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22.謁見Ⅰ

翌日の午前中。

国王への謁見の日。

おれ、マリン、アーサー、ジョセフ、ロゼッタ、エリックは、『クワンティック・エグゾダス』における代表的な要所(ようしょ)である、ティレニア城の門をくぐった。


(おお! ゲームと同じだ!)


基本的にはヨーロッパ調(ちょう)の城だが、日本人が「西洋のお城」と言われてまず想像する『ノイシュヴァンシュタイン城』と比べると、もっとシンプルなつくりだ。

大雑把(おおざっぱ)に言うなら、「石でできた巨大な重箱(じゅうばこ)」かな。

大きな四角形の石の箱の中に、壁で仕切(しき)られた、さまざまな大きさの部屋がある。

現実に存在しているから、細部の解像度は当たり前に高いが、デザインなどは非常に簡素だ。

通路には毛足の長い、赤い絨毯が敷かれているが、壁はごつごつとした石肌(いしはだ)が露出したまま。

所々(ところどころ)に背の高い燭台(しょくだい)が置かれ、天井にはいくつものシャンデリア(蝋燭をつかうタイプのもの)がぶら下がっている。

玉座の間には、壁に大きなタペストリーがかかっていたはずだが、それを目にするのはもう少し後だろう。

城に到着してすぐに、おれたちは待合室へ通された。

自分たちの出番が回ってくるまで、ここで待機するようだ。


「うう、緊張する……」


マリンが両腕を胸の前にぎゅっと寄せる。

いま彼女が着ているのは、緋色(ひいろ)のワンピースドレスだ。

胸(むな)もとに小さなバラの形の飾りがついていて、これも同じく緋色だった。

髪の色とマッチしていて、とてもいい。

普段は肩までの長さの髪をそのままにしているが、今日はポニーテールになっている。

うん、これもいい。

そして、ちらちらとおれたちの方を見ては、ちょっと恥ずかしそうに顔を背ける。

うん、うん。とても可愛い。


「ふふ。大丈夫ですよ。私も、陛下とははじめてお会いするのですが、陛下はとてもお優しいお方だとうかがっています」


ロゼッタが、穏やかな声音でマリンに言う。

彼女の服は、ベージュ色のワンピースドレスだ。

絹のような光沢のある素材で、水流のような模様が、薄く入っている。

彼女によく似合っていて、貴族令嬢らしく、気品にあふれて見える。

マリンと違い、こちらはいつも通りに、腰までの長さの髪を、そのままにしている。

おれ、アーサー、ジョセフも正装しているが、特に説明するほどのことはなにもない。

男の礼服(れいふく)なんて、大抵みんな同じだろ。

エリックの正装は軍服で、胸には4つの勲章がつけられている。

普段、おれたちに優しく接する姿しか見ていなかったので、その姿は新鮮だった。

まあ、おれはゲームで、エリックがどんな人かは知ってるんだけどね。

しばらくして、案内役が呼びに来たので、おれたちは気を引き締めて玉座の間に向かった。


◇ ◇ ◇


玉座の間はこの城で一番大きな部屋にあった。

広さは、バスケットボールコート二面分くらいで、天井も十メートル以上はある。

壁の高い位置には採光用(さいこうよう)の窓がいくつかあり、その窓と窓の間の壁に、ロディマス王家の紋章が描かれたタペストリーが垂れ下がっている。

床はほかの部屋や廊下と同様に、赤い絨毯が敷かれ、出入口から玉座への間のみちのみ、金縁(きんぶち)に濃紺色の絨毯になっている。

部屋の奥に段差があって、一段高くなっている場所に豪奢(ごうしゃ)な椅子が二脚配置され、おれから見て右側に壮年(そうねん)の男、左側に妙齢(みょうれい)の女が座っていた。

