口コミ
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翌日。
夕方近くに今日泊まる冒険者たちが宿屋に続々と入ってきて、ジェーンさんがお出迎えをしていた時のことだった。
「ここにリコってやつはいるか?」
「はい、私ですが……」
突然お客様の一人が私を呼び、上から下まで舐めるように見つめてくる。
ハンマーのような武器を持ち、ゴードンさん以上の大柄な体格。頬には縦長の傷跡もあり、正直怖さを感じる見た目。
品定めでもするかのような視線にごくりと唾を飲み込んで身構えたものの、
「……ゴードンから聞いたんだが、ここに泊まるとオベントウってやつを明日買えるって聞いた。それは本当か?」
その言葉を聞いてすぐに目を見開いた。
「ゴードンさんから! はい! 本当です!」
「そうか。詳しく聞きたい。そのオベントウとやらの見本はないのか?」
「見本……少しお時間をいただければ、お見せできますよ」
「そうか、じゃあ頼む」
「はい、少しお待ちください!」
ゴードンさんのおかげで、二人目のお客様が来てくれた!
とは言えまだ迷っている様子だったから、急いで見本を用意しないと!
急いでおにぎりを握りながら、確かに見本がないとイメージもしづらいよなあと思う。
ギルドに預けたお弁当箱の絵もそうだし、日本でも飲食店の前には食品サンプルがよくあったのを思い出す。
おにぎりや今後お弁当を初めて知るお客様に、もっと手軽にイメージしてもらうために何かできることはないだろうか。
そう考えながらも完成したおにぎりを持っていくと、冒険者の男性は椅子に座って待っていてくれた。
「お待たせしました。こちらが今販売しているお弁当、おにぎりです」
「オニギリ……? これは米か?」
「はい」
お皿に乗ったおにぎりをいろんな角度からまじまじと見つめる姿に笑いそうになりながらも、咳払いを一つして説明をしていく。
「お米の中におかずを入れたり混ぜたりしています。保護魔法をかけているので、衛生面の心配もいりません。お渡しする際は葉っぱに包んでおり、持ち運びも苦労はしないかと」
「そうか。料金は?」
「一つ五ベリーです」
聞かれることに答えていると、物珍しいからなのか次第に泊まりに来た冒険者たちが集まってくる。
「なんだ? それは」
「オベントウの、オニギリというらしい。ゴードンが教えてくれたんだ。遠征に行く時にこれがあるとかなり楽らしい」
「食べ物なら干し肉があるだろう」
「それが、干し肉とは比べ物にならないほどうまくて疲れが取れて力になるらしいんだ」
ゴードンさん、そんな風に感想を広めてくれていたんだ。
ベタ褒めしてくれてありがたい気持ちと、その期待に今後も応えたいという気持ちで身が引き締まる思いだ。
「……よろしければ、味見してみませんか?」
「え? いいのか?」
「はい。それで気に入ってくださったら、ぜひ今日泊まっていってください」
きゅっと口角を上げてみれば、男性はごくりと喉を鳴らしてから頷いておにぎりを見つめる。
そしてそのまま一口ぱくりと食べるのを、私含めて数人が見守った。
「っ……! うまい……!」
「良かった。冒険者さん用に、味は少し濃いめに作っています」
「この中身はなんだ?」
「鮭です」
朝ベクターとゼノに作った残りの鮭を詰めてご飯にも塩をまぶしただけのシンプルなものだ。残しておいて良かった。
男性はものの数秒であっという間に完食してしまい、
「うまかった! 決めた。今日はここに泊まる。明日から遠征なんだ。オニギリを売ってほしい」
「ありがとうございます!」
嬉しくて、緩みっぱなしの口角を無理矢理引き締めて。厨房から予約リストを出して、そこに名前を書いていく。
「ソルダムさんですね。遠征とのことでしたが、おにぎりはいくつ必要ですか?」
「一つだけではないのか?」
「あらかじめ個数がわかればお作りしますよ! もちろんその分の料金をいただきますが」
「助かるよ。ひとまず二つ頼む」
「かしこまりました。では明日、十ベリーいただきますね」
会釈をして、厨房に戻ろうとする。しかし今度は隣から呼び止められて。
「あの! 俺も注文したいんだけど!」
「俺もだ!」
「俺はまず味見をさせてくれないか。気になって仕方ないんだ……」
ありがたい言葉の数々に、私は急いで味見用に小さいサイズのおにぎりをいくつか用意する。
「鮭がもうないので、小さくてすみません。いかがですか?」
それをみなさんに渡すと、一斉に食べ始めたかと思うとすぐに手が挙がり。
「一つ予約するよ!」
「俺は二つお願いしたい!」
「俺も一つ! すんげぇうまい!」
味見をした全員が注文してくれて、あっという間に予約リストが埋まっていく。
そんなタイミングでベクターとゼノが帰ってきて、私が慌てながら予約を取っているのを見て嬉しそうに近寄ってきてくれる。
「リコちゃん。なんかすごい人気だね。どうしたの?」
「予約リスト埋まったのか? すげぇじゃん」
「ベクター、ゼノ、おかえり! それがね、ゴードンさんのおかげなの」
ソルダムさんのことを伝えると、二人とも私以上に喜んでくれた。




