3 やはり寝るときはパジャマに限る。
「家の中は大体分かった?」
「はい。何だか、本当にこのお家にお世話になってもいいのかなって…」
「俺は、もう迷ってないけど?」
「保志場さん……ありがとうございます」
「お礼を言われることじゃないから」
そう笑顔で告げると、みあは可愛らしくはにかんで再びお礼の言葉を聞かせてくれた。
お宅案内を終えた時には、既に一番星が顔を覗かせていた。
1人で生活している間はあまり食(職じゃないよ)に興味がなかったので食事は結構適当に済ませていたが、今後は適当に済ますというわけにもいかない。料理をしない=料理が苦手と言うわけではないから、これからはみあのためにも規則正しい食生活を目指して励もうと俺は心に決めた。
これからは自宅管理だけでなく、みあの体調管理も大切な任務になるのだ。
「さてと。俺は夕食の準備をするから、みあちゃんは自分の部屋を整理しておいで」
「い、いえ!私もお手伝いします」
「いいよいいよ。今日は俺に作らせて」
「でも…」
「俺が作った夕食食べて貰いたい、って言ったら?」
「あ…食べたい、です…」
「宜しい。じゃあ行っておいで」
「分かりました」
軽く会釈すると、みあはいそいそと階段を上っていった。
……今度、スカートで階段を上る時は気を付けなさいと助言しておこう。
え?
いや見てない!見えてないからな!
…でもギリギリ見えない方が、何かこう…
自重しよう。
* * *
夕食に作ったオムライスをダイニングのテーブルで向かい合って食べた後、食器の片付けを一緒に済ませた俺達は各々の時間を過ごしていた。現在、みあは湧きたての風呂へ入っている。その隙をついて俺はここぞとばかりにリビングで例のギャルゲーの続きを始めた。
画面に映る空から降ってきたツンデレ美少女とロリロリ少女は、主人公の家にちゃっかり居着いてしまっているようだ。一人暮らしである主人公の住まいはどうやら普通の一軒家で、家族は都合よく海外へ行っているらしい。
そして主人公とキャラが何かのアクシデントで肉体的に絡まっているところに家族が帰って来てその現場を見られるわけですね、分かります!
『今日からこのベッドは私のだから!あんたは床で寝なさいよね!』
『あたしはお兄ちゃんと一緒なら床でもいいのです!』
このツンデレ、屈服させた…いや、何でもない。
あまり強気でこられるとちょっとイラっとしてしまう俺は恐らくSに分類される人間なのだろう。ツンデレキャラは嫌いではないが、デレるまであまりに女王気質でありすぎると攻略意欲がどうも低下してくるんだよな。
「こっちはこっちで…」
このロリ、デレデレである。
何故こんなに最初から懐いているんだ。これほどまでに人見知りをしない人間が現実にいるだろうか。あ、空から降ってきたし人間とは限らないか…。まあいい。別にお兄ちゃんと呼ばれるのは嫌いじゃない。
だから本当にロリコンじゃないからな!!
中の人の声が好きなだけなんだからね!!!
画面の中の少女たちは、寝る前に風呂に入れという主人公の言葉に従い揃って風呂場へ向かう。部屋に一人きりになると、ようやく主人公は空から降ってきた謎の生命体たちのことについて考え始めた。 いや、遅いだろ。
と、突然風呂場の中から美少女たちの悲鳴が上がった。シャワー音のSEが流れている。悲鳴を聞きつけた主人公は、勢いよく浴槽のドアを開けた。
何て王道なんだろう。
はいはい、CG回収っと。
『キャー!ちょっと、何勝手に覗いてんの変態!』
ツンデレっ子に投げつけられた石鹸が股間にクリーンヒットする。
ちょ…ッ!何で股間にしたんだよ脚本!!
