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19/31

19.王都に到着

王都へ到着したのは、アザレアを出てからちょうど七日後だった。

途中で魔獣の群れに襲われたが、すぐにおれたちが撃退したため、ほぼ予定通りにたどり着くことができた。

魔獣に襲われた時に、エリックが一瞬いなくなっていたので、騎士にどうしたのかとたずねたら、「伯爵閣下は所用(しょよう)だ」と言われた。

緊急時にお花を摘みに行くとは、さすがはエリック。豪胆(ごうたん)だなと感心してしまった。


「わあ! たくさんの人がいるね。アザレアも人が多かったけど、ここはそれ以上だね」


ロディマス王国随一(ずいいち)の町を目にして、アーサーが感嘆の声をあげる。

おれとマリンも、それぞれ目をまるくした。

まだ王都に入ったばかりだが、馬車の窓から見る町の風景に、おれたちはすっかり驚いていた。


ロディマス王国の王都、フリージア。

王族が住まう『ティレニア城』を中心として、蜘蛛の糸のように放射線状に街路(がいろ)が広がり、それに沿って大小さまざまな建物が並ぶ。

王都の外周は高い壁で囲まれており、戦争などの有事(ゆうじ)の際には、要塞(ようさい)と化すようになっている。

敷地面積も王国一で、徒歩では一日で回りきれない広さだ。

住民の数は王国にある町の中で一番多く、商業施設の数も、来訪者の数も、フリージア以上の町はない。

おれにはゲームの知識があるため、この町のことはよく知っているし、どこになにがあるのか、すでに大体わかっている。

だが現実の世界で目の当たりにすると、とてつもない感動がおれの胸に押し寄せてきた。

人目(ひとめ)がなければ、おれは涙を流していたと思う。


「なによ、ロブ。あんた泣いてるの?」


え、嘘(うそ)だろ?

マリンのその言葉の真偽(しんぎ)を確かめようと、目をこすってみる。

すると、手の甲がほんのりと濡(ぬ)れていた。


「仕方ないわね。ほら」


マリンが向かいの座席から身を乗り出して、おれの目を自分の服の袖口(そでぐち)でぬぐってくれた。


「あ、ありがとう」


思いもよらない事柄(ことがら)に、気恥(きは)ずかしくなってしまったが、本気で気遣(きづか)うような表情のマリンに、素直に礼を述べた。


「本当に凄いよね。ぼくも感動してるよ」


アーサーが、優しくフォローしてくれる。

うん、いい幼馴染たちだな。


「王都はとても素敵なところです。町中を巡(めぐ)ったら、もっと驚きますよ」


ロゼッタがにこにこして、楽しそうに言う。

三人で顔を見合わせて、おれたちも一緒に微笑んだ。

完全におのぼりさんだが、誰になにを言われても別に構わないだろう。

みんなで町を巡るのが、いまから楽しみだ。


「まずは宿へ行きましょう。それから準備を整えて、明日城へ」


ジョセフは、やはりいつも通りの無表情でそう告げ、おれたちはしっかりと頷いた。


◇ ◇ ◇


宿屋に着いたおれたちは、一旦それぞれの客室で、くつろぐことになった。

客室はふたり部屋の仕様(しよう)で、おれとアーサー、マリンとロゼッタ、ジョセフとエリックがそれぞれ同室になっていて、護衛の騎士たちはどこか別の場所に泊まるようだ。

おれとアーサーが部屋で他愛(たあい)のない話をしていると、ジョセフがやってきた。


「明日の国王陛下との謁見について、少しだけお話しておこうかと」


部屋のテーブルを囲んで、ジョセフの説明を受ける。


「謁見の場には国王陛下の他に、王妃殿下と第一王子殿下、第一王女殿下もいらっしゃるかと思います。そして、側妃(そくひ)殿下と第二王子殿下、第三王子殿下がいらっしゃる可能性もあります」


その説明に「あれ?」となった。

側妃、第二王子、第三王子の知識がおれにはない。

ゲームには登場しなかったからだ。

けれど、別段(べつだん)おかしなことではないので、なにも言わず黙っておく。


「それから日程の進み具合によっては、他の貴族や、彼らが擁(よう)する勇者候補と、はち合わせになる可能性もあります」


なるほど。

それってもしかしたら、そいつらとトラブルになる可能性があるということか。

貴族たちはみんな、覇権(はけん)争いのライバルらしいからな。

勇者候補たちも、その貴族たちに、なにか吹き込まれているかもしれない。

一応はおれたちも、エリックにそのことは聞いているが、大して問題にはしていない。

だが、こちらが気にしていなくとも、向こうはそうとは限らないか。


「国王陛下に対しては、直接目を合わせても構いません。直接会話しても問題ありません。もちろん、失礼のないように振る舞う必要はありますが」


城の中を探索(たんさく)し、タンスや宝箱を開けて回って、中身を勝手に持ち去ったりしたら、きっとアウトだろうな。

それくらいは、おれもわかっている。


「色々と決まりごとがあるんだね。王さま──じゃないや、国王陛下にお会いするのって、大変なんだね。ジョセフは何度目なの?」


アーサーにたずねられ、ジョセフは首を横に振った。


「私も今回がはじめてです。フリージアに来たのも、まだ二度目です」

「じゃあ、ジョセフも緊張する?」

「ええ、少し」

「よかったぁ。あ、ごめん……ぼくだけだったら、恥ずかしいから……」


アーサーがちらりとこちらを見るので、おれも答えた。


「おれも緊張してるよ」

「そっか。ふふふっ」


アーサーが照れ笑いをうかべる。

ここにマリンとロゼッタがいなくてよかったよ。

もしも、この顔を間近(まぢか)で目にしていたら、ふたりとも明日の朝まで呆(ほう)けていたことだろう。


「──ということで、大まかな流れは以上になります。なにか質問はありますか?」


ジョセフの説明を聞き終わり、おれたちは「質問はない」という意味で首を横に振った。


「それでは、食事に行きましょうか。近くのレストランを予約しているそうです。評判のいい店らしいですよ」


この世界では、塩や胡椒(こしょう)、砂糖は普通に手に入る。

人々の味覚も、元日本人のおれやジョセフとほとんど同じみたいだから、王都で好評なら、きっと美味いに違いない。


「それは楽しみだな」

「うん。伯爵閣下のところの料理も美味しかったけど、ここの料理はどんなだろう?」


期待に胸をふくらませながら、おれたちは部屋を出た。

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