閑話/新しい執務室
昨日はバタバタしてて更新できず……。
今日は、短めの閑話です。
ラリーサとの成婚を機に、アリスタルフは己の執務室に手を加えた。まずは、隣室との壁を取り払って広さを倍にした。己の執務机の隣に、ラリーサの執務机を並べて置き、己の机寄りの壁際にはミハイルの、ラリーサの机寄りの壁際にはネストルの執務机を置き、中央のスペースには、応接セットと文官たち用に大きなテーブルを一つ置いた。場所を分散させるより、一つ処に集まった方が効率がいいのではないか――というラリーサからの提案によるものだ。
「どうだ?何か足りない物があれば言ってくれ」
ラリーサを改装した執務室へ伴い、アリスタルフが尋ねる。
「十分ですわ、ありがとうございます」
にこりと笑みを浮かべたラリーサが、真新しい執務机に歩み寄る。
「わざわざ新調してくださったのですか?」
「そのくらいのことはさせてくれ」
〝正妃の部屋の家具を新調していないのだから、このくらいはいいだろう?〟と微苦笑を浮かべたアリスタルフが、そっとリーサの手を握りしめる。
「苦労を掛ける」
「私は、正妃としての役目を粛々と熟すだけですわ。そのようなお顔をなさらないで下さいな」
〝ふふふ〟と笑って、ラリーサが瞳を伏せるアリスタルフの頬に触れる。
「まずは、現状の確認をしたいです。数日、皆様のお仕事を見学させていただいてもよろしいですか?書類の仕分け程度はさせていただきますので」
嬉しそうに新しい執務机の前に座ったラリーサが、ミハイルへ〝仕分け前の書類は私の方へ回してください〟と告げる。
「助かります」
表情を和らげたミハイルが、己の机の上に山積みになっていた書類をラリーサの机へ移動させていく。
「普段、この部屋に文官は置いていないのですよね?」
「そうだな」
自身の執務机に着き、アリスタルフが頷く。
「……いずれ、常時五名ほどは置いた方がよいかと思います」
「人材の確保は急務といったところか……」
〝はぁ〟と溜息をつき、アリスタルフが未決裁箱の中に積み上がっている書類に手を伸ばす。
「そこは、ミハイル様に頑張っていただきましょう」
「そのためには、ネストル殿下を早々に口説き落としてくださらねば」
〝私は、執務室から離れられません〟と、自身の机につきながらミハイルが苦笑する。
「近日中には、兄上と話をする」
「それまでは、文官代理としてキリルとキーラをお貸しいたしますよ」
〝あの二人には、イリダールにいた頃にもいろいろと手伝ってもらっておりましたので〟と続けたラリーサに、ミハイルがキラリと瞳を光らせる。
「よろしいのですか?」
「もちろんです。まずは、滞っている政務の流れを良くしなくてはいけませんからね」
そう言って、執務室の扉の内側に立っているキリルへラリーサがにっこりと微笑みかける。それに諦めの混じった溜息を返して、キリルは〝代わりの者を配しますので、しばし御側を離れます〟と僅かに頭を下げる。
「ついでに、キーラも呼んでできてちょうだい」
「承知いたしました」
傍らに立つアリスタルフの護衛へ目礼し、キリルが執務室から出ていく。
「……キリルは、文官仕事も出来るのか」
「〝最低でも二つの事で主人の役に立てるようになれ〟というのが、グーロヴァ家の家訓なのですよ。キーラに至っては、護衛とての腕も立ちますよ」
「それは頼もしいな」
手元の書類から顔を上げて、感心したように目を丸くしたアリスタルフに、ラリーサが苦笑する。
「イリダールの人手が足りなかったというのもありますけれど……」
「こちらは、人手はあるはずなんだがな」
〝思う通りにはなかなかいかないものだ〟と、アリスタルフが苦く笑う。それにニコリと微笑み返して、ラリーサは未決済の書類を手際よく仕分けしながら〝皇位についてまだ二年ではありませんか〟と告げる。
「アル様は、これから〝賢帝〟として名を馳せるのですよ」
パチリと片目を瞑って見せたラリーサに、アリスタルフは〝ははは〟と笑声を返す。
「俺が〝賢帝〟となるには、リーサが必要不可欠だぞ」
「私が裏方であれるように、アル様も頑張ってくださいませね」
「無論だな」
〝ふふふ〟と互いに笑いあって、二人は視線を手元へ落とすと、意識を書類へと集中させた。
まずは、ネストル殿下を口説き落としたい……。