『お兄ちゃん、お水しか出なくて冷たいのですー!』
ロリっ子が瞳に涙を滲ませながら、股間の痛みに耐える主人公に迫ってくる。上手いこと髪の毛で大切な部分が隠されたツンデレ美少女と主人公の上にまたがるロリっ子(シャツとパンツのみ着用)という構図の完成だ。
あれ、俺がやってたのってエロゲーだっけ?
『い、いつまでそこにいる気なのよ!は、早く出ていってよ…!』
全裸の自分に羞恥心を覚えたのか、ツンデレっ子は頬を赤く染めて俯く。あ、今ちょっとキュンとした…。
それから風呂場で大騒ぎを繰り広げたキャラたちは、風呂からあがった時には既に瞼が閉じかけており、倒れるように主人公のベッドに横になるとそのまま眠りへと落ちていった。ベッドを奪われた哀れな主人公は冷たい床の上で眠るのだった。
…ベッドに横になっているCGのクオリティが高くてちょっと満足だ。寄り添って眠る少女たちのうち、ツンデレっ子の方は水玉模様のパジャマ、ロリっ子の方はうさぎ耳のフードとしっぽが付いたパジャマを着用している。
やはり寝るときはパジャマに限ると俺は思う。
「お先にお風呂頂きました」
パジャマっ子のCGに癒しを得ていると、ちょうどウチの同居人も風呂から上がってきたようだ。この礼儀正しさ、画面の中の少女にも見習って欲しいものである。
「湯加減大丈夫だった?」
「とっても気持ち良かったですよ」
風呂から出たばかりの紅潮した頬や濡れた髪を扇情的だと感じてしまったら限りなくアウトに近いアウトだろうが、大切な妹分にそんな邪な感情が働くことなど微塵もない。
ただ寝間着姿が可愛らしいとは思ったことは正直に申告しよう。色は薄いピンクで柄はチェック、そんなパジャマをみあはとてもよく着こなしていた。
俺は可愛いものは包み隠さず可愛いという主義だ。
「風邪引かないように、髪乾かして寝るんだよ」
「保志場さん、お母さんみたいです」
「お母さん代わりですから?」
「んー…お母さんと言うより、やっぱりお兄ちゃんです」
「じゃあまとめて家族代わりってことで」
「贅沢ですね私」
こんなに素敵な家族がいるなんて、とみあは笑ったがどことなく寂しそうにも見えた。夜になって、少し心細さを覚えたのかもしれない。
「寝る前にココアでも飲む?」
「でも、保志場さんのお邪魔じゃ…」
「一緒にココア飲んでくれない?」
「あ…はい…」
俺の意図に気付いたのか、みあは微かに俯いて微笑んだ。風呂上がりの上気した頬に照れた顔色は隠れてしまう。
「ドライヤー持ってくるから、髪乾かしながら待ってて」
俺は一旦2階へ上がり、洗面化粧台の三面鏡の一番右裏からドライヤーを手にして1階に降りる。みあにドライヤーの場所と自由に使っていいことを説明し、その足でココアを2人分作るべくキッチンに向かった。
自分専用のカップと客用のカップを食器棚から取り出す。
明日の宅配の中にみあの食器も入っているだろうか?なければ近々買いに行った方がいいだろう。そんなことを考えながらミルクココアを作り、みあが待っているリビングに戻ると、みあは反乾きの頭のままPC画面の前に
――――ってあれ?
「み、みあちゃん…?」
「あ、えっと、別にパソコン覗いてたわけじゃないんです…!その、保志場さんの携帯がずっと鳴ってて、お声かけたんですけど聞こえなかったみたいだからキッチンに持っていこうと思って…!」
携帯を見ると、光の点滅が確かに着信があったことを告げていた。そしてその携帯は、俺が今しがた座っていたソファーの上にあり…そのソファーの前には愛用PCがあるわけで…。
「ごめんなさい…!あの、でも、えっと…か、かわいい絵ですよね」
「はは、ははは…はぁ…」
いっそもうどうにでもなってくれ…。
その場で崩れ落ちてココアを零さなかったことを、誰かどうか誉めて下さい。