おれにとっては知った顔の人物たちで、右側の男が国王、左側の女が王妃だ。

それから、国王にほど近い場所に、王妃と同じく妙齢の女がひとりと、十代なかばの少女がひとり、十代の少年が三人立っている。

その少年たちの中に、ちょっと気になる人物がいた。

三人の少年のうち、ゲームに出てきたのは、第一王子のレックス・ロディマスだけで、あとのふたりはゲームにはいなかったから、はじめて見る顔のはずだ。

けれど、その片方が、自分のよく知る人物に少し似ている気がしたのだ。


「久しぶりだな、エリックよ。息災(そくさい)であったか?」


ロディマス王国の現国王、ハワード・ロディマスが、エリックにそうたずねる。

明るい金髪に碧眼。

肌は白く、体型は中肉中背。

年はそこそこいっているが、まだ髪はふさふさで、美形だ。

豪奢なローブを着て、その頭に金色の王冠を乗せている。


「お久しぶりです、国王陛下。私どもが健(すこ)やかでいられますのも、陛下のご温情(おんじょう)と、ご治世(ちせい)の賜物(たまもの)でございます」


エリックが頭を深く下げて答える。

この場では、床に膝をつく跪拝(きはい)ではなく、おれたちはみんな立ったままだ。


「はっはっはっはっ、そのようなもの言いはよせ。お前にそのように言われると、からだがかゆくなるわ。逆だ、逆。余がこの椅子でふんぞりかえっていられるのは、お前のような家臣がいてくれるおかげだ」

「もったいなきお言葉でございます」

「だから、よせというのに。して、今日はどうした? ああ、もしかしてお前もか?」

「はっ。本日は陛下にご紹介したいものたちがおりまして、連れて参った次第(しだい)でございます」

「ふむ。そうか。お前も勇者候補を見つけたのだな」

「はっ。必ずや陛下のお気(き)に召《め》すものたちかと」

「ほお。お前がそこまで言うとはな。どれ。お前たち、名を申すがよい」


ハワードが、マリンとアーサーに向かって言う。

ああ、おれも含まれてるのか。


「パイク村のアーサーです」

「パ、パイク村の、マ、マリンです」

「パイク村のロバートです」


命じられた通り、順番に名乗る。


「ふむ。お前たちは、なぜここへ連れてこられたか、わかっておるか?」


いつもならこういう場面では、大抵おれが答えるが、今日の主役はアーサーとマリンだ。

おれはアーサーを見つめて、「お前が答えるんだ」と無言のメッセージを送る。

アーサーは緊張しながらも、おれに頷いてみせ、


「えっと、あの、勇者を決める儀式があって、それに参加するためにこの町に来て、けどその前に、国王陛下にご挨拶にき、参りました」


多少たどたどしいが、しっかりと答えた。


「お前は勇者になりたいか?」


ハワードが質問をつづける。


「はい。それでみんなを守れるなら」


アーサーは真剣な表情で、そう口にする。


「とてもつらい目にあうとしてもか?」

「はい、構いません」

「なにを犠牲にしてもか?」


ハワードの言葉に、アーサーが表情を曇らせる。

即答せず、ちょっとの間を置いてから、自分の正直な思いを述べる。


「……ぼくが犠牲になるのは構いません。でも、他には誰も犠牲にしたくありません。もしも……ぼく以外の人の犠牲が必要なら、ぼくは勇者になりたくありません」

「ほう。勇者になれずとも、構わんのか?」


ハワードの眼光が鋭くなる。

アーサーが再びおれの顔を見た。

おれはアーサーの目を見つめて、「全部正直に言っていい」と無言のメッセージを送った。


「はい。別に構いません。ぼく以外の誰かの犠牲が必要なら、ぼくは勇者になんてなりたくない。だから、勇者になれなくても、ぼくは、ぼくのやり方でみんなを守ります」

「勇者でなければ、魔王は倒せぬぞ。それに、魔族どもも生半可(なまはんか)な強さではない。もしもそやつらが、大挙(たいきょ)してこの国に攻めてきたならば、勇者でないお前は、みなを守れると思うか?」

