お祭り①
それからしばらくして。
「え、お祭り?」
「うん。次の満月の日にね。この領地で一番の祭りで、たくさんの露店があって賑わうんだよ」
「そうなんだ……」
ベクターがこの領地にもお祭りがあることを教えてくれた。
お祭りとは言っても、きっと私が知っているお祭りとは似て非なるものなんだと思う。
だけど、どんなものか気になるなあ。
今日は満月。次の満月の日ということは、約一ヶ月後ということか。
月の満ち欠けを考えながら頷いていると、
「それで、リコちゃん。今回はリコちゃんも露店を出してみない?」
そう言われて目を見開いて言葉を失った。
「え……露店?」
「うん。宿屋の宣伝にもいいと思ってさ。リコちゃんのお弁当とかおにぎりの宣伝にもなるかなーって」
「それはそうかもしれないけど……え? 私が?」
「ははっ、他に誰がいるのさ。まぁおにぎりじゃなくても、ちょっとしたつまめるものとかね。実は毎回じいちゃんとばあちゃんが出店してたんだけど、二人とももういい歳だから、長いこと外に立ってるのも心配になるでしょ。だからリコちゃんさえよければ、アンナと一緒にどうかなと思って」
そっか。トーデンさんとジェーンさんが。ここ最近気温が少し上がっているようで、夏のような気候になってきている。そんな中で二人を長時間外に立たせるのは確かに私も心配だ。
でもお祭りなら、さすがにおにぎりは向かないだろう。自分が昔好きだったお祭りの出店を思い浮かべてみる。
クレープ、フライドポテト、かき氷、わたあめ、フルーツ飴、フランクフルトにお好み焼きにたこ焼き……うわあ、びっくりするほど食べ物ばっかり。
自分の食い意地にドン引きしつつ、ベビーカステラのようなものなら……でも金型も無いから焼けないか……と考え込む。
「ベクター、露店ってどんなのが出るの?」
「そうだなあ、ご飯ものとかもあるけど、どちらかと言うとつまみが多いかな。酒を売る露店が多いから。それに合わせてっていう感じだよ」
「そうなんだ。甘いものとかは?」
「あんまり無いね。砂糖もそんなに安いものじゃないから」
となると、やっぱり売るなら甘いもののほうが需要はあるんじゃないだろうか。
「子どももたくさんくる?」
「あぁ。小さい子どもも多いけどアンナくらいの子が一番多いかな」
そう言えば、アンナちゃんに初めて市場に連れて行ってもらった日にフルーツ飴のお店があったのを思い出す。
やっぱり甘いものの方が需要は高そうだ。
となると。この世界で私が露店で作れそうなもので、甘くておいしくて手頃な値段設定ができそうなもの。それは一体なんだろうと考える。
「そう言えば、砂糖は少し高めだけど蜂蜜はそこまででもないよね?」
「そうだね。この領地は養蜂家が多いからね」
「蜂蜜かあ……」
蜂蜜を使ったもの。ケーキ……は露店で売るには難しい。かき氷が食べたいけど機械がないし蜂蜜じゃシロップとは違う味になりそうだから却下。わたあめもクレープも機械や道具が足りない。フライドポテトはおいしいけど、できれば甘味がいい。
フルーツ飴が手っ取り早そうだけど、あのお店と被りそうだしなあ……。どうせなら被らないものがいい。
「うー……ん、やっぱりフライドポテトが無難……?」
そう考えていた時、ふと近くにあったものが目に入りしばらく目が離せなくなる。
「……そ、っか……。これなら、もしかしたら……」
もしかしたら、できるかもしれない。
「ベクター! 私、露店やる! 作りたいものがあるの! すぐ用意するから味見してもらえる!?」
善は急げ。すぐに袖を捲った私に、ベクターは驚きつつも嬉しそうに
「わかった。味見役は多い方がいいよね? みんな呼んでくるよ」
と言ってくれて、私のことをよく理解してくれているのが嬉しくて笑ってしまった。
*
——そして、一ヶ月後。
