ギルドの調査
その日を境に、少しずつ口コミが広まり問い合わせやお客様が増えていった。
元々宿屋自体が人気で、満室になる日も少なくない。その状況でおにぎりが少し話題になったため、連日満室状態が続くという嬉しい悲鳴もあった。
ジェーンさんとトーデンさん、アンナちゃんも毎日忙しそうではあったけれど、その忙しさをとても楽しんでいる様子で、みんな私のことを私以上に喜んでくれていて嬉しかった。
おにぎりを買ってくれた人は、ゴードンさんだけでなくソルダムさんや他の方たちもみんなで感想を広めてくれているようで。
"リコ"
"オベントウ"
"オニギリ"
というワードが冒険者ギルド内でよく飛び交っているらしいとベクターから聞いた。
なんだか想定していた以上に噂だけが一人歩きしているような感じもして、期待値だけがどんどん上がっているのでは?とも思うものの。
今のところみんな満足してくれているようで、すごく安心している。
そんなある日、商業ギルドから手紙が来た。
ベクターに中身を読んでもらうと、先日のお弁当箱の件で伝えたいことがあるとのこと。
いつギルドに行けばいいのかと思っていたら、なんとギルド側から人がやってくるらしく驚いた。
「こういうのって、普通こっちから出向くものなんじゃないの?」
「僕もそう思うけど……」
「もしかして、リコのおにぎりが人気すぎるから調査とかもあるんじゃねーの?」
「えぇ? まっさかあ。そんなわけないじゃん」
……と、笑っていたのだけれど。
数日後やってきた商業ギルドの人が
「近隣の宿屋や干し肉業者からこの宿屋が不正を働いているのではとの苦情が相次いでいる。よって調査も兼ねてやってきた。突然のことで申し訳ない」
と言ってくるものだから、空いた口が塞がらなかった。
*
「俺は商業ギルドの管理長、ノルウェンだ」
「ノルウェンさん……。初めまして。赤坂莉子と申します」
「リコ。早速だが本題に入ってもいいか?」
「はい」
ギルドの管理長だと言うノルウェンさんは、おそらく私よりもだいぶ年上の人。長めの髪の毛を無造作に流していて、その隙間から見える黒い瞳がだるそうな雰囲気を醸し出している。
なんというか……そう、イケオジというやつか。
無精髭を生やしている姿は、タバコが似合いそうだ。
「さっきも言ったが、不正を疑う苦情がいくつかきている」
「不正なんて、そんなのしてません!」
「あぁ、それはこちらもわかっている。ただそういう通報があればこちらも動かざるを得ないんだ。どうかわかってほしい」
「……はい」
話を聞くと、ここ数日"リコのオニギリ"を求めて別の宿屋に行ってしまう冒険者が後をたたず、そこからクレームに発展したらしい。
干し肉の売れ行きも悪くなってきたらしく、加工業を生業としている人たちからも似たような問い合わせがあるんだとか。
予想を大幅に上回る大きな話に、私は恐縮しっぱなしだった。
「そんなことになっているとは全く思っておらず……みなさんになんとお詫びすればよいのか」
「いや、その必要はない。ひとまず、宿屋の前にわかりやすく今よりもっと大きな看板なんかを設置してもらえればいいだろう。そして冒険者ギルドにもその看板の案内を設置してもらえれば、宿屋問題はおそらくすぐに解決するだろう」
「……干し肉の問題は?」
干し肉は今までこの世界で冒険者にとっての大切な食料として流通していたはず。その流れを私が乱してしまったことは、一体どうすれば。
しかし、ノルウェンさんは
「それも心配はないだろう」
とため息をつきながら答えた。
「苦情が来ているほどなのに?」
「確かにそうだが、我々はあまり問題視していないんだ」
「どうしてですか?」
「確かにリコのオニギリとやらは今すごく人気になっているだろう。だが、調べたところ誰でも買えるわけじゃないだろう?」
頷くと、ノルウェンさんは薄く口角を上げた。
「宿屋に泊まった者しか注文できないというのは、よく考えたと思う。特別感があるし、購買意欲がそそられるのも頷ける。今は話題性もあるから一時的に干し肉の需要が薄れているだけで、途切れたわけではない」
「……うちのおにぎりの話題性が落ち着けば、自然と干し肉もまた売れるようになる、と」
「そうだ」
確かに、今は小さなブームが巻き起こっているようなもの。
口コミが広まって、みんな目新しいものが気になっているだけかもしれない。
それに、みんながみんなおにぎりが好きなわけでもないだろうし。干し肉の手軽さには勝てなかったりもするだろう。
「だから今日は名目上一応来ただけで、特別何か調査するつもりはないんだ」
「そうでしたか」
そこまで考えていてくれたのに、さっきは声を荒げてしまって申し訳なかったなと思う。
ノルウェンさんに謝ると、
「いや、そうなって当然だ。むしろ驚かせてしまって悪かったよ」
と逆に謝られてしまってまた恐縮した。
「お詫びと言ってはなんですが、せっかくいらしていただいたので、おにぎりを召し上がっていきませんか?」
「え? いいのか?」
「もちろん。この後、先日の工房のお話もしていただけるんですよね? ぜひ、食べながらお話ししましょう」
今日は一人キャンセルがあったため、偶然にも一つおにぎりが余っていた。それをノルウェンさんに出すと、やはり物珍しいのか観察しているよう。
しかしそのまま食べるかと思いきや、ノルウェンさんは一瞬眉を顰めた。
「あの、どうかしましたか?」
「これは……保護魔法がかかっていると言ったな?」
「はい。どうやらそのようなんです。ただ私自身、どうやってその魔法をかけたのかもよくわかっていないんですけどね……」
はは、と苦笑いをすると、ノルウェンさんはまたおにぎりに視線を戻し。
「これはとんでもねぇぞ」
と呟く。
「え?」
とんでもない、とは?
「これは、保護魔法だけじゃない。……付与魔法までついてやがる!」
「付与、魔法……?」
それって、どういうこと……!?




