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お祭りの影響

 お祭りの賑わいが落ち着き、日常を取り戻した頃。



「リコ!」


「ノルウェンさん。お久しぶりです」



 早速遊びにきたトアくんとミアちゃんと一緒にパンケーキを食べていると、ノルウェンさんがやってきた。



「悪い、話があるんだが今いいか?」


「あ、はい。二人ともごめんね、食べててくれる?」


「うん。わかった」



 二人に断りを入れて、少し離れた席に腰を下ろす。


 ノルウェンさんは徐に資料を出すと、私の前に出してトン、と一点を指で指し示した。



「本当、とんでもねぇ売り上げ出してくれたなあ」


「あはは……」


「いくら祭りで人が集まるからって、連日完売なんて聞いたことねぇよ。おかげで毎日問い合わせがたえねぇ」


「と、問い合わせ?」


「あのダイガクイモ屋はどこにあるんだ、紹介しろ、早く教えろ、早くアレをまた食べさせろ。そんなんばっかで毎日毎日ギルドが混み合って仕方ねぇ! 静かな空間を返せ! なんつーことしてくれたんだ全く」


「すみません……」



 言葉だけ聞くと怒っているように聞こえるけれど、その表情はただ疲れ切っているだけのよう。


 お祭りでありがたいことに連日完売となった大学芋。だけどまさか、今度はギルドにそんな迷惑をかけていただなんて。



「……と、ここまでが俺からの文句で、ここからは仕事の相談だ」


「はい……」


「……そのダイガクイモ、宿屋で売ることはできるか?」



 ……やっぱりそうなりますよねー……。



 ノルウェンさんが来た時点でなんとなく予想できていたけれど、やはり、という気持ち。


 私の顔を見て



「なんだ、わかってたみたいな顔だな」



 と言われて苦笑いをこぼす。



「実は、宿屋にも問い合わせが殺到してまして」


「やっぱりか。そうだろうと思ってたよ」



 冒険者の人たちや。その家族で私のことを知っている人が大学芋を売ってほしいとわざわざ宿屋まで足を運んできてくれるのだ。


 その度にあれはお祭り限定で販売していないこと、あくまでもここは宿屋であり冒険者向けのお弁当しか販売していないことを伝えているのだけど、毎日問い合わせは絶えない。


 どうしたものかとは思っていたところだ。



「できることなら販売したいのは山々なんですけどね、ただ販売するとなると人手も時間も足りないんですよ……」



 正直、芋の仕込みや揚げるのに時間がかかってしまうためお弁当に手が回らなくなってしまう。それに売るとなると場所の問題も出てくる。宿屋の外?天気に左右されるのは嫌だし、あくまでも私は宿屋のお手伝いとそれに付随するお弁当を販売しているだけ。


 大学芋はお祭り用に考えただけであって、お弁当の新商品として考えたわけではないのだ。



「じゃあ、限定的に販売するとかはどうだ?」


「限定的?」


「たとえばリコに余裕がある時だけ限定何食とか、調理だけはリコが担当して、保護魔法をかけた上で販売は委託するとか」


「委託……」



 確かにそれなら限定的に販売はできるかもしれない。だけど、かなり忙しくなりそうで怖くもある。



「……お話はありがたいんですが、宿屋の家族にもあまり無理して働かないようにと言われているくらいなので、これ以上はしばらくは手を広げるつもりはないんです」



 断るのも心苦しいけれど、これ以上仕事が増えたらベクターとゼノにこっぴどく叱られてしまいそうだ。


 特に二人はあのお祭りでの忙しさを知っているから、しばらくダイガクイモは見たくないかも、なんて言っていたくらいだし……。



「そうか。わかった」


「え、いいんですか?」



 思いの外すぐに引き下がってくれたノルウェンさんに驚いてそう聞くと、



「作り手が無理だというなら仕方ない。いい機会だとは思うが、リコに倒れられたら元も子もないしな」



 と言ってくれて拍子抜けする。


 頼むから販売してくれ、なんて強めに言われるかと思っていた。



「まぁ、祭りの時限定っていうのも箔がつくし、祭りが盛り上がるからそれはそれでアリだからいいだろう」


「ありがとうございます……」


「ただ!」


「……え」



 今度はなんだ。そう思って身構えていると。



「……そのダイガクイモ、俺にも食べさせてくれ」


「えぇ……?」


「ギルドの管理長たるもの、人気商品は味を知っておく必要がある。祭り当日は忙しくて来れなかったからな。金なら払うから、作ってくれ」



 そんなことを言うから笑ってしまう。



 つまり、ノルウェンさんも食べたいから食べさせてくれってことですね?



 その言葉を飲み込んで、



「じゃあ少しお時間いただきますね。お金はいらないんで、あっちでトアくんとミアちゃんの相手をお願いします」


「任せとけ」



 二人を託して厨房に向かうのだった。




*




「それで、断ったのか?」


「うん。今の私じゃそこまで抱えきれないと思ったから」


「そうだな。いい判断なんじゃねえか?」


「それに、ベクターもゼノもしばらく大学芋見たくないって言ってたから」


「あぁ……芋を見ると思い出すんだよ……あの混み方はしばらくいいわ……」


「ふふ、やっぱり」



 夜、お弁当箱を洗っているゼノの隣で仕込みをしつつ、ノルウェンさんとのことを話すとゼノが遠い目をしながら頷く。


 あのお祭りの日の忙しさはやっぱり異常だったんだと改めて思い知らされた気分だ。


 ノルウェンさんに大学芋を出した時、最初はやはり怪訝そうな表情だったものの一口食べて目をまんまるにしていた。



 "ギルドの静寂が失われた理由がわかった"



 それだけ言って帰っていく後ろ姿に笑ってしまったのは内緒だ。



「ま、リコがやりたいようにやるといいよ。俺たちは基本リコがやることに反対するつもりはないからな」


「うん、ありがとう」



 その言葉が私にとってどれだけ心強いか。多分ゼノはわかっていないんだろうなあ。


 明日は二人とも任務はお休みするらしく、ベクターは早々にゆっくり寝ると言って部屋に戻っていった。アンナちゃんも今頃ぐっすりのはずだろう。いつもならゼノにリコも早く寝ろと言われる頃合いだけど、今日は機嫌が良さそうだ。



「何かいいことあった?」



 なんとなくお互いにお茶を持って椅子に腰掛けたから、そう聞いてみる。


 するとゼノは



「……今日の任務で、冒険者のランクが昇格したんだ」



 と言ってギルドの身分証を見せてくれた。


 そこには日本語で"冒険者ランク:A"と記載が。



「え! すごいじゃん! Aランクって、すごく高いんじゃない?」


「まぁ……それなりには。大抵の依頼は受けることができるだろうな」


「すごい……初めて会った時も思ったけど、やっぱりゼノってすごい強いんだね」


「……そうでもねぇよ」



 照れ隠しなのか、視線を逸らしたゼノの顔がうっすら赤いような気がする。



「ベクターは俺より早く昇格してたし、まだまだ追いつけねぇ」


「そうなの? 私から見れば、ゼノもベクターも同じくらい強いと思うけど」



 そもそもゼノは剣だし、ベクターは魔法だ。扱うものが違うんだから、そこは比べるものでもないような気もするけれど。



「こっちにもいろいろあるんだよ。……でも、ありがとな」


「うん」



 ゼノが珍しく嬉しそうににっこり笑ってくれるから、その笑顔に胸が高鳴る。


 私も嬉しくなって、笑顔を返すと雑に頭を撫でられた。



「ちょっ」


「ほら、早く寝るぞ。ようやく日常が戻ってきたのにまた倒れられたら困るからな」


「……もう、最近は大丈夫だって言ってるのに」



 髪の毛がぐちゃぐちゃになるのを手櫛でなおすと、ゼノはケラケラ笑ってくるからなんだか悔しい。



「今日の弁当もうまかった。先に戻るけど、早く寝ろよ」


「うん、おやすみ」


「おやすみ」



 私の分のお茶のカップも洗ってくれたゼノは、手をヒラヒラさせてから部屋に戻っていく。


 それを見送り、私も片付けをしてからアンナちゃんの元へと向かうのだった。

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