井上幹事長には、還付金を受け取った記録はない。制度を続けるよう指示した書類も見つかっていない」
「しかし、制度を知りながら黙認していた疑いがあるのだろ? テレビでやっていたぞ」
「その疑惑が、一番の問題なんだ」
政策集団の元会計責任者は、三年前に開かれた党執行部会議で、議員への資金還付について説明したと証言している。
その会議には、井上も出席していた。
だが、議事録には『政策活動費の運用状況について報告』としか記されていない。
ほかの出席者も、政策集団が活動費を支払っていることは聞いたが、パーティー券の販売実績と連動した金だとは知らなかったと説明している。
井上本人も、制度の継続を知らなかったと否定していた。
井上は自由推進党内の派閥や地方組織に強い影響力を持つ、党内屈指の実力者である。
大崎前総理の辞任後、政朝を総裁候補として推し、党内の反対を抑えたのも井上だった。
総理大臣指名選挙で政朝へ票を集め、組閣案の大半を用意したのも井上である。
政朝がこの椅子に座っているのは、井上が党内を動かした結果だった。
「井上幹事長を処分すれば、党内は大きく揺れる」
「そなたの政権も、無事では済まぬか」
「それもある。でも、それだけじゃない」
政朝は小さく息を吐いた。
「井上幹事長は、俺を総理大臣に推薦した人だ」
「恩があるのだな」
「恩と言われると、少し違う気がするな。総理にしてもらったというより、厄介な役目を押しつけられた感じの方が強いよ」
「それでも、井上がそなたをこの座へ押し上げたことに変わりはあるまい」
「まあ、それは否定できないけどな」
井上が政朝を選んだのも、純粋な期待からではない。
党の汚職によって失われた印象を、若い総裁へ取り替える。
経験の乏しい政朝を表に立たせ、実際の党運営は自分たちが握る。
そんな思惑があったことを、政朝も理解していた。
「井上への恩で判断するつもりはなくとも、押しつけられた反発で判断する可能性はあるか」
「……否定できないな」
井上を残せば、自分を総理へ担ぎ上げた大物への配慮。
井上を切れば、自分を都合よく利用した相手への反発。
どちらの判断にも、政朝自身の感情が入り込む余地があった。
「ならば、そなたと井上の関係を、判断の物差しにするでない」
「俺たちの関係を切り離せってことか」
「恩に配慮するか、押しつけられた反発をぶつけるか。それらと、井上が何をしたかは別の話だ。政権を失う恐れも同じであろう」
「井上幹事長を失ったら政権が倒れるかもしれない、という不安で判断するなってことだな」
「うむ。残す理由も、処分する理由も、確認された事実の中から選べ」
政朝は井上に関する資料を、もう一度最初からめくった。
還付金を受け取った記録はない。
制度の継続を指示した文書もない。
会議に出席していた事実はある。
しかし、その場でどこまで詳しい説明を受けたのかは分かっていない。
「今ある証拠だけでは、井上幹事長が制度を知っていたとは断定できない」
「ならば、今すぐ罰することはできぬな」
「でも、疑惑がある以上、何もしないわけにもいかない」
「当然だ。知らなかったという言葉だけで、疑いが消えるわけではない」
サザレは井上の名前から視線を上げた。
「井上を処分すれば、分かりやすい形で責任を取らせたようには見える。だが、何を知り、何を知らなかったのかは、明らかにならぬままになるだろう」
「やっぱり、そう思うか」
「汚職をなくすことが目的ならば、疑いだけで首を切って終わらせるべきではない」
サザレは汚職に厳しい。
それでも、証拠のない人間を、世論を鎮めるためだけに処分しようとはしなかった。
「疑いだけで処分できるとなれば、今後は気に入らぬ者へ疑いをかけることが、政争の武器となる」
「汚職を追及する仕組みそのものが、権力争いに使われるかもしれないのか」
「うむ。それでは撲滅にはならぬ。別の腐敗を生むだけだ」
政朝はしばらく井上の名前を見つめ、やがてペンを握った。
「現時点では、井上幹事長を処分しない」
「何の責任も負わせぬという意味ではあるまいな?」
「もちろんだ。井上幹事長も、第三者機関の調査対象にする」
政朝は井上の名前の横へ、新たな条件を書き加えた。
