32話:手の温もり
目が覚めた瞬間、外が騒がしかった。
コノハは跳ね起きた。
怒鳴り声。木が軋む音。何かを引きずる音。
(まだ戦ってる!?)
立ち上がろうとした、その瞬間。
すぱん、と戸が開いた。
「うわっ」
「うわっ」
お互いの声が重なった。
戸の向こうに立っていたのはサノだった。右腕に包帯。額にも包帯。着物のあちこちに滲んだ赤い跡。それでも飄々とした顔で、コノハを見下ろしていた。
コノハはサノを見た。サノはコノハを見た。
沈黙が三秒あった。
「……起きてたんだ」
サノが先に言った。
「……起きました」
コノハが答えた。
「外、まだ戦ってるのかと思って飛び起きたのか?」
「は、はい。そうですけど」
「終わったよ。今は修復してる」
「そうなんですか」
また沈黙。
コノハはサノの包帯を見た。右腕。額。肩のあたりも怪しい。軽傷、ではなさそうだった。
「……怪我、されたんですね」
「したね」
「痛いですか」
「痛い」
あっさり言った。コノハは思わず笑いそうになって、堪えた。
「手当て、ちゃんとしたんですか?」
「した。赤朔がうるさいくらいしてくれた」
「そうですか」
コノハはゆっくりと立ち上がろうとした。足元がふらついた。結界を張った後遺症がまだ残っているらしい。
サノが手を伸ばした。
「大丈夫か」
「大丈夫です」
「嘘つくな、ふらついてる」
コノハは素直に、サノの手を掴んだ。
温かかった。包帯越しでも、変わらず温かかった。
(どうして)
コノハは思った。
(どうして、この人の側にいると安心するんだろう)
理由が分からない。出会ってそれほど経っていない。記憶喪失で素性も分からない。それなのに、ずっと前から知っていたような気がする。
そんなはずはない。
でも、そう感じてしまう。
「コノハ?」
サノが顔を覗き込んでくる。
「……なんでもないです」
「顔赤いけど」
「結界の後遺症です」
「そっか」
サノは疑わなかった。コノハはそれに少し、ほっとした。
「サノさん」
「なに」
「……ありがとうございました」
サノは少し黙った。
「俺は何もしてないよ」
「してます」
「してない。コノハが結界張って、赤朔が戦って、俺はただ——」
「してます」
コノハは繰り返した。サノが黙った。視線を少し外した。包帯の巻かれた右手が、コノハの手をまだ掴んでいた。
どちらも、気づいていなかった。
あっさり風味




