大量注文
最初は不安だった作り置き、定休日制度だったけれど、宿泊客に説明するとみんな当たり前のように了承してくれて驚いた。
それどころか、
「リコちゃんはずっと働きすぎだなって思ってたんだよ。だからしっかり休んでくれるならこっちも安心だよ」
と言ってくれる人までいて恐縮しっぱなしだ。
「それに作り置きなら少し安くなるんだろ? 冒険者にとっては願ったり叶ったりだ。確かに出来立ても嬉しいけど、うまいものを少しでも安く食べられるならそれに越したことはないよ。まぁ、そんなこと言ったらリコちゃんに怒られそうだけどな! ハッハッハ!」
そう豪快に笑うゴードンさんに、とても救われた。
よくよく考えたら、出来立てを渡しても実際に食べるのは数時間後。作り置きでも出来立てでも、保護魔法がかかっている限り食べる時にはほとんど変わらないのだ。それなら少しでも安く手に入れられる方が冒険者としても良いのだろう。
お弁当箱がまだ数が揃っていなくてほとんど提供できていないというのも、受け入れてもらえた理由の一つだと思った。
お弁当に関しては、この世界には曜日という概念がないため、ひとまず五日に一度のペースでお休みをもらうことにした。その他に満月の日は固定でお休みを設けることにして、一気にお休みが増えてソワソワしている。
宿屋の前の看板にもそのように記載して、冒険者ギルドにも案内を増やしてもらった。
私の熱も二日で下がり、お弁当作りにも無事に復帰。
おにぎりの話はあっという間に広まり、お客さんからその話をされる機会も増えてスムーズに周知できていることがわかり安心した。
お弁当も好評で、まだお弁当箱の関係で限定二つしか用意できないけれど、連日問い合わせが絶えないくらいだ。
そして私の体調はと言えば。
「リコ姉! 早く寝るよ!」
「はーい、今行くー!」
「ほら、早く行け。時間厳守!」
「わかってるって!」
早く早くー!と私を呼ぶアンナちゃんと、監視員のように早くしろと急かしてくるゼノ。
あれ以来、私を心配してくれたベクターとゼノが誰かが私と一緒に眠った方がいいという話をしてくれて。その時に満場一致でアンナちゃんに決まったのだ。
さすがにベクターやゼノと一緒に寝るわけにはいかないから、アンナちゃんがOKしてくれて本当に良かった。
まだ仕込みが終わってなくて正直もう少しやっていたい日でも、ゼノが許してくれないため仕方なしに早起きしてやるようにしている。
アンナちゃんは寝る時に私に抱きつくようにくっついてくれるから、すごく安心して悪夢を見る回数も減った。
おかげで体調はすこぶる良くて、メリハリがついたことで仕事も調子良くやっていけている。
いろいろなことがうまく進みすぎていて、逆に怖いくらいだった。
——そんなある日。
「よ、リコ。調子はどうだ?」
「ノルウェンさん! お久しぶりですね!」
「あぁ。久しぶり」
ノルウェンさんが久しぶりに宿屋を訪ねてきてくれた。
「今日はどうされたんですか?」
「実はリコに相談があってな。どこかで待っているから、都合の良い時に少し時間をもらえるか?」
「わかりました!」
ノルウェンさんが私に?相談とはなんだろう。不思議に思いながらも仕事を進め、一段落ついたタイミングでお茶を持って端の席に座っているノルウェンさんに声をかける。
しかしその隣には、見たこともない鎧を着た金髪の男性の姿があった。
「ノルウェンさん、お待たせしました。……こちらの方は?」
「あぁ、悪いな急に。こちらはベルン伯爵家に仕える騎士団の団長、ネルソン卿だ」
「初めまして。ネルソンと申します」
「き、騎士団……? 団長……!?」
それって、このベルン伯爵領お抱えの騎士団ってことだよね?それも、その団長……!?
