82話
ゼノスは、スッーと放出していた魔力を引っ込め顔を何度も振るう。
「私は違う。私は『奴』では、無い。呑まれるな。私は、ゼノスだ。」
正気に戻ったゼノスは、自己暗示をし魔力を落ち着かせる。
余裕をしていたヴァイアは、渾身の一撃だと思われる大振りの攻撃を避けられた。素早い動きのロイドよって懐に潜られ剣先を首に向けられていた。今や劣勢な状況になっていった。
一歩でも動けば刺すという殺気を放つロイドに圧倒され手から大剣が溢れ落ちヴァイアは、腰を抜かし頭を抱える。
「俺が平民に負けた? あり得ない! 俺は『若き英雄』なんだ! 違う若き英雄は、ルクスだ 違う俺がルクスだ!」
意味のわからないことを叫ぶ。
ヴァイアの叫びと共鳴しゼノスの魔力が膨れ上がる。
満面の笑みを浮かべゼノスは、一瞬してヴァイアの背後に立つ。
「実った! これであと少し! さぁ! ヴァイア! 私を受け入れるのだ。さすればお前は、魔の者に進化する! さぁ、さぁ、さぁ!」
「俺に力を寄越せ!」
アイツは。何をする気だ。近づこうにも魔力の渦で近づけない。
ゼノスは、天上に魔法陣を召喚しその魔法陣から無数の闇色の細い手が現れる。
その手は、ヴァイアの口の中へと吸い込まれていく。
ヴァイアの肌が徐々に黒くなっていく。魔法陣から召喚される尋常じゃない闇色の手は、ヴァイアを包み、闇の繭を成形する。
「何が起こってる。」
クラスメイトたちもただ見届けることか出来ない。
ゼノスは、闇の繭の前に立つ。俺たちをまっすぐ見て微笑み背筋を伸ばし、肩の力を抜く。ショーを始めるようにお辞儀する。
「さぁ。新たなる『嫉妬ノ王』の誕生です。ご覧あれ!」
ゼノスがゆっくりと上半身を起こすとゼノスの背後の繭に亀裂が入り黒い光が漏れる。
ガラスが割れるように繭が崩れる。
闇のような紫色の肌、不気味に輝く赤い瞳、腰から生える蝙蝠のような翼、鋭い歯に獣ような爪。まさしくその姿は、人ならず者。
あれは、ヴァイアなのか。
人の道を外れた化物が崩れた繭の上に立っていた。
ギョロっと赤い瞳で俺たちを睨む。
「――ゼノス。俺は進化したのか」
「ええ。ヴァイア! 貴方は、進化を果たした。種族は、魔人にして『嫉妬ノ王』――インウィディアになったのです!」
嘘だろう。嫉妬ノ王。
やばい。本物か? 封印されていた宝具が使えるようになっている。
やるしか無い。身体が動かせない。
「そうか。魔人か。今なら偽物を殺せるか。」
「ヴァイア。まだダメです。目的は達しました。今はここから去りましょう。彼らが動けない間にね。」
ゼノスと目が合う。
ヴァイアは、ガッカリしたように見えた。
ゼノスが指を鳴らすと足元に大きな影がゼノスとヴァイアを包み飲み込んだ。
二人が消えると動けるようになっていたが誰もその場から動こうとしない。
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