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41.皇妃の苛立ち②

 気に入らない。ジャンナは、侍女と護衛騎士を引き連れて去っていくラリーサを憎々し気に睨みつけ、クルリと踵を返す。入ったばかりの下女に命じてラリーサのドレスを汚し、ラリーサがその下女に与える罰の内容にケチをつけてやるつもりだったのに。ラリーサのドレスは大して汚れておらず、罰の内容についても何も言うことが出来なかった。腹立たしい限りだ。しかも、けしかけた下女を取り込まれてしまった。適当な理由をつけて、後宮から放り出してしまうつもりだったのに……。

 背後から、ラリーサの侍女が〝行きましょう〟と下女へ向けた声が聞こえてくる。そのどこか澄ました声すら鬱陶しくて、ジャンナは僅かに歩みを早める。

 というか、アリスタルフがラリーサへドレスを贈ったとはどういうことか。長くアリスタルフの傍らに〝妃〟として在る己ですら、何かを贈ってもらったことなどそう多くはない。つい先日、共寝をせずに寝所を去ったことに対する詫びとしてネックレスをもらったけれど――そうだ。アリスタルフが贈り物をくれる時は、いつも何かしらの理由がある。何かの礼、何かの詫び、公務としての何かに必要だから……。あのように、何の理由付けもないような普段使いのドレスなど、贈られたことなど一度とてない。

「……陛下の子を産んだのは、私なのにっ」

 本来、あの地位にいるのは自分のはずなのだ。苦々しさと憎々しさを綯交ぜにした気持ちをぶつけるように、ジャンナは手の中の扇を折り曲げる。パキリと音を立てて壊れた扇を叩きつけるように投げ捨てれば、それをレベッカが静かに拾い上げ、背後に付き従う侍女へと渡す。

「ジャンナ様、今頃ですと、エルモライ様が剣の鍛錬をしていらっしゃるかと。参観されてはいかがですか?」

 レベッカの勧めに、ジャンナはしばし間を置いた後、苛立ちを収めるように大きく呼吸をする。


 アリスタルフとの間に授かった、可愛い一人息子。エルモライは、アリスタルフから〝皇帝〟の地位を譲られるために生まれてきた子だ。あんな小さな隣国からきた年増女になど、負けられない。絶対に、エルモライを皇帝にし、己は〝国母〟としてその傍らに立つのだ。そのために、まずは忌々しいあの女からアリスタルフを取り戻さなければ。


「そうね。たまには見に行ってあげないとね」

 ジャンナは可愛いエルモライのいといけな笑顔を思い浮かべ、口元に僅かに笑みを乗せる。

「今度、陛下にもエルモライの成長を見てもらわねばなりませんね。エルモライも喜ぶでしょうし」

 〝陛下のご予定を聞いておいてちょうだい〟と告げたジャンナの機嫌が、ほんの僅かだが落ち着いたことに、侍女たちが小さく息を吐いたのがわかって、レベッカは心の中で溜息をつく。そして、〝日傘と、ジャンナ様がお座りになる椅子を用意してください〟と侍女へ指示を出した。

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