「……わかりません。でも、ぼくはやっぱり、そのために誰かが犠牲になるなんて嫌なんです」

「もしも余が命じたら、どうする? お前に『犠牲を払って勇者となり、我らを守れ』とな」

「断ります。けど、ぼくが自分の力でみんなを守ることに変わりはありません。命令なんてされなくても、それがぼくの一番やりたいことです」

「お前は、勇者の力を持たずとも、強大な力を持った敵と戦うと申すのか?」

「はい」

「魔王軍が怖ろしくはないのか?」

「怖いです。すごく……けど、だからこそ、みんなにはこんな怖い思いはさせたくない。そのために、ぼくは自分の力を使いたい……です」

「ふむ。なるほどの……」


ハワードは視線を少し上にあげ、どこか遠くを見つめた後、エリックに目を移した。


「エリックよ」

「はっ」

「お前の言う通りだ。気に入った」

「はっ。ありがたき幸せ」


エリックがまた、深く頭を下げた。

おれはアーサーの肩に手を置いて、「よく言えた」と無言のメッセージを送る。

アーサーはおれに向かって、照れ笑いをうかべた。

そんな折(おり)に、


「侯爵閣下、困ります。まだ謁見は終わっておりません。お呼びするまでお待ちください」

「うるさい! やつが来ているそうだな! そこをどけ!」


玉座の間の出入り口で、押(お)し問答(もんどう)をする声があがる。


「なにごとだ?」


ハワードが声を大きくして、手近な衛兵にたずねる。


「確認して参ります」


衛兵がそう言って出入り口に向かうが、すぐに足を止める。


「こ、侯爵閣下……」

「邪魔だ! そこをどけ!」


向こうからやってきたものに一喝(いっかつ)され、衛兵が困り顔でハワードを見やる。

ハワードは軽く右手をあげて、衛兵に「なにもしなくてもいい」と合図を送った。

そうこうしているうちに、初老の男と見覚えのある少年のふたり組が、おれたちのそばまでやってきた。


「陛下! お聞き下さい!」


ハワードに騒がしく告げるこの男こそ、ハリス・デント侯爵だ。

この国の宮廷貴族で、年齢はおそらく五十代。

黒髪黒目で浅黒の肌。

背はおれより少し高く、痩せ型。

昨夜出会ったオズワルドの父親である。

そのオズワルドも、ハリスと一緒に、この場に参上していた。


「ハリスよ、見てわからんのか? いまは謁見中だ。後にしろ」

「いえ! 陛下! こやつがここにいる、いま、お聞ください!」


ハリスが口角(こうかく)の泡を飛ばすような勢いでまくしたてる。

国王に本当につばを当ててしまったら、どうするつもりなんだろう。


「こやつは勇者候補として、山で暮らしていたサルどもを、陛下の御前(ごぜん)に連れて参ったそうではありませんか。なんとも無礼(ぶれい)千万(せんばん)でございましょう」


ハリスが人差し指を、エリックに向ける。

すぐそばで怒鳴られても、エリックは眉一つ動かさない。

これが成熟した大人の態度か。

尊敬しちゃうな。

けれど、握りこんだ拳には血管がういていた。

サル呼ばわりされた当のアーサーとマリンを確認してみると、ふたりともぽかんとしていて、怒ってはいない。

おれはと言えば、自分のことはどうでもいいが、推しの悪口にはいくらか腹が立つ。


「サル、のお。それで、お前はなにが言いたいのだ?」


ハワードが面倒くさそうに訊く。


「そのような輩は、即刻(そっこく)この王都からつまみ出して、山へ捨てて参りましょう」


ハリスが熱のこもった声で言う。


「なにを勝手なことを言っておる。このものたちは、エリックが勇者候補として連れてきたものたちだ。無論、選定の儀を受ける資格がある」

「勇者は選ばれしもの。こんな山ザルどもが選ばれることなど、万に一つもございません」


ふーん、そうか。

これは一年後の、ハリスの悔しがる顔が楽しみだな。


「……今日は、お前も勇者候補を連れてきたのではないのか? そのものか?」

「はい。私の息子で、オズワルドと申します。オズワルド、陛下にご挨拶を」

「はい。国王陛下。おはつにお目にかかります。デント侯爵家三男、オズワルド・デントでございます」


ハリスの隣で控えていたオズワルドが、ハワードに向かって深々と頭を下げる。


「うむ。ハリスよ、では、お前の息子こそが、勇者にふさわしいと申すのだな?」

「いかにもでございます」

「そうか。まあ、ついでだ。お前にもたずねよう」


ハワードがオズワルドに目を向ける。


「はい。なんなりと」


オズワルドは、直立姿勢で身構えた。


「お前は勇者になりたいか?」

「はい」

「いかにつらくともか?」

「はい。陛下のおんため、この身を尽くす所存でございます」

「余のためか?」

「はい。もちろんでございます」

「なにを犠牲にしてもか?」

「はい。勇者になるものはその覚悟がなければつとまりません。たとえ最愛のものを犠牲にしたとしても、私は勇者になりたいと思います」


オズワルドの返答を聞き、おれは苦笑をうかべた。


(これは、面接で言っちゃだめな回答のやつだ。おれもやっちまったことがある。受かりたくて、相手が望むような薄っぺらな答えばっかり並べちゃうんだよな)


