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28.交渉前夜

〝交渉〟の場に子どもを同席させる必要?意味?について、言い訳的な何か……。

 正妃の部屋の寝台の上で、ラリーサと膝をつき合わせて胡坐をかいたアリスタルフが渋い顔で口を開く。

「ヴァレリーとイヴァンを同席させる必要はないのではないか?」

 〝まだ、10歳と7歳だ〟と続けたアリスタルフに、ラリーサが〝私も迷いましたけれど〟と微苦笑を浮かべる。

「ヴァレリーとイヴァンも、皇族の血を引く皇子です」

「……兄上は、大公子としたいみたいだがな」

「大公子とて、結局は皇族でしょう?……あの子たちに、アル様の〝後継〟としての資質があるかもしれないのですよ?」

 表情を真剣なものへと変え、ラリーサはアリスタルフの手に己の手をそっと重ねる。

「10歳、7歳ともなれば、聡い子は大人たちの話をなんとなくでも理解致します」

「……だが、兄上はあの二人を皇位継承のいざこざに巻き込みたくはないと思っているだろう」

「そうですね。……ネストル様の親心も解っております」

 〝ならば……〟と眉根を寄せたアリスタルフに、ラリーサがふるりと首を横に振る。

「自身の目指す先を選ぶのは、子どもたち自身です。もちろん、本人にその気がないのに強引に皇位を押し付けるようなことは致しません。けれど、私たちは皇帝として皇后として、自分たちの次代について真剣に考えなければなりません。……例えそれが、私たちのエゴであったとしても……」

 ラリーサが、真摯な瞳でまっすぐにアリスタルフを見つめる。

「少なくとも、あの子たちにも〝帝王学〟を学ばせる必要があると、私は思っております。あの子たちだけではありません。皇族に名を連ねる子どもたちには等しく……その機会を与えるべきだと思っています。アル様は、ご自身の血に拘りはないのでしょう?」

 じっとアリスタルフを見据えるラリーサに、アリスタルフが細く息を吐き〝それは、イリダールの教育方針か?〟と問う。

「そうですね。イリダールでは、皇子と大公子には等しく〝帝王学〟を学ばせます。その上で、誰が王に相応しいか、その者が王となった時に、自分たちがどのような補佐をするかを、自分たちで話し合いをさせますね」

「それは……纏まるのか?」

「紛糾する時は紛糾しますけれど、存外にすんなりと決まることの方が多いですよ。幼い頃からともに学ぶのですから。それぞれの得手不得手はおのずとわかってきますし」

 〝もちろん、最終判断は王が致しますよ〟と僅かに表情を和らげたラリーサが、きゅっとアリスタルフの手を握りしめる。

「ネストル様の思いや、皇族の現状をそれとなく伝えられるいい機会だと思いますの。後日改まって……とか、アル様だって説明しづらいでしょう?」

 〝ふふふ〟と柔らかく笑みを深めたラリーサが、僅かに瞳を伏せる。

「少なくとも……あの二人には、名目上はルフィナ様やイサーク様の学友としたとしても、皇宮に留まってともに学んで頂きたいです」

 握りしめたアリスタルフの指に己の指を絡めて遊びながら、ラリーサが〝ダメですか?〟と上目遣いに見上げてくる。己の向けられた漆黒の双眸に苦笑を返して、アリスタルフは〝リーサのやりたいようにやればいい〟と一つ息をつく。

「正直なところ、日々の政務に手一杯で子どもたちの教育まで考えが及ばない」

「アル様の手が回らない部分を助けるのが、皇后である私の役目です」

 〝おまかせくださいな〟とラリーサが笑みを深める。

「御子様たちには、些か厳しく難しい道のりとなりますけれど……皇族として生まれた限りは、各々の中で折り合いをつけていただかねばなりません」

 〝アル様や私、ネストル様たちが、そうしてきたように……〟と、ラリーサが言葉を続ける。

「そして、悩みんで立ち止まった子たちの話を聞き、再び歩き出せるように背を押してあげるのは、私たち大人の役目です。人は皆……不自由の中で、自由を見つけていくことしか出来ないのだと思うのです……」

 〝子どもたちにとっては、いい迷惑でしょうけれど〟と苦笑したラリーサの身を、アリスタルフがやんわりと抱き寄せる。

「言っておくが、リーサだけが悪者になる必要はない。子どもたちの不満や怒りは、俺も真摯に受け止めよう」

「まぁ。頼もしいお言葉ですわ」

 〝よろしくお願いしますね〟とにっこりと微笑んで、ラリーサはアリスタルフの背にそろりと腕を回した。


人はみんな、大なり小なり〝不自由〟なもの……。

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