24.ズルくない?
「どうだった?」
「ええ。許可はもらえました」
おれの問いかけに、ジョセフが答える。
いま、おれたちがいるのは、玉座の間に近い、王城内の廊下だ。
ここにいるのは、おれとジョセフのふたりだけで、アーサーたちにはエリックと一緒に、先に宿に帰ってもらった。
「やっぱり、あいつかな?」
「私も、そう思います」
ふたりで廊下を歩きながら、先ほど玉座の間にいた、彼の印象を述べあう。
おれたちがこの城に残ったのには、理由があった。
第二王子と第三王子にもう一度会い、あることを確認したかったからである。
第二王子も第三王子も、ゲームには出てこない。
もちろん、そのような人物はたくさんいる。
ここはゲームをもとにした世界のようだが、ちゃんとした現実の世界だ。
当然ながら、ゲームに出てこない人間の方が多い。
いくらゲームをやりこんでいるおれでも、ほとんどが知らない顔だ。
しかし、先ほどはじめて出会ったはずの人物に、強い既視感をおぼえた。
それが、第二王子か、もしくは第三王子である。
とくに紹介されなかったから、いまだにどちらがどちらかわからないので、こういう言いかたになってしまう。
相手のステータスは、おれもジョセフも、十メートル以内に近づかないと見れない。
玉座の間では、それがかなわなかったため、名前もわからない。
「平民のおれが、王子に近づけるなんてな。よほど気に入ってもらえたのかな」
よく知らないが、普通は無理なんじゃないか。
「みたいですよ。陛下もふたつ返事だったとか」
「まあ、一国の主から見ても、おれは魅力のかたまりだろうからな」
「もしくは、ものすごく顔が面白かったからかもしれませんよ」
「……」
おれは大人なので、ジョセフの科白は黙ってスルーした。
いくつかの角を曲がったところで、幸運にも目的の人物がひとりで立っているのを見つけた。
おれの視線の先にいるのは、側妃の息子で、第二か第三王子だ。
「王子殿下」
ジョセフの声に、第二か第三王子が反応する。
こっちのほうが、もうひとりよりも少し若いようだから、たぶん第三王子かな。
「ああ、あなたたちは先ほどの」
おれたちの顔を見て、やわらかく微笑む。
どうやら彼にも、おれたちは好印象だったようだ。
「ジョセフ・ニューポートでございます」
「パイク村のロバートでございます」
ジョセフとともに、あらためて名乗る。
「うん。ああ、そういえば、私は名乗っていませんでした。失礼。ヘンリー・ロディマス。この国の第三王子です」
そう言って、ヘンリーが朗らかに笑う。
やや暗い色の金髪で、肌は白く、碧眼。
美形だが、体形は少しふっくらしている。
身長はおれたちより低く、年齢も、いくつか下のように思える。
近づいてすぐに、おれは極小の声でウィンドウを呼び出し、ヘンリーのステータスを確認した。
とくに目立つ箇所はない。
攻撃系のパラメーター数値は、どれも平均よりも少し低いくらいだが、あまり運動が得意そうに見えない十代前半の少年なら、こんなものだろう。
魔法の素養もないが、知力と魅力は平均以上だ。
チートっぽいものも見当たらなかった。
さて、どうするか。
声をかけてはみたものの、ここでいきなり、
「あなたには、前世の記憶がありますか? おれたちのこと、覚えていますか?」
とストレートに訊くのも躊躇われた。
いかにそれっぽくとも、違っている可能性がある。
とりあえず、「おれだよ、おれ」というような、気付いてくれオーラを出してみたが、ヘンリーは不思議そうな顔をするだけで、効果はなかった。
「私に、なにかご用でしたか?」
ヘンリーが小首を傾げる。
どうしよう。
「すみません。殿下におたずねしたいことがございました。殿下は『クワンティック・エグゾダス』という名前に聞きおぼえはございませんか?」
おお! ナイスだ、ハカセ!