「第三者機関の委員選定や、調査方針の決定には関与させない。幹事長室を含む資料も、すべて保全する。本人にも、ほかの関係者と同じように聞き取りを受けてもらう」
「井上は党の幹事長なのであろう。調査を行う者へ圧力をかけることもできるのではないか?」
「第三者機関の事務局は、幹事長室と党執行部の指揮系統から切り離す。調査に関わる職員へ、井上幹事長が直接指示することも認めない」
「権力を残しながら、調査に関する権限だけを外すのか」
「幹事長としての仕事は続けてもらう。でも、自分に関係する調査には一切触れさせない」
「調査を拒んだ場合は?」
「その時点で幹事長を辞めてもらう」
「黙認や指示が確認されたならば、資金を受け取った八人よりも重い責任を問うべきだ。党を監督する立場で知りながら放置しておったのなら、その責任は受け取った者以上に重い」
「その場合は、除名する」
「それでよい」
政朝は井上の名前から目を離せなかった。
自分を総理へ担ぎ上げた実力者。
党内の誰もが恐れる超大物。
そして、汚職を知りながら黙認していた可能性のある人物。
どの顔だけを見て判断しても、結論を誤る。
「調査が終わるまでは、幹事長として八人の処分と再発防止策を実行してもらう」
「改革の内容まで、井上に決めさせるのか?」
「いや。第三者機関の提言と、俺が決めた方針を、党内で実行してもらう。自分に都合のよい改革へ変える権限は持たせない」
「井上には決めさせず、実行させるということか」
「そういうこと。井上幹事長を守るんじゃない。最後まで責任を果たしてもらう」
「職を辞め、頭を下げるだけが責任ではない。党の中にある腐敗を自ら取り除かせることも、責任の取り方だ。その方針ならば筋が通る」
政朝は井上の名前の横へ、『処分見送り』とは書かなかった。
代わりに、二つの言葉を書き込む。
『第三者調査対象』
『改革実行責任者』
「国民には、身内に甘いと言われるだろうな」
「批判を恐れて証拠のない処分を行えば、そなたも真実より自分の評判を優先したことになる」
「あぁ……胃が痛い」
「痛くとも、説明せよ。なぜ八人を処分し、なぜ井上を直ちには処分しないのか。その違いを曖昧にするな」
「分かった」
政朝は、調査への不介入、資料の保全、改革の実行、関与が判明した場合の除名を、井上に課す条件として書き込んだ。
「調査に協力させ、改革を実行させる。関与が分かれば、例外なく処分する」
「それができればな」
「最後に不安になる言い方をするなよ」
「相手は、そなたを総理に担ぎ上げたほどの人物なのであろう? 容易に従うとは限るまい」
「……それは分かってる」
政朝は井上の名前が記された書類を、処分方針の一番上へ置いた。
執務室の時計は、午前八時を回っていた。
方針を決めることはできた。
次は、その方針を井上本人へ伝えなければならない。
八人への処分を決めることよりも、井上と話す方が難しいかもしれない。
政朝は机の上の電話へ手を伸ばした。
秘書を介して呼び出すこともできる。
だが、今回の話を人づてに伝えるべきではないと思った。
登録された連絡先から、井上の番号を選ぶ。
「サザレ」
「何だ?」
「ここからは、俺の言葉で話すよ」
「うむ。妾は聞いておる」
サザレの身体が淡い光へ変わり、政朝の胸元へ戻っていった。
小さく息を吸い、通話ボタンを押す。
一度。
二度。
三度目の呼び出し音が鳴り終わる前に、相手が電話に出た。
『卯月総理ですか。朝から直接お電話とは、珍しいですな』
落ち着き払った井上の声が、受話器から聞こえてきた。
政朝は井上の名が記されたファイルへ手を置いた。
「井上幹事長。政治資金問題の処分と、今後の調査について話があります」
電話の向こうから、すぐに返事はなかった。
数秒の沈黙が、妙に長く感じられる。
『……なるほど。ついに決められましたか』
「ああ。俺が決めました」
自分で口にした瞬間、胃の奥が強く縮んだ。
それでも、政朝は受話器を握る手を緩めなかった。
書いていて思いますが、政治って複雑ですね。
本話も中々複雑だったと思います。最後まで読んで下さり、ありがとうございました。
次話以降もよろしくお願いします。




