98話
ロイドの持つ白い剣は、白い光を放つ。
白い光に包まれたロイドは、精神世界にいた。
真っ白い世界。
何もなくただ広い空間。ポツンとそこに立つロイドは、周りを見渡す。
頭上から夜空のような長髪、星の形をした黄金の瞳、海のようなグラデーションをした鮮やかな羽衣に身を包んだ女性が現れる。
「初めましてロイド。 私は、精霊たちの王です。私の眷属が迷惑をかけたみたいでごめんなさい。」
精霊王は深々と頭を下げる。
「シリウス様やシャルル様は、生きているのでしょうか?」
「生きているわ。でもこのままだとあの幼き天使に殺されるわ。」
「どうすれば。」
ロイドは、弱い自分を責めるように血が出るほど拳を強く握り締める。
「本気になった彼、ルクスなら倒せるけど。それだと意味がないわ。――ロイド、キミがあの天使を倒すの。今から強制的に貴方の中に眠っている力を解放させる。」
「力?」
「貴方は、この世界を救う勇者の1人。――貴方の中に眠る勇者の力は、世界に絶望し怒りよって覚醒するはずだった。でも。ルクスによってその絶望は、消された。」
「それじゃあ。今のボクは」
精霊王は、天に指差すと真っ白な雲が現れ何かの映像を映し出す。
映し出された映像には、身体を丸くして眠る龍の姿。その龍の膨大な魔力は、黒い太陽ように輝き荒野を照らしていた。
「世界を滅ぼす魔王たちは、未だ眠っている。だから今回のキミたちは、強くなる猶予がある。だからその絶望を体験させてあげるわ。今回のキミでは、体験して来なかった別のキミの記憶をね」
「え?」
精霊王は、ロイドの額を人差し指の腹で触れるとロイドの脳内に映像――記憶が流れる。
その記憶は、大地は、枯れて食糧難となりそこに追い討ちをかけるように疫病が蔓延して多くの人々が亡くなっていた。ロイドの家族たちも貧困に陥り母親と妹を疫病で失った。
ロイドの街の領主は、自分の家族を守るために税を上げた。困窮になった領民は、クーデターを起こした。だが敗北した。そのクーデターに参加していた父親も失い世界に絶望したロイドは、領主を強く恨み領主を殺すことを決意する。
その強い願いは、ロイドの眠る力を呼び起こした。
疫病の発生源であるゴブリンスタンピードは、ロイドの街に襲来。だが力に目醒めたロイドの敵ではなかった。
ゴブリンスタンピードを退けたロイドは、英雄となった。
「ああああああ!」
あり得ない記憶は、ロイドを苦しめその場に膝から崩れ髪を強く握る。
「違う。あの人があの厄災を止めてくれたんだ。それにボクの母さんと妹は、あの人によって救われたんだ。」
「そうよ。今の貴方は、ルクスによって救われた。本来、味わうはずの絶望は、来なかった。彼が行いが魔王の目覚めも遅らせた。」
「ならどうして」
大量の涙を溢しぐちゃぐちゃになった顔で精霊王を見る。
「魔王が目覚めたら彼だけでは、対処できない。だから貴方たちも力を覚醒させて魔王に立ち向かって欲しいのよ。」
その発言にロイドは言葉を詰まられる。
精霊王は、ロイドの肩に手を置く。
「その記憶を受け入れて今の幸せを感じて守るために戦うことを決意してそうすれば目醒めるから」
「守る。」
ロイドは、ゆっくりと静かに瞳を閉じる。
味わうはずだった絶望と家族が幸せに暮らす今の記憶が合わさる。陰と陽が混ざり合う。
ロイドの魂は、輝きを放つ。
家族が笑って過ごせる世界を守りたいという強く願いは、ロイドの中にある閉じられた勇者の扉をこじ開ける。膨大な魔力の波が押し寄せる。
激流に飲まれそうになるが必死に止まろうとする。
ゆっくりと力の流れを掴むことができたロイドは、膨大な魔力の激流を操り流れを穏やかにする。
ゆっくりと目を開く。
笑みを浮かべる精霊王は、安心したようでロイドから離れる。
「さて、準備はいい?」
「はい。」
「じゃあーあの天使を倒してきなさい。そして、彼の力になってあげてね。頼んだよ。」
精霊王は、パンっと手を鳴らすと眩い光を放つ。
ロイドは、目を開き立ち上がり刃を天使に向ける。
天使は、オモチャが壊れていなかったことに興奮して浮上し大量の魔力球を作り出し笑う。




