19.王都に到着
王都へ到着したのは、アザレアを出てからちょうど七日後だった。
途中で魔獣の群れに襲われたが、すぐにおれたちが撃退したため、ほぼ予定通りにたどり着くことができた。
魔獣に襲われた時に、エリックが一瞬いなくなっていたので、騎士にどうしたのかとたずねたら、「伯爵閣下は所用だ」と言われた。
緊急時にお花を摘みに行くとは、さすがはエリック。豪胆だなと感心してしまった。
「わあ! たくさんの人がいるね。アザレアも人が多かったけど、ここはそれ以上だね」
ロディマス王国随一の町を目にして、アーサーが感嘆の声をあげる。
おれとマリンも、それぞれ目をまるくした。
まだ王都に入ったばかりだが、馬車の窓から見る町の風景に、おれたちはすっかり驚いていた。
ロディマス王国の王都、フリージア。
王族が住まう『ティレニア城』を中心として、蜘蛛の糸のように放射線状に街路が広がり、それに沿って大小さまざまな建物が並ぶ。
王都の外周は高い壁で囲まれており、戦争などの有事の際には、要塞と化すようになっている。
敷地面積も王国一で、徒歩では一日で回りきれない広さだ。
住民の数は王国にある町の中で一番多く、商業施設の数も、来訪者の数も、フリージア以上の町はない。
おれにはゲームの知識があるため、この町のことはよく知っているし、どこになにがあるのか、すでに大体わかっている。
だが現実の世界で目の当たりにすると、とてつもない感動がおれの胸に押し寄せてきた。
人目がなければ、おれは涙を流していたと思う。
「なによ、ロブ。あんた泣いてるの?」
え、嘘だろ?
マリンのその言葉の真偽を確かめようと、目をこすってみる。
すると、手の甲がほんのりと濡れていた。
「仕方ないわね。ほら」
マリンが向かいの座席から身を乗り出して、おれの目を自分の服の袖口でぬぐってくれた。
「あ、ありがとう」
思いもよらない事柄に、気恥ずかしくなってしまったが、本気で気遣うような表情のマリンに、素直に礼を述べた。
「本当に凄いよね。ぼくも感動してるよ」
アーサーが、優しくフォローしてくれる。
うん、いい幼馴染たちだな。
「王都はとても素敵なところです。町中を巡ったら、もっと驚きますよ」
ロゼッタがにこにこして、楽しそうに言う。
三人で顔を見合わせて、おれたちも一緒に微笑んだ。
完全におのぼりさんだが、誰になにを言われても別に構わないだろう。
みんなで町を巡るのが、いまから楽しみだ。
「まずは宿へ行きましょう。それから準備を整えて、明日城へ」
ジョセフは、やはりいつも通りの無表情でそう告げ、おれたちはしっかりと頷いた。
◇ ◇ ◇
宿屋に着いたおれたちは、一旦それぞれの客室で、くつろぐことになった。
客室はふたり部屋の仕様で、おれとアーサー、マリンとロゼッタ、ジョセフとエリックがそれぞれ同室になっていて、護衛の騎士たちはどこか別の場所に泊まるようだ。
おれとアーサーが部屋で他愛のない話をしていると、ジョセフがやってきた。
「明日の国王陛下との謁見について、少しだけお話しておこうかと」
部屋のテーブルを囲んで、ジョセフの説明を受ける。
「謁見の場には国王陛下の他に、王妃殿下と第一王子殿下、第一王女殿下もいらっしゃるかと思います。そして、側妃殿下と第二王子殿下、第三王子殿下がいらっしゃる可能性もあります」
その説明に「あれ?」となった。
側妃、第二王子、第三王子の知識がおれにはない。
ゲームには登場しなかったからだ。
けれど、別段おかしなことではないので、なにも言わず黙っておく。
「それから日程の進み具合によっては、他の貴族や、彼らが擁する勇者候補と、はち合わせになる可能性もあります」
なるほど。
それってもしかしたら、そいつらとトラブルになる可能性があるということか。
貴族たちはみんな、覇権争いのライバルらしいからな。
勇者候補たちも、その貴族たちに、なにか吹き込まれているかもしれない。
一応はおれたちも、エリックにそのことは聞いているが、大して問題にはしていない。
だが、こちらが気にしていなくとも、向こうはそうとは限らないか。
「国王陛下に対しては、直接目を合わせても構いません。直接会話しても問題ありません。もちろん、失礼のないように振る舞う必要はありますが」
城の中を探索し、タンスや宝箱を開けて回って、中身を勝手に持ち去ったりしたら、きっとアウトだろうな。
それくらいは、おれもわかっている。
「色々と決まりごとがあるんだね。王さま──じゃないや、国王陛下にお会いするのって、大変なんだね。ジョセフは何度目なの?」
アーサーにたずねられ、ジョセフは首を横に振った。
「私も今回がはじめてです。フリージアに来たのも、まだ二度目です」
「じゃあ、ジョセフも緊張する?」
「ええ、少し」
「よかったぁ。あ、ごめん……ぼくだけだったら、恥ずかしいから……」
アーサーがちらりとこちらを見るので、おれも答えた。
「おれも緊張してるよ」
「そっか。ふふふっ」
アーサーが照れ笑いをうかべる。
ここにマリンとロゼッタがいなくてよかったよ。
もしも、この顔を間近で目にしていたら、ふたりとも明日の朝まで呆けていたことだろう。
「──ということで、大まかな流れは以上になります。なにか質問はありますか?」
ジョセフの説明を聞き終わり、おれたちは「質問はない」という意味で首を横に振った。
「それでは、食事に行きましょうか。近くのレストランを予約しているそうです。評判のいい店らしいですよ」
この世界では、塩や胡椒、砂糖は普通に手に入る。
人々の味覚も、元日本人のおれやジョセフとほとんど同じみたいだから、王都で好評なら、きっと美味いに違いない。
「それは楽しみだな」
「うん。伯爵閣下のところの料理も美味しかったけど、ここの料理はどんなだろう?」
期待に胸をふくらませながら、おれたちは部屋を出た。