眩しいくらいの金髪に目がチカチカしてしまいそう。その髪の向こうにある目はキリッとしており、威圧感を覚えた。
「ご挨拶が遅れました。リコと申します。……それで、ノルウェンさん、どうしてネルソン卿……がこちらに?」
「あぁ、そのことについて話そうと思って時間をもらったんだ。長くなるから座ってくれ」
「はい……」
二人の向かいに腰掛けると、ノルウェンさんはテーブルの上で両手を組み、神妙な面持ちで私の方を向いた。
「以前言ったことを覚えているか。ギルドが全面的に支援させてもらうと言ったことだ」
「もちろん、覚えています」
ノルウェンさんを始め、商業ギルドの方々には本当にお世話になっている。そんな私が忘れているわけがない。
「これはその支援の一環だと思ってくれれば良いのだが……今度、ベルン伯爵領付きの騎士団の小隊が任務で隣国へ向かうことになった。その際の携帯食をリコに作ってもらいたいと思っている」
「え……騎士団の?」
「あぁ。小隊とはいえ、十人ほどいるから作る数も多い。干し肉も考えたが、やはり付与魔法のことを考えるとリコに頼みたいと思ってな。もちろん材料費なんかは全てギルドで負担するつもりだ。……どうだ、頼まれてくれるか?」
十人分の携帯食、か。騎士団であれば、お弁当よりもおにぎりの方が食べやすいだろうか。
サンドイッチとかの方が良い?それとも、おにぎらずとかの方が良いだろうか。おにぎらずにするなら容器の他に海苔が必要だけど、高級品だから数が用意できるかどうか……。
「リコ? やっぱり十人分は難しいか?」
考え込んでいると、ノルウェンさんが気まずそうに呟いて。
勘違いさせてしまっていることに気が付いて、慌てて否定する。
「あ、違うんです。ただ、騎士団の方々ならどんなものがいいだろうと考えてただけで……」
「じゃあ、頼まれてくれるのか?」
「はい。私で良ければ」
いつもお世話になっているノルウェンさんの頼みだ。断るなんて選択肢は、最初から私の中には無い。
ノルウェンさんは断られると思っていたのか、安心したように胸を撫で下ろしていて。
ネルソン卿も
「助かります。リコさんの作るオベントウとやらが大人気だというお話は、騎士団まで届いておりますので」
なんて言ってくれるから驚いてしまう。
冒険者のために始めたことが、騎士団にまで噂が広まっているだなんて。
やはり口コミというのはすごいものだ。
「その携帯食なんだが、どんなものがいいか一緒に話し合いたいんだ。今いいか?」
「もちろんです」
そのまま、三人で案を出し合いながら何がいいか考える。
だけどやはり、持ち運びしやすく馬上でも食べられて匂いがあまりしないものという点から、おにぎりかおにぎらずに決まりそうだ。
そうと決まれば材料を集めなければ。
「そのオニギラズというやつは、すぐできるのか?」
「いえ、海苔がないので今は作れません」
「海苔か。高級品だな」
「はい、あと容器もたりません」
「容器か。どんな形のものが必要だ?」
「そうですね、こういう感じの……」
タッパーのような入れ物をイメージして絵を描くと、
「わかった。エクリルさんのところで至急の案件として注文してこよう。詳しい大きさを教えてくれ」
と当たり前のように頷いてくれる。
「十人分の容器に海苔となると、金銭的にも日数的にも大変ではないですか?」
「いや、そこはこちらでなんとかしよう。リコは気にせずオニギラズの方向で考えてくれ」
「わかりました」
日程は三日後。ちょうどお弁当はお休みの日だから、時間はありそうだ。
「明日までに海苔は持ってくる。容器はなるべく急がせるが、当日になるかもしれん。あと中の具材はリコに任せるから、よろしく頼む」
「はい。お任せください」
そう告げると、ノルウェンさんとネルソン卿は足早に帰って行った。




