『美しい』食事②
いつの間に来ていたのか、レーヴィが前菜を堪能しているエリスの表情をまじまじと見ていた。
「エリス君は素晴らしい。可憐で美しいというだけで素晴らしいのに、私の料理を味わうセンスもある! この出会いに感謝するしかないね! 私の料理はどうだい?」
「おいしいです! それに、見た目の工夫があるので、とってもわくわくします!」
「そうだろうそうだろう! これは私の好きな言葉なんだが、料理は目で味わう、と表現する料理人がいてね! 私は彼に会って感銘を受けたんだ! それ以来、料理の内容は凡百でも見映えだけはどこの店にも負けないようにしようと常に努力しているんだよ。キュイワールの国のコース料理なんかは、とても勉強になる」
「早く行ってみたいです」
「はは、でも君はお金がないんだったね。アウメリンコからキュイワールへの直行便は高いんだよ。ユバーミーアまで渡ってそこから歩いて目指すのは修行中の料理人がよくやる手段さ。可憐で美しい君なら道中の店でいくらでも稼ぐことができるだろう。ああ、勘違いしないでくれたまえ、君が気高く強い女性であることもドグラスから聞いている。途中で稼ぐと言っても、道中にある食堂で手伝いをして稼ぐ方を君は選べるだろう。その美しい見た目であれば給仕として雇ってくれるシェフも多いはずだ」
「はいシェフ、料理が冷める前にエリスさんに食べさせてあげてください」
まだまだ続きそうだったレーヴィの話を遮って、オッシはその手に持ったままだった皿を取り上げていた。簡易コース料理だからもうメインだからね、と言葉を添えて、オッシはエリスの前に丁寧に皿を置いた。置く向きも決められているのだろう。エリスから見て一番おいしそうにしてあるのがよくわかった。
「魚のパン粉焼き、マッシュポテトとベリーのソースを添えて……というと恰好をつけているようだが、そんな呼称にも耐えうるような丁寧な料理が私の持ち味だ。よく見て、よく味わってくれたまえ!」
メイン料理の一つ目は魚料理だった。ドグラスの店でもよく出ていた魚のパン粉焼きだが、同じ料理とはとても思えなかった。
まず焼き色だ。ドグラスの店ではカリッと焼けていればよし、という程度で、こんな均等なきつね色にはなっていなかった。それから添えられているマッシュポテト。スプーンで適当にどかっと置いたのではないことくらい一目でわかる。丁寧に表面まで形を整えてある。それからベリーのソースの添え方もおしゃれだ。丸い皿の手前にわざわざ空けてあるスペースにから奥に向かって半円を描くように鮮やかな赤いソースが添えられている。
「おいしそう……」
深く息を吸い込めば、焼けたパン粉の香ばしい香りが肺いっぱいに満たされる。よし、いただこうと思ったところで、さらにオッシが何かを持ってきた。
「パンもあるよ。一緒に食べてね」
「ありがとうございます!」
籠に盛られたいくつかのパンの中から、色の濃いものを選んで取り上げて、エリスは皿の端に置いた。それからサクサクに焼けたパン粉焼きにそっとナイフを入れる。軽い音と一緒に切れる魚の柔らかさに期待が高まる。一口サイズにしたそれを崩れないようにそっと口に運ぶ。口に入れた瞬間からエリスは目を丸くした。
まず香りが全然違う。丁寧にバランスよく焼かれたそれは、焦げ臭いと感じる部分は微塵もなく、ただただ鼻腔を擽る香ばしさで口の中がいっぱいになる。それから魚につけられた下味がドグラスのものとは大きく異なる。ドグラスのものはハーブが強めだったけれど、レーヴィの味は比較的塩気が強い。口の中の程よいしょっぱさにマッシュポテトに自然と手が伸びる。なるほど、と思いながらエリスは丸く整えて盛られたマッシュポテトを口に含む。こっちは比較的薄味だ。なるほど食べやすい。
「おいしいなあ……」
何を食べても同じ感想ばかり浮かんでしまうのを少し申し訳なく思いつつ、エリスは今度はパンと一緒に魚を食べてみた。今度は一度で口の中の塩味がちょうどよくなる。これならどんどん食べられる、と半分くらい食べたところで、今度はベリーのソースも楽しみたくなった。
魚の端に赤いソースをちょんちょん、とつけて、ソースのついた部分が舌に触れるように口に入れる。ほんのり甘さもある酸味の強いベリーのソースは、魚の味付けをより引き立てていた。パンもマッシュポテトもどんどん進む。もう少し食べたいな、と思うくらいで魚の最後の一切れになり、エリスは唸ってしまった。そのまま食べるか、ソースをつけるか、パンに乗せて食べるか。いろいろと考えられるというのはこんなに楽しいものなのかと思いながら、エリスは皿に残ったソースをたっぷりつけて、マッシュポテトと一緒に完食した。
「いい食べっぷりだ。ちょうど肉料理の用意ができたぞ」
「お肉も食べられるんですか!」
そう言って、レーヴィは今度はすぐに皿をエリスの前に置いてくれた。




