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居場所

 ベクターとゼノと私で、昨日と同じ席順でテーブルを囲む。するとアンナちゃんが厨房に向かい、何やらジェーンさんとトーデンさんのお手伝いをし始めたようだった。



「アンナは毎日宿屋の手伝いをしてるんだ。うちの看板娘なんだよ」


「そうなんだ。元気で明るくて可愛いもんね。すごく似合ってる」



 同じように朝ごはんを求めて食堂にやってきた宿泊客たちを席に案内して、厨房との行き来をしてご飯を提供している。



「はいリコ姉! めしあがれ!」


「ありがとうアンナちゃん」



 見るからにふわとろのオムレツとカリカリに焼かれたベーコンのようなお肉にパンが二切れ。


 おいしそうな香りが漂っていて、少しだけお腹が鳴った。



「アンナ、俺たちのメシは?」



 ゼノの声に顔を上げると、確かにベクターとゼノの前にはまだ何も置かれていなくて。


 アンナちゃんは小さいから一人分ずつ運ぶのだと思っていたら、



「ゼノ兄はリコ姉のこと褒めなかったから後回しー。早く食べたいなら自分で取りにくればー? ベク兄は今持ってくるからね!」



 そう言って逃げるように走っていくから、思わず笑ってしまう。



「はぁ!?」


「ははっ、ゼノも素直に言えばよかったな?」


「うるせぇよ! おいアンナ!」



 ベクターも笑っていて、ゼノは顔を赤くしながらアンナちゃんを追いかけて厨房まで行ってしまって。



「リコちゃん、あったかいうちに食べちゃっていいよ。僕たちのことは気にしないで」



 とベクターが言ってくれるから、お言葉に甘えて先に食べることにした。



「いただきます」


「リコちゃん。それ、リコちゃんの国での挨拶か何か?」


「え?」


「イタダキマス? ってやつ」



 今日も当たり前のように手を合わせたからか、ベクターに聞かれて頷く。



「うん。私の国というか、世界というか。食事は命をいただくっていう考えがあるって言えばいいのかな。だから食事の前には食べ物とか作ってくれた人とか、たくさんのことに感謝する意味でこうやって挨拶したり、地域によってはお祈りをしたりすることもあるんだよ」



 幼い頃から当たり前のように言ってきた言葉の意味を改めて説明するのは難しいけれど、ベクターは理解してくれたのか



「そうなんだ。何かの儀式なのかと思ってた。リコちゃんのいた世界には素敵な文化があるんだね」



 と当たり前のように肯定してくれてホッとする。


 食べ始めた頃にアンナちゃんがベクターの分のご飯を持ってきて、後ろからゼノが文句を言いながら自分の分を運んできて隣に座る。



「アンナもみんなと一緒に食べてきなさい」



 とトーデンさんの声が聞こえて、少しするとアンナちゃんも自分の分を持ってきてベクターの隣に座った。


 四人で囲むテーブルは、アンナちゃんが私にたくさん話を振ってくれて、それに答えるように話しながら食事が進む。


 ゼノは聞いているのかどうかすらわからないくらい無言で食べ進めていて、ベクターはアンナちゃんと一緒に熱心に話を聞いてくれて。


 朝から賑やかで楽しい食卓だった。







「リコ、お前これからどうするかとか何か考えてんのか?」



 食後、食器を洗っている最中に隣にいたゼノが声をかけてきた。



「……それが、まだ何も。正直今の現実に戸惑いすぎて、まだ先のことを何も考えられていないの」


「まぁ、それもそうだな」



 この宿屋の家族はみんな私を受け入れてくれて、しばらくゆっくりしていなさいと言ってくれる。


 すごくありがたい話だし甘えさせてもらっているけれど、ずっとこのままというわけにはいかないだろう。


 かと言ってお金もないし、仕事ができるのかもわからない。そもそも身分が全く保証されていないこの世界で、私は今後どうやって生きていけばいいのだろうか。


 考えれば考えるほどどんどん沈み込んでいく気持ちに顔までが下がっていく。するとゼノが何かを思いついたように



「じいちゃん、ばあちゃん」



 とジェーンさんとトーデンさんを呼んだ。



「リコに、宿屋の手伝いしてもらったらいいんじゃないか?」


「……え?」



 思ってもみなかった話に、目を丸くする。



「実は昨日ベクターとずっと話し合ってたんだ。俺たちと一緒に冒険者登録でもしに行こうかとも思ったけど、リコは見るからに戦えそうもないし体力も無さそうだろ。かと言って仕事を探すにも時間がかかるし、身分がはっきりしていないリコを雇ってくれるかもわからない。その点ここならちょうど最近宿泊客も増えてきて満室の日も増えたし、働き手はいくらあってもいいはずだろ。住み込みで働くって考えたらリコとしても気が楽なんじゃねえか?」



 まさか二人でずっと考えてくれていたなんて。


 嬉しさとありがたさと申し訳なさで固まっていると、後ろから顔を出したベクターが



「僕もそれが一番いいと思う。アンナも喜ぶし」



 な?アンナ。とアンナちゃんに問いかけて。



「リコ姉と一緒に働けるの!? やったあ!」



 もうすでに決定事項のように話が進んでいて、戸惑いを隠せない。



「でも、ジェーンさんやトーデンさんにご迷惑じゃ……」


「迷惑なんかじゃないわよー。リコちゃんの今後を私たちも心配していたの。もしリコちゃんさえよければ、宿屋の手伝いをしてくれると私たちも助かるわあ」


「そうだな。わしもそれが一番いいと思う。どうだリコちゃん。あぁ、ちゃんとお給金も出すから安心しなさい」


「そんな……」



 住み込みで働かせてもらうだけでなく、お金まで稼がせてくれるの!?


 こんなうまい話、まさか騙されているのではと思ってしまうほどだけど。


 でも、今の私には騙されたとしてでもこの家族に頼るしか方法がないから。



「あの。みなさんのご迷惑でなければ。ぜひここで働かせてください。……一生懸命頑張ります。よろしくお願いします!」



 ガバッと頭を下げると、トーデンさんが私の頭を撫でてくれて。


 ジェーンさんが



「嬉しいわあ! 本当に嬉しい。これからよろしくね」



 と抱きしめてくれて。



「アンナも!」



 アンナちゃんも横から一緒に私を抱きしめてくれて、そんな私たちをベクターとゼノは優しく見守ってくれていた。


 こうして、私はこの宿屋で住み込みで働くことが決まったのだった。

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