迎えたお祭り当日は、朝からとてつもなくバタバタしていた。
「アンナちゃん! 蜜どんな感じー?!」
「こっちは準備できたよー! んんんんー、いい匂い! リコ姉! いい感じだね!」
「うん、成功できるように頑張ろうね!」
「うん!」
お祭り会場は普段市場が出ている広場一帯。そこに普段は出ていない露店がたくさん並び、朝から街全体が浮き足立っているような雰囲気が広がっている。
私たちのお店は広場の中央のすぐ近くだ。ベクターとゼノが昨日から露店を設営してくれて、私は鍋やら油やら、必要なものを揃えながら早速商品を作り始めていた。
「初めて食べたときは、お芋がこんなにおいしくなるなんて思ってなかった!」
「ふふ、アンナちゃんあの時すごい量食べちゃってたもんね」
「だっておいしかったんだもん! 今日も味見係したいくらい!」
「じゃあ後でお願いしちゃおうかな!」
「わーい!」
たくさん考えた結果、今回私とアンナちゃんの露店では大学芋を販売することに決めた。
蜂蜜を蜜がわりにして、揚げた芋にたっぷり絡めて串に刺す。蜜がこぼれないように洗った葉っぱを下に添えれば完成だ。
最初はどうしようかと思っていたけれど、これなら露店の中で量産できるし価格としてもなるべく低めに設定することができた。
そしてこの世界では大学芋は存在していなかったらしく、物珍しそうな顔で露店の前を通り過ぎていく人たちが後をたたない。
一人でも来てくれればババっと売れてくれるような気がしているものの、やはり見たことがないものには抵抗があるらしい。当たり前だ。
かと言ってトーデンさんとジェーンさんは宿屋にいるし、ベクターとゼノは午前中は任務に行ってくると言って朝から行ってしまっていた。
アンナちゃんに客引きをお願いしようかとも思ったけれど、油で揚げた芋を蜜に絡めて串に刺して、お金を受け取って、なんて考えていたら一人じゃとても回せる自信がない。アンナちゃんにはどうにかここにいてもらいたい。
どうしたものかと思っていると、見知った顔が店の前に現れて私は思わず声を張り上げた。
「ゴードンさん!」
「んあ? おぉ、リコちゃんじゃねぇか。露店出してんのか!? 何売ってんだ!?」
私に気が付いて駆け寄ってきてくれたゴードンさんは、アンナちゃんが蜜を纏わせてくれている大学芋を見て目を輝かせている。
まるで子どもみたいなその姿に笑いそうになりつつ、
「ゴードンさん、ナイスタイミング! 良かったら味見しません? 条件は、おいしかったら感想広めることとお金の後払い。それだけです!」
と、ゴードンさんが断るわけがないと分かった上で提案すると、
「それだけでいいのか!? 任せろ!」
案の定ノリノリでOKしてくれて、アンナちゃんが渡した串を嬉しそうに受け取ってくれた。
「これはなんていう料理だ!?」
「大学芋です。揚げた芋に蜂蜜を纏わせているんです。甘くておいしいですよ。召し上がれ」
ゴードンさんはまじまじと芋を見つめた後、蜜が溢れないようにそっと一口食べる。
するとみるみるうちに目が見開かれ、
「うんめぇ! なんだこれ! 甘くてカリカリでうまいぞ!」
大声でそう叫んで周りの人たちの視線を一心に集めてくれた。
あっという間に食べ終わったゴードンさんは一つ分のお金にしては多い金額を払ってくれて。
「リコちゃん! うまかった! もう一つくれ!」
と言ってくれて嬉しくなる。
「ありがとうございます!」
ゴードンさんに二本目の串を渡すと、嬉しそうに受け取ってくれて周りに勧めながら食べ歩いてくれて。
ゴードンさん、ナイス!
そんなゴードンさんの姿を見た人たちが、
「あの、一つください」
「俺も!」
「私も食べてみたい!」
と次々にお金を出してくれるから、やっぱりゴードンさんはすごいと改めて思った。