ノープランだったのは、おれだけか。
「くわんてっく……なんでしょうか、それは?」
ぽかんとして、ヘンリーがたずねる。
演技かどうか見極めようと目を凝らしたが、彼が嘘をついているようには見えなかった。
「……ああ、巷ではやっているお菓子でございます。殿下は、お菓子にお詳しいとのことでしたので」
ジョセフは、内心の動揺をまるで感じさせずに答えた。
よくそんなこと知って──そうか、体型を見て推察したのか。
「はい。お菓子は大好きです。けれど、そのくわんてっく……なんとかは知りませんでした」
「そうですか。それでは、この次の機会にお持ちいたしましょう」
「本当に! ありがとう。とても楽しみにしています」
「ええ。お呼び止めして、申し訳ございませんでした」
「いえ……」
そんな会話をしていると、後方から突然声をかけられた。
「ヘンリー、どうした?」
声の主を確認しようと振り返ると、第一王子、レックス・ロディマスがこちらに向かって歩いてきていた。
おれとジョセフは、その場で頭を下げる。
「お兄さま。いま、こちらのジョセフとロバートとお話をしていました」
「うん? お前たちはさっきの……」
レックスがおれたちの前で止まる。
ヘンリーとは反対で、おれたちより少し背が高く、体型もスマートだ。
こっちも暗い金髪で、肌も白く、碧眼も同じ。もちろん、美形。
レックスはゲームにも登場する主要人物のひとりで、やがて学園編で、マリンをアーサーと取り合って決闘する相手だった。
「ジョセフ・ニューポートでございます」
「パイク村のロバートでございます」
「うん? ああ」
レックスが鷹揚に頷く。
その所作は、ハワードによく似ている。
「お兄さま。どうかしましたか?」
「ああ。お母さまが、お前を探していたぞ」
「えっ、そうなのですか? すいません、すぐに参ります」
「一緒にいこう」
おれたちを放置して、王子たちは並んで廊下を歩き出した。
その後ろ姿は、仲のいい兄弟そのものだ。
あれ? 仲のいい兄弟?
いや、あってる。
ふたりは兄弟だ。
腹違いだが。
それにしては……似すぎている気がする。
それと、正妃が側妃の息子を探しているのか?
絶対になくはないだろうが……。
「レックス王太子殿下」
おれは、反射的にレックスを呼び止めた。
だが、レックスの足は止まらない。
無視かよ!
「あの! レックス王太子殿下!」
ちょっとむきになって、声を大きくする。
……これで不敬罪だとか、言わないでくれよな。
レックスはようやく足を止めて、怪訝そうな顔でこちらを見る。
「レックス王太子殿下、おたずねしたいことが──」
おれはジョセフを|真似て、先ほどと同じ質問をジョセフに投げかけようとする。
けれど──
「……お前はなにか、勘違いをしているようだな」
「え?」
「そうか。俺はまだ、お前たちに名乗っていなかったな」
そういえば、おれもまだ、レックスのステータスを見ていない。
「俺はレックスではない。レックスは俺の弟だ」
おれはすぐに、相手のステータスを確認する。
(え? そんなばかな……)
確かに、名前はレックスではない。
だが外見は、ゲームのビジュアルとまったく同じで、間違いなくレックス・ロディマス本人のはずだ。
「俺は、ジェームズ・ロディマス。お前の言うレックスの兄で、第二王子だ」
頭を掻きながら、面倒くさそうに告げる。
ジェームズ? 第二王子?
ゲームと名前も立場も違う。
じゃあ、レックスは一体……。
「それで、なにか用なのか?」
「あー、えー、いやー……」
「なんだ? 用はないのか?」
「……はい。申し訳ございません」
「ん」
レックス──もといジェームズは、おれたちにはまったく興味がないようで、ヘンリーを連れてすたすたと行ってしまった。
その場に残されたおれとジョセフは、お互いに顔を見あわせて、
「なんでだ?」
「さあ、私にもわかりません。けれど、ひとつはっきりしました。ヘンリー殿下は、モーちゃんではありませんでしたね」
「そ、そうだな。かなり雰囲気が似てたんだけどな」
「わかります。欧米系の顔立ちですからね。顔は全然います。けれども、あのふくよかさとか、全体の雰囲気はたしかによく似ていましたね」
「おれたちも再会に十年以上かかったんだしな。それに、この世界に転生してるとも限らないか」
「ええ。向こうで幸せに暮らしているかもしれません。今ごろは、ご実家のお店を継いで、奥さんと子供もいるかもしれませんね」
「ああ、そう願うよ」
ふたりで、かつての親友の顔を思い出しながら、この場を去ろうとした、その時。
「リョウ、ハカセ、久しぶりだね。ふたりとも、すぐにわかったよ。それに、決闘裁判なんて、『ジャニス推し』の僕へのメッセージだったんでしょ?」
またも背後から声がして、おれとジョセフは振り返った。
そこには、先ほど玉座の間で見た人物──ゲームにはいなかった、もうひとりの少年が立っていた。
まさか……この少年がレックスなのか?
いや、それよりも──。
「ふたりとも、どうしたの? 変な顔して。あれ? もしかして気付いてなかったの? 僕だよ、僕。毛利元哉だよ」
毛利元哉。それは、モーちゃんの本名だ。
おれは、目の前に立つ少年をまじまじと見つめた。
ジェームズは弟だと言っていたが、年は見たところ、ジェームズやおれたちと同じくらいだろう。
明るい金髪で白い肌。碧眼。身長は百八十センチくらいある。
手足はすらりと長く、胴は引き締まり、顔は小さく、八等身。
そして、男でも見ほれるほどの美男子。
なんだこれ。
転生したら、超絶イケメンの王子さまって。
モーちゃんだけ、ズルくない?




