3 外見年齢と実年齢が及ぼす違和感
“不束者ですが、宜しくお願いします”
先刻千智さんに対して俺が発した台詞と同じ単語を聞き、顔が綻んでつい小さなみあの頭に手を伸ばす。無意識に差し出した手に姿勢を固くした彼女に気付き、みあが男性が苦手だということを思い出した。と同時に、自然と頭を撫でようとした自分にも驚く。
「あー、ごめん。つい…。えっと、男性が苦手なんだって?」
「はい…男性恐怖症と言うわけではないんですけど、その…大人の男性は、あまり…得意ではなくて…」
憂いを含む物言いと面持ちは、詮索しないで欲しいと告げていた。
いつか俺達の距離が近づいたら、話してくれる日が来るだろうか。
「あ、でも保志場さんは平気です」
「つい今しがた警戒したようだったけど?」
「すみません…」
「冗談だよ。あ、触れたいってわけじゃないからご注意を!」
「はい」
俺の言葉に彼女はくすりと笑い、出会って始めて可愛らしい笑顔を見せてくれた。笑顔の彼女の周りに漂うふんわりとした温かい空気は、可愛らしい外見と相まって不思議と俺を和ませてくれる。
「そう言えば」
「はい?」
「久々の再会になるわけだし、改めて自己紹介した方がいいかな。お互い」
「あ、では私からさせて下さい」
そう言って話し始める前に彼女は深々と頭を下げた。
本当に千智さんの娘にしては、良く出来たお嬢さんだと思う。こう言っては難だが、母親が反面教師になったのかもしれない。
「名前はご存じだと思いますが、眞城みあと申します。翠明学園高等学校に通う17歳です」
「ああ、俺の後輩なのか…は?17歳!?!?」
「は、はい。17歳ですけど…?」
ちょっと待て嘘だろ!?この容姿で17歳…だと…!?
嘘だッ!!!!
「はははー、みあちゃんってば…ホントに?」
外見年齢と実年齢が及ぼす違和感にとりあえず状況を把握しようと笑顔で誤魔化してみるが、額から流れる一滴の汗は誤魔化しようがない。
そんな俺の反応を見てみあは拗ねたように頬をちょっと膨らませた。
この態度、絶対17歳じゃないだろっ!
「子どもっぽく見られますが…確かに身長146cmですが…紛れもなく17歳です!これ見て下さい…っ!」
みあが眼前にずいっと差し出してきたのは、彼女の保険証だ。生年月日を確認すると間違いなく17歳ということになる。
「ホントだ…」
「酷いです、保志場さん…。確か私が10歳になる辺りまでお会いしてましたよね…?あ、あの時から既に年齢間違えて覚えていたんですか…っ?」
「それは…はい、すみません」
最後に会った彼女の身長は、当時の俺の腰辺りまでしかなかったと記憶している。顔付きも動作も幼かったし、あの頃は年齢なんて特に気にしたこともなくて曖昧なままだった。例えば、滅多に会わない従兄弟の年齢なんて、あやふやではっきり覚えられないだろう?それと同じだ。
ああでも、幼い割にはたまに大人びたことを言う子だなーという印象もあったけど…。
「初めて会うわけじゃないですから、年齢間違えたりしないと思います…」
「いや、だってあの当時から…そう!小さくて可愛かったからさ?」
「…確かに、10歳の時は115cmしかなかったですけど…」
ちっさ!!!!!!
「自分の昔の身長まで良く覚えてるね?」
「身長は一生の悩みですから…。そもそも、私が受験生であること母から聞かれたんじゃ…?」
「……ごめん。高校受験かと思って」
「酷すぎます…っ!」
みあは心底傷ついた様子で、ソファーに添えてあったクッションを手に取るとそのまま顔を埋めてしまった。
彼女にとって身長ネタと年齢ネタはタブーなようだ。
「ご、ごめんな?全面的に俺が悪い。本当にごめん」
「…………」
本格的に落ち込ませてしまったらしい。
「もう絶対言わない。約束する。それに、女の子は小さい方が可愛いってよく言うし」
「…フォローになってないです…」
「う…」
こういう時、リアルの女の子は難しいと感じてしまう俺の頭は本当に残念だ。これまで何人かの女性と付き合ったことはあるにせよ何せ同年代ばかりだったし、8歳年下の多感なお年頃である女子高校生の扱い方なんて見知していない。
これがギャルゲーorエロゲーだったら攻略は容易いのに…と思う空気を読まないオタク脳を誰かどうにかしてくれ。
少し間をおいてから、クッションで顔を隠し俯いている小柄な肩をトントンと軽く突いてみる。それに反応してゆっくりと顔を上げたみあは、クッションから目だけ覗かせて俺と視線を合わせた。
瞬時に、俺は頭を下げる。
「ごめん」
「…私もムキになっちゃいました。ごめんなさい…」
予想に反して彼女も静々と頭を下げてきた。少し拗ねてはみたものの、強情を張らないあたり内面は意外と大人なのかもしれない。
「じゃあ、この話はここまで。あ、けどさ」
「何ですか?」
「可愛いって言ったのは本心だから」
「あ、ありがとうございます…」
再びクッションで顔を覆ってしまったみあだが、その様子から恥ずかしがり屋だということも判明した。
俺自身、結構恥ずかしい言葉を言ってしまったような気がするが、思ったことは素直に口に出すタイプなのでご容赦願いたいところだ。