「ふむ。そうか。参考になった」


ハワードはほとんど表情を変えず、質問を終わらせた。


「いろいろとたずねたが、勇者を選ぶのは余ではない。勇者は、聖剣によってのみ選ばれる。余は、どのものにも資格があると思っている。アーサーたちにも、オズワルドにもな」

「陛下、ご冗談がすぎますぞ。このような山ザルどもと私の息子が、同列だと申されますか……」

「一体、なにが不満なのだ……」


ハワードが、大きくため息をつく。

あきれる気持ちはよくわかるが、こいつになにを言っても無駄だろうな。


「こ、国王陛下!」


オズワルドがなにかに気づいて、慌てて大声をあげる。


「今度はなんだ?」

「じ、実は昨日、城下のレストランで、そこの平民の男に暴力を振るわれました」


先ほどの父親を真似るようにして、アーサーを指さした。


「なんだと? それはまことか?」


ハワードが、かたちのいい眉をひそめる。


「はい。いまでもくっきりと、腕に痣(あざ)が残っております」


オズワルドが服の袖をまくって腕を見せると、確かに薄(う)っすら手のあとが残っている。

それを視認(しにん)し、ハワードの眉間のしわはより深いものになった。


「国王陛下。よろしいでしょうか?」


これまで黙っていたジョセフが、一歩前に進み出た。


「お前は?」


ハワードの眉が、今度は上にはねあがる。


「申し遅れました。ニューポート伯爵家のジョセフ・ニューポートでございます」


貴族の子息らしく、ジョセフは優雅(ゆうが)に一礼した。


「ふむ。エリックの息子か。噂では、神童と聞いておるぞ。それで、なにかあるのか?」

「はい。昨夜、件のレストランで起こった一連のできごとを、私から説明させていただきたく存じます」

「うむ。いいだろう。それで、なにがあったのだ?」

「私ども、ここにいる五人で、フリージアのレストラン『鳴き梟亭』にて食事をしていた際に、店内で聞くに耐えない暴言を耳にしました」

「聞くに耐えない暴言、とな? なんと言っておった?」

「『おれはこれから、勇者になるんだぞ。その意味がわかっているのか。おれの気を損ねるようなまねをすれば、この世界はどうなると思っているんだ』と」

「ううむ、それは確かに、聞くに耐えない暴言よの」

「はい。そこで、ここにいる私の姉、ロゼッタが、それをやめさせようと声の主のもとへ向かいました」

「ほう、勇敢な行為だな。すると、お前がエリックの娘だな。確かに、メリルによく似ている。いまも十分に美しいが、数年後には、間違いなく社交界の華となるだろうな」

「もったいなきお言葉をたまわり、感謝申しあげます」


顔を赤くして、ロゼッタが頭を下げる。


「すまんな。話がそれたか」

「いえ。とんでもございません。それでは、つづけさせていただきます。ロゼッタが向かった先にいたのは、オズワルドさまでした。ロゼッタはオズワルドさまに対し、暴言の撤回と謝罪を求めました。その時に、オズワルドさまがロゼッタに手を伸ばされたので、アーサーがふたりの間に入り、オズワルドさまの腕を掴んだのでございます」

「ふむ。なるほど。アーサーはロゼッタを守ろうとしたのだな」


ハワードがアーサーを見る。


「はい」


アーサーは言葉少なに答えた。


「アーサーの行いは、まさに騎士の行いだ。余はそれを責めるつもりはない。だがな……」


ハワードは、残念そうに肩をおとした。


「この王国には、不敬罪(ふけいざい)という法によって定められた罪がある。平民が貴族に手を上げてはならないというものだ。残念ながら、おまえの行いはそれに当たる。刑罰はこれから行う裁判によって決まるが、極刑(きょっけい)もありうる。すなわち死罪(しざい)だ」


その言葉に、場の空気が凍りつく。

アーサーは呆然として俯(うつむ)き、ロゼッタは小さく震えている。

さすがに、エリックも顔を青くして、口を一文字に引き結んでいる。

そして、マリンは心配げにアーサーを見つめ、瞳に涙をうかべていた。

おいこら、ふざけるなよ。

推しを泣かす奴は、最低だ。

おれはデント侯爵親子を睨(にら)んだ

ふたりの顔には、醜悪(しゅうあく)な笑みがうかんている。

いいだろう。

これからお前たちを、絶望の底に叩き落してやる。

おれは視線を、ジョセフに移した。

ジョセフはみんなのように、悲嘆(ひたん)にくれてはいない。

おれのほうを見て、なにやら無言のメッセージを送ってきていた。

わかっているよ。

こう言いたいんだろ?

