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おにぎり

「珍しいな。リコが料理してるなんて。何かあったのか?」


「うん、ちょっとね」


「変なやつ。手切るなよー」


「もう、子どもじゃないから大丈夫だよ!」



 ゼノにそう文句を言ったすぐ後に、包丁で人差し指の先を切ってしまい



「あ……」



 と声が漏れる。



「だから言っただろーが!」



 ゼノは呆れたように私の手を水につけてくれて、どこから取り出したのかガーゼのようなものを小さく割いて巻いてくれる。



「ありがとう」


「気を付けろよ」


「うん」



 お礼を言って、続きに取り掛かる。


 市場に仕入れに行ってから数日。私は毎日どうにかしてお弁当を作れないだろうかとずっと考えていて。


 ようやく昨日の夜にアイディアを思いついたため、ジェーンさんに頼んで厨房を貸してもらっているのだ。


 早起きしたから眠いけれど、背に腹は変えられない。



「あれ、リコちゃんが料理してる。珍しいね、どうしたの?」



 ベクターも起きてきて、ゼノと同じことを言いながら私を見つめてくる。



「うん、もう少しでできるから」


「うん?」



 よくわからないというような顔をするベクターに、私は得意げに微笑んで見せる。


 ラップなんて無いからお米をお皿に広げて、そこに作って少し冷ましたおかずをどんどん乗せていく。


 最後に冷ましたお米をまた乗せて、それを水で濡らしてから塩を広げた手で握る。


 どうか、ベクターとゼノがおいしく食べてくれますように。


 そう願いを込めて、三角に形を整えれば。



「できた……!」



 呟くと、なんだなんだとみんなが私の元に集まってきてお米の塊を見て怪訝そうな表情をした。



「こっちはベクターの。こっちはゼノの分」


「……これは何か聞いてもいい?」



 恐る恐る聞いてくるベクターに頷いて



「これはね、おにぎり!」



 と自信満々に答えると、ゼノの眉間にはさらに深い皺が寄ったように見えた。



「おに、ぎり?」


「そう! おにぎり!」



 日本人ならみんな大好きであろう、おにぎり。お弁当と言えば、と考えた時に一番に思いついたのはやはりおにぎりだった。


 栄養面ではまだ足りないだろうけど、任務のエネルギー源と考えれば干し肉とは比べ物にならないくらい良いはずだ。


 本当はおにぎらずにしておかずをたっぷり詰め込むのがいいと思ったけれど、ラップもないし食品を包めるような紙もない。大きいから形を保つのも大変だから、まずはおにぎりにすることにしたのだ。


 持ち運びのことを考えたらおにぎりも難しいのでは?と思ったけれど、大きな葉っぱを洗って乾かしておくことで、それに包めば良いのではと思い立った。


 起きてすぐに洗って乾かしておいた大きな葉っぱにのせて、くるりと巻いて紐で結べば完成というわけだ。


 あとは保護魔法をトーデンさんにかけてもらえれば完璧だと思うのだが。



「トーデンさん。保護魔法をお願いします」


「あぁ。よいしょっと。……ん?」



 トーデンさんはおにぎりを前に、なにやら首を傾げている。



「どうしました?」


「いや……リコちゃん、これに何かしたのかい?」


「え?」



 何の話だろう。そう思っていると。



「もう、すでに保護魔法がかかっているみたいだよ」



 そう言われて、私は驚いてトーデンさんを見つめ返すことしかできなかった。



「もう保護魔法がかかってるって……どういうことですか!?」


「わしも不思議だが……ベクター、ちょっと見てやってくれ」


「うん」



 トーデンさんよりもベクターの方が魔力は強いらしく、念の為ベクターもおにぎりを確認してくれる。



「そうだね。もう保護魔法がかかってるみたい。それも結構強めの」


「えぇ……?」



 一体どういうこと!?



「リコちゃん、このおにぎりは、一人で作ったんだよね?」


「うん」


「ってことは、つまり」


「つまり……?」


「もしかしたら、リコちゃんは魔法の才能があるのかもしれない」



 魔法の、才能?



「それってどういうこと……?」


「リコちゃんは、魔法が使えるのかもしれないってこと!」



 パチパチと瞬きを繰り返す私に、ベクターは



「使おうと思って使ってるわけじゃないなら、すごいことだよ」



 と言ってくれるけれど、まだ頭が追いついていない。


 魔法?私が?なんで?



「とりあえず、俺たちもう行かなきゃいけないから。早くくれよ、ソレ」



 困惑しているとゼノがそう言っておにぎりを指差すから、



「う、うん! 待ってて、今すぐ包むから!」



 慌てて葉っぱで包んで紐で結んだ。



「はい! 二人とも、お弁当持って頑張ってね!」


「……あぁ。ありがとう」


「ありがとうリコちゃん。食べるの今から楽しみにしてるよ」


「ふふ、行ってらっしゃい」



 二人を見送ると、ジェーンさんとトーデンさん、それから後から起きてきたアンナちゃんにもおにぎりを渡す。



「食べてみてもらえませんか?」



 三人とも嬉しそうに受け取ってくれて、ホッとする。



「あれ、これも保護魔法がかかっているね」


「え?」


「どうしてだろうねえ。魔法を使った感じはなかったんでしょ?」


「はい……魔法とか、正直ちょっとよくわからないし……」



 どうやってかけたのかなんて、全くわからない。


 三人はすぐに目の前でおにぎりを食べてくれて、おいしいと何度も言ってくれた。



「リコ姉! これ、中に何入ってるの!?」


「今日はね、お肉を甘辛く炒めたものにごまを合わせたの」


「そうなんだ! すごくおいしい!」



 やっぱり力をつけるにはお肉でしょう!そう思って作ったけれど、混ぜご飯みたいにしてもおいしかったかな?と思うと頭の中にアイディアがたくさん浮かんでくる。


 料理を仕事にしたことはないけれど、学生時代にアルバイトでキッチンに立ったことは何度もある。それに一人暮らしも長かったから、料理は結構好き。


 それも、自分のためではなく誰かのために作ると思えば、わくわくしてくるから不思議だ。


 ベクターとゼノがどんな感想を言ってくれるかはわからないけれど、もし気に入ってくれたら明日も作りたい。


 私にもできることがある。そう思えただけで、真っ暗だった未来が少し明るくなったような気がした。

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