エリス、新たな出会い
扉を開けるなりすっ飛んできた人影の動きが、あまりにも早すぎたせいでエリスは野生動物に構えるような警戒態勢になっていた。
「君がエリス君だね! 待っていたとも! 本当になんて可愛らしい!」
「あ、あの……」
「その流れるような銀髪、エメラルドの瞳……! 熟れた果実のように瑞々しく赤みの差した頬! こんな可憐な君をあんな辺鄙な村に閉じ込めていたなんてドグラスの気が知れないね!」
「え、えっと……」
「レーヴィのおっさん、いい加減にしとけ。エリスがドン引きしてる」
びっくりしていただけでドン引きはしていなかったのだけれど、イェンスが割って入ってくれたおかげでエリスはうっかりその人の鳩尾を殴らずに済んだ。あと数秒で本能的に手が出そうだったな、とエリスは思いながら自分の手を撫でた。
改めて現れた男性をよく見る。イェンