4 言っただろう?ただのニートではないと。
「さて、じゃあ今度は俺の番かな」
俺の台詞を受けたみあは、クッションの位置を胸元まで移動させ聞く体制をとった。中々手放さないところを見ると、どうやらそれが気に入ったらしい。
手触りいいからな、そのクッション。
「お願いします」
「俺の名前も知ってると思うけど、保志場遥、25歳。仕事は…隠しても仕方ないから言うけど、まぁ世間的に言えばニートってやつです」
オタクであることは勿論、オフレコにさせて頂きます。
大事なことだが、あえて1回しか言わない。
ニート発言に対してみあが驚いた様子はないが、不思議そうな顔で軽く首を傾げている。
それは…まぁ、そうだろう。
「ニートのくせに、何でこんな家に住んでるんだろうって思ってる?」
何を隠そう、実は俺が今生活の拠点としているこの部屋は、15階建てマンションの最上階に位置している。最上階と言うか、14階から15階へあがる室内階段があるから、厳密に言えば最上階+αか?
「それは…聞いてもいいことですか?」
「構わないよ。元々この家は両親のものだったんだけど、他界した今は俺が後を引き継いでるんだ」
「あ、ごめんなさい…」
「謝ることじゃないから。俺が話したいから話すだけ。OK?」
「はい…ごめ、…話して頂いて、ありがとうございます」
「よし。じゃあついでの情報…、というか一緒に生活するんだから説明しておかなきゃいけないことなんだけど…俺はただのニートじゃないよ」
「え?」
「俺は、ネオニートなんだ」
俺がただのオタクではない、と言ったことを覚えているだろうか?
そう。
俺の本性は、ネオニートなのだ。
みあは俺の発言にキョトンとして再び首を傾げた。
当然の反応と言うべきか。
「あの…ネオニートってなんですか?」
ってそっちかい!!
「ネオニートって言うのは、端的に言うと働かずに収入を得ている人のこと。収入源は株式とか不動産とかまぁ色々あるけどね」
「な、なるほど…」
他界した両親には結構な資産があり、この部屋だけでなく巨額の財産と不動産を俺に残した。その遺産を元手にほんの少し株式に投じたところ、なんと一発当ててしまったのだ。今では自分で稼いだ資産と親の遺産をもとに、不動産管理を行っている。
管理会社を介していることもあって、意外と上手く管理出来ている…と思っている。というか、そうでなければ、今この部屋でニートやってないだろうし。
俺の回答にみあは納得したようだったが、腑に落ちないといった顔でまたまた首を捻った。
「まだ気になることがあるみたいだね」
「あ、はい。えーっと…保志場さんって、
お医者さんなんですよね?」
「…よくご存じで…」
はい、実は俺、
医師免許持ってます。
べ、別に隠すことじゃないけどね!
あ、でも免許は持っているけど、医師として働いているわけではないから厳密に言えば医者とは言えないかな。
「母に聞きました。保志場さんがお医者さんなのもあって、私を安心して預けられるって…」
「確かにそんなこと言ってたな…。ま、でも免許持ってるだけで卒業後は医師としてほぼ働いてないから、あるのは知識だけだよ。まぁ、今も極たまーに知り合いの病院で教えて貰ったりしてるけど」
「なるほど」
国家試験に合格後、医師免許を取得し研修医として実地の臨床(病院)研修を受ける者が通常例だが、今の日本の制度でいくと実は臨床研修を積むことは強制されていない。つまりN○Kに受信料を払うのと同じ、努力義務の範囲にある。
ただ、一般の病院では研修医期間が2年あることを雇用条件にしているところが大半だ。理由は研修医期間がなければ、将来的に病院の長や重役につけないから。
しかし日本というのは面白い国で、研修医期間がなくても免許を取得していれば医業は行えちゃったりする。つまるところ、所属する施設や部署にもよるが、産業医や研究医になるには臨床研修はいらないというわけだ。
医師を目指して医学部に入ったんだから、医師として切磋琢磨したいという気持ちも無きにしも非ずだが、俺は今の生活が気に入ってるし、合っているとも思っている。
「はい、他に質問は?」
「今のところは、大丈夫です」
「よし。今後も気になることは何でも聞いてね?」
「分かりました。えっと、改めて、宜しくお願いします」
「こちらこそ。さてと。じゃあ、みあちゃんの部屋に案内するよ。部屋は2階だから、荷物俺が運ぶけどいいかな?」
「あ、お願いします…」
「了解」
彼女に了承を得た俺は、立ち上がろうとテーブルに手をかける。その手の下にはちょうど愛用PCがあり、しかも今まさに俺が触れた位置にまさかの電源ボタンがあって……。
もうお解りのことと思うが、当然、電源ボタンを触れたことによりスリープモードになっていたPCが立ち上がる。みあはまだ立ち上がっていない。
すなわち、起動したPC画面はみあの位置から丸見えなわけで――――
「しま…っ!あ、ちょ、待っ!」
「…ほ、保志場さんって、こういうのされるんですね…」
「いや、あの、これは…っ!」
彼女の視線は言わずもがな、デスクトップに君臨している空から降ってきた謎の美少女に向けられていた。画面下に表示された
『私もお兄ちゃんのお家で、お兄ちゃんと一緒に住みたいのです!』
という台詞も目に入ってしまっているだろう。
「保志場さん…ひょっとして、オタクさんなんですか?」
「それ以上何も言わないでくれ…っ!」
「保志場さん…?」
「何も聞かないでくれ…っ!!」
「保志場さん…」
この日から、ロリっぽい病弱少女のみあちゃんとオタクでネオニートの遥くんの素敵なトキメキ☆同居ライフが始まったのでした。続く☆
「いっそ終われーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!」




