新商品
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翌朝。
「ベクター! ゼノ! おはよう! 起きて! 見せたいものがあるの!」
二人が起きてくるのが待ちきれなくて、部屋の扉をドンドンと勢いよく叩いて二人を無理矢理起こした私。
「なんだ、朝から無駄に元気だな……」
「おはようリコちゃん。何かあった?」
「見て見て! これ!」
二人が部屋から出てきたところで、手に持っていたお弁当箱を見せる。
すると目を擦っていたゼノもあくびを噛み殺していたベクターも凝視してくれた。
「なんだこれ。木の箱に……米とおかず?」
「これは……もしかして、前に言ってたオベントウバコじゃない?」
「そうなの!」
正解したベクターにピンポーン!と答えると、私のテンションの高さについていけない二人はボーッと見てきて。
急に恥ずかしくなって咳払いをしつつ、
「昨日ね、ノルウェンさんと一緒に工房に行ってきて作ってもらったの!」
と昨日のことを話す。
二人は昨日夜遅くに帰ってきてすぐに部屋に戻ってしまったため、話す暇がなかったのだ。
ようやく二人に見せることができて嬉しい気持ちが隠せない。
「すげぇな。木ってこんな深く加工できるのか……」
「これなら洗えば使い回すこともできそうだね」
二人の言葉にうんうんと頷いていると、ベクターがふいに
「……もしかして、今日はおにぎりじゃなくてこっち!?」
と気付いたように声を弾ませたから、
「うん!」
大きく頷くと二人は顔を見合わせた。
「そうか。楽しみだな」
「これがリコちゃんが作りたかったオベントウなんだね。すごくおいしそう」
そのまま起きて準備をすると言う二人とは一旦別れ、私は厨房に戻りお弁当の仕上げを進める。
おいしく食べてくれますように。無事に帰ってきてくれますように。
願いを込めて、蓋をする。
「ベク兄とゼノ兄、起きてくれた?」
「うん、無理矢理起こしちゃったんだけど、ちゃんと話聞いてくれたよ」
「ええー、めずらしい。二人とも寝起き良くなくて、誰かに起こされるのとか好きじゃないのにー」
「そうなの?」
「そうだよー。アンナが起こしに行ったら怒っちゃうんだからあ!」
アンナちゃんにも怒るの……!?
想像がつかなくて、瞬きを繰り返す私にアンナちゃんはぷりぷりと文句を言っている。
そんな姿も可愛くて、笑ってしまう私にアンナちゃんはしばらく不満そうだったものの。
「アンナちゃん、お弁当用のおかずが少し余ったの。味見してみる?」
そう言ってみると、すぐにご機嫌になってフォークを持ってくるからさらに笑ってしまった。
ベクターとゼノがやってくる頃には、食堂はたくさんの冒険者たちで賑わっていた。
私もおにぎりを使っては渡してお金を受け取り、冒険者たちを一人ずつ見送ってと忙しい。
そんな中二人にお弁当を渡すと、周りの冒険者たちからの視線が集まった。
「リコちゃん、それは!?」
偶然にも今日はゴードンさんが泊まっていて、二人の持つ包みが気になって仕方ない様子。
「実は、新商品の試作なんです」
「新商品だと!?」
「でもまだお弁当箱の個数が二つしかないので、数が揃い次第販売予定です」
だから今日はごめんなさいと告げると、ゴードンさんは悔しそうに拳を握って二人を睨むように見つめる。
「くそっ……ベクターもゼノも身内の特権かよ……ずりぃぞ!」
「ははっ、いいだろー。ゴードンにはやらないよ」
「くっそベクター!」
「ベクター、煽るなって。……ゴードン、んな暴れたら俺のベントウが崩れるだろ」
「てめぇも煽ってんじゃねぇよ!」
三人のやりとりが面白くて、くすくすと笑ってしまう。
そんな私を見て、ゴードンさんは気まずくなったのか静かに席に戻り。
「リコちゃん! その新商品! 客第一号は俺だからな!」
と言ってくれるけれど。
「ごめんなさいゴードンさん、今回のお弁当箱、ソルダムさんのお父さんの工房で作ってもらってて。だから第一号はソルダムさんで予約がもう入ってて……」
申し訳なくて苦笑いをこぼすと、ゴードンさんは
「んああああ! ソルダムの奴! くっそー! リコちゃん! じゃあ俺はあいつの次だからな!」
そう叫びながらも丁寧におにぎりを受け取り、お金をしっかり払って宿屋を出ていく。
その姿が面白くて、ベクターとゼノと三人でゲラゲラ笑ってしまった。
「リコ、このベントウはいくらだ?」
「んー……これはまだ試作品だから、おにぎりと同じ五ベリーにしようかな」
「いいの?」
「うん。でも明日からは十五ベリーにする!」
「そんな安くていいのかよ。もっと金取れよ」
お客さんであるゼノにそう言われると面白いけれど、お弁当箱が繰り返し再利用できることやおかずの種類は多くても少量しか使わないことを考えると妥当だと思う。
それに、値段を高くして冒険者の仕事の邪魔にはなりたくない。お金を稼ぎに行くのにご飯代にたくさんお金がかかるなんて元も子もない。私は、あくまでも冒険者の栄養面を支えたいだけだから。
まぁ、追々見直していく可能性はあるけれど。
「そうだ、お弁当の中身は私のおすすめのおかずをいろいろ入れたから、後でどれが一番良かったか教えてもらえると嬉しい」
「本当に楽しみだなあ。了解したよ」
「いろいろって何種類だ?」
「うんとね、六種類!」
「六!? すげぇな……わかったよ」
今日のおかずは卵焼きに青菜のお浸し、にんじんきんぴらに煮豆、揚げた芋と野菜の肉巻きだ。
どれもおいしくできたと思うけれど、好みもあるからどれが口に合うのか知っておきたい。
とは言っても、おにぎり作りで大体の好みは日本人と変わらないことはわかっているんだけど。
それでも、どんな感想が聞けるか楽しみだ。
二人を送り出して片付けをすると、食堂はがらんとしてどこか寂しさを感じさせる。
「リコちゃん。今日もお疲れ様。少し休んできたら? 昨日遅くまで頑張っていたんでしょう?」
「ジェーンさん。大丈夫ですよ。お弁当作り楽しいですし。売り上げ計算しなきゃですもん」
「そうかい? でも疲れたらすぐ休むんだよ」
「はい、ありがとうございます」
トーデンさんは宿屋裏にある畑に、ジェーンさんはこれからアンナちゃんを連れて仕入れに向かうらしい。
私はそんな三人を見送りつつ、売上の計算をまとめて明日のお弁当のおかずとおにぎりの具材を考え始めた。




