『美しい』食事③
どん、と置かれたその皿は、少し高さがあり、両端に取手のような出っ張りがあった。皿の表面はこんがりと焼けたパイ生地になっていて、中身は見えない。
「本日のメイン肉料理はトナカイ肉と野菜のシチューのパイ包み焼きだ。ま、トナカイ肉だけだとうちの値段に合わないから豚肉も一緒に使ってしまっているけどね。今日も最高の出来だし、うちのメインとして一番の人気料理だ。さ、食べてくれたまえ!」
「いただきます」
「食べるときに、パイ生地を中に崩し入れて食べてくれ。そうすることで一番おいしくなるように調理してある」
「はい!」
とんとん、とフォークの先で突けば、パイ生地はさくっと崩れてシチューの中へと溺れていった。パイ生地に開いた穴から見える茶色いシチューはたまらなくいい香りを放っていた。何時間煮込んだのだろう、形は見えないが野菜の香りがする。真ん中にごろんと転がっている肉は大きいものがトナカイ肉だろう。エリスの口には少し大きすぎるので、やっぱりナイフを取り出して半分くらいの大きさにする。切ったときの手ごたえはそれなりにある。ちょっと固めなのかな、と思いながらエリスは口の中に放り込んだ。野菜をよく煮たほんのりと甘みの香るスープに彩られたトナカイ肉は、臭みもなくよく煮込まれていてしっかりと締まっているものの柔らかい。何よりも、シチューがとんでもなくおいしい。
「おいしい!」
ぎゅっと奥歯で噛めば、甘く華やかな野菜の香りが鼻に抜けていく。溢れる肉汁も旨味が濃い。エリスが感激に目を輝かせていると、レーヴィは嬉しそうにしていた。
続けてパンと一緒にいただく。硬めのパンを一口サイズにちぎって、半分ほどシチューに浸す。垂らさないように気を付けながら口に運ぶと、今度はシチューのおいしさがぐんと引き立った。さっき食べたトナカイ肉も十分に美味だったけれど、やはりこのシチューがおいしい。とろけるまで煮込まれた野菜と味付けがエリスが今まで食べた中で一番だった。野菜だけではなく少し果実も入っているのかもしれない。それとも野菜の鮮度が高く甘いのだろうか。そんなことを考えながら食べていたら、知らず知らずのうちにエリスの眉間には皺ができていた。
「おっとレディ、そんな顔で食べるものではないよ。おいしいものは笑顔で食べるべきだ。何か気になることでも?」
「このシチューがすっごくおいしくて、何が入っているんだろう、って考えながら食べていたんですけど……独特の甘さがあるから、何かの果実も入っているのかなって」
「ふむ、ドグラスが私のところに送ってきただけあって、君は目の付け所がいいねエリス! 確かにこのシチューは野菜をメインに、少しだけ果物も入れているよ。その方が風味がよくなるからね! でもまだ君に教えることはできないんだ、残念ながら。君はまだお客さんだからね」
それはそうだ、とエリスは頷いた。レシピというのは、その店の魂と同じだとドグラスが言っていた。レシピを教えてくれる料理人は、よっぽど気前がいいかよっぽど自分の腕に自信があるかのどちらかだ、とも。まだ手伝いすらしていないエリスに教えてくれるわけがない、とエリスは納得して、今度は皿の端のパイ生地を掬った。
サクサクに焼けていた生地は、少し冷めてきてはいたものの、相変わらずバターの風味と軽やかな食感が素晴らしい。少しバターの味が強い分、シチューと一緒に食べるとさっきまでよりも味が濃く感じられて、また一口目と同じくらい新鮮に味わうことができる。そこまで考えられているメニューなのだろうとエリスは納得した。
一つ一つの皿も料理も大きくないものの、少しずつ出てくる料理は胃を膨れさせる。エリスがすっかり満腹になったところで、レーヴィはにこやかに言った。
「気に入っていただけたなら何よりだ。ドグラスの料理もおいしいからね、劣ると言われたらどうしようかと思ったよ。さ、そろそろデザートだ」




