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ド田舎出身の美少女、世界最高の料理人を目指す!  作者: ゆきはら
港町アウメリンコ
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24/24

『美しい』食事④

 最後に出てきたのは小さな丸いパンのようなお菓子だった。上部三分の一くらいのところで切られていて、上と下の間にはクリームのようなものが挟まっている。


「このあたりの伝統的なお菓子でね。少し私なりのアレンジは加えているけど、食べてくれたまえ」

「はい!」

「ああ、手に取って食べてくれてかまわないよ。それをフォークとナイフで食べるのは難しい」


 オッシがティーカップとポットを持ってきて紅茶をサーブする。茶葉の爽やかな香りが心地いい。手に取ったパンはふんわりと柔らかく、そっと持っているはずのエリスの指のあとがすぐにつくほどだった。近くでよく見ると、パンとパンの間には白いクリームだけでなく、もう少しくすんだ色のクリームも一緒に入っていた。どんな味がするのか想像もつかないまま、エリスは一口頬張った。

 最初に口に広がるのはパンの外側の香ばしい香りだ。続けて白い方のクリームであろう甘さが口の中に溢れる。確かに甘いけれどくどさは感じない。少し爽やかさを感じるあたり、柑橘の果物の汁も入っていそうな味だった。柔らかなパンの感触の合間にほんのりとスパイスの風味がある。これはパンに練りこんであるのだろう。こちらもまた爽やかで、甘いクリームをより引き立ててくれている。最後に来たのがあの謎のクリームらしい味だ。ナッツの香りとざらりとした舌触り、それから砂糖っぽくない自然な甘さが満腹の体に優しく染み渡る。


「あー、幸せな味……」


 エリスの出身の村では甘いものを食べる習慣はなかったし、ドグラスの店でもあまり甘いものは多く出なかった。ノストヴァインの村は酒飲みが多いのであまり甘いものへの需要がなかったのが大きいだろう。


「これ、うちの人気商品でね。昼間には持ち帰りもやってる。毎日かなり売れているし、店で一回も食事をしていないくせにこればっかり買いに来る客もいるんだよ。まあそういう客も私は心から歓迎しているんだけどね。どうせならこうやってここまでの料理を楽しんだ後にこのあっさり仕上げたデザートを楽しんでほしいんだ。これが私の思い描いている理想的な食べ方なんだよ」

「わかります! これまでの食事でお腹がいっぱいになっているところに、この大きさと後味のしつこくない甘さ、すっごく食べる人のことを考えられていますよね!」

「わかってくれるかいエリス君! その通りだよ! コース料理というのは最後の一品までに満腹になるように設計されているものだ。そこにさらに重たいデザートを出したら、お客様は気持ちよく食事を終われない。お腹がいっぱいなのに、それでも最後まで食べきれるような美味しいデザートというのは必須だと思うのだよ!」


 レーヴィの話を聞きながらエリスは紅茶を飲んだ。少し渋みが強いけれど、わざとなのだろう。ほんのり口の中に残っていたクリームの甘さが洗い流された。これなら最後までおいしく食べられる。

 小さめに作られているパンはあっという間にエリスの胃に吸い込まれていった。集中して食べ、レーヴィと会話するエリスについていけなかったのか、黙々と食べていたイェンスは挨拶だけして先に部屋に戻ってしまった。


「エリス、明日からうちの店の手伝いをしてもらう、ということでいいかな? 毎日三食、おやつも出る。部屋も貸し出す。これらの費用を抜いて、今後の旅費を考えると――三か月、はかからないくらいかな。そのくらいは貯金をした方がいいだろう。ここから隣国に渡る船は客室によって値段が大きく違ってね。四等客室はとにかく安いが、多くの客がごった返して雑魚寝する形式で君のような可憐な女の子には向いていない。三等客室なら狭くとも鍵のかかる個室で眠ることができるからね。そう長くはない船旅とはいえ、安全には気をつけた方がいい」

「なるほど……」

「向こうに行ってからも君を雇ってくれる店がすぐに見つかるかはわからないからね。まあ私からすれば君のような才能ある美少女を雇わないでどんな子を雇うというのか! という話なのだが……男しか雇いたがらないシェフも世の中にはいる。この仕事はそれなりに力仕事でもあるからね。しかしエリス君はそのあたりも問題ないのだろう?」

 

 ドグラスから野ウサギの件を聞いているのだろう。少し恥ずかしく思いながら、エリスは力仕事も人並みにはできると思う、と返事をした。


「では、明日の朝からよろしく頼むよ! 君には最初に野菜の仕込みと食器や鍋の片づけを頼もう。ドグラスのところにいたのならそれくらいはできるだろう? それと、混んでいる時の接客をお願いしようか。ああ、コース料理はダメだ。料理の説明ができるものがつかないとサービスにならないからね。まあ君ほどの美少女ならそこにいるだけで最高のサービスだと私は思うのだが! 君にやってもらうのは一品料理だけを食べに来たおお客さんへの接客だ。いいかな?」

「はい! がんばります!」

「では、今日はこのあたりにしよう。よい夢を!」


 エリスも同じようにレーヴィに伝えて、自分の部屋へと向かった。明日からあの絶品料理の数々が出てきたキッチンに入ることができるのだと思うと、それだけでわくわくして、逆に眠れなくなりそうなエリスだった。

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