あなたなら、なんとかできますよね、と。

ああ、もちろんだ。

なんせ、おれはこのゲームをやりこんでいるからな。


「国王陛下。私からも、よろしいでしょうか?」


思わぬところから声が上がったためか、ハワードは驚いて目を見開いた。


「お前は確か、ロバートだったな。なんだ? まだなにかあるのか?」

「この裁きには、決闘(けっとう)裁判(さいばん)を提案いたします」


おれがそう言うと、大人たちが一斉にざわめいた。

ジョセフ以外の子供たちは、意味がわからずに戸惑っている。


「ほう。ロバートよ。よく知っておるな」


ハワードは、先ほどまでの暗い表情から一転して、その顔に含みのある笑みをうかべた。


「なるほど。決闘裁判か。この王国では、実に百年ぶりではなかろうか」


ハワードは虚空に目を向けて、王国の歴史を振り返っているようだ。

それはいまはどうでもいい。


「アーサーの行いは、国王陛下もお認めになったように、なにも間違ってはいない。しかし、法の上では罪であると。正しきは人道か法か。それを決闘によって決めてはいかがでしょうか。神も、きっと正しき方をお選びになるかと」


おれは精一杯、神妙な面持ちになって説(と)いた。

実際にヨーロッパで行われていた決闘裁判では、もちろん法が優先されるし、貴族同士でしか成立しなかったみたいだから、いまみたいな言葉は通用しない。

だが、ここはゲームをもとにした世界。

貴族優位の中世の価値観ではなく、緊急(きんきゅう)避難(ひなん)がちゃんと認められている、現代日本の価値観で作られた、ファンタジーの世界だ。

ゲームの中でも、こうして決闘裁判が行われる場面があった。

だからこれが通用することを、おれは知っているのだ。


「うむ。異論はない。よし! この裁きは、決闘裁判とする!」


ハワードの宣言を聞いて、ハリスが慌てて抗議する。


「陛下! 少しお待ちを! 私は、まだなにも!」

「ハリスよ、勘違いするなよ。この王国での決闘裁判は、国王に決定権があるのだ。余がそうすると言えば、お前の許可などいらん」

「そ、そんな……」

「まあ、なにせ久方ぶりだからな。余もそれを思い出すのに、少々苦労したぞ。当然、余が決闘裁判を決定したのも、これがはじめてだがな」


ハワードが、わははと笑う。


「この場には知らぬものもいよう。この王国における決闘裁判は、訴えのあるものと訴えられたもの、この両名が一対一の決闘によって、罪の有無(うむ)を決めるというものだ。この決闘では、貴族と平民は平等に扱われる」


それを聞き、あるものたちは、希望を見いだして表情を明るくし、あるものたちは、思い通りにならなかった無念さで表情を暗くする。

見事に明暗が逆転したな。

おれはハリスたちのほうをちらりと見て、ほくそ笑んだ。


「なに、決闘裁判は、代理も認められておる。息子の身が心配なら、代わりを用意すればよい。オズワルドよ、お前はどうしたい?」

「わ、私は……利き腕を怪我しているので、本調子(ほんちょうし)ではございません。代理を立てたいと思います……」

「そうか。アーサーよ、お前もだ。代理を立てることもできるが、どうする?」

「いいえ。ぼくが自分でやります」

「そうか、わかった。決闘裁判は、訴えられたものの逃亡を防ぐため、なるべくはやく行う必要があるが、そうだな……」


ハワードはここに集まった一同を見回し、


「決闘裁判の日時は明日の正午。場所はこの城の練兵(れんぺい)場(じょう)にて。両者、それまでに万全(ばんぜん)の準備をするように」

「はい」

「はっ」


ハワードの申し渡しに、両名が返答する。


「余はまだエリックたちに話がある。ハリスよ、お前たちは先に帰るがよい」

「う……は、はい……」


まだなにか言い足りなさそうだったが、ハリスたちはしぶしぶ玉座の間を退出した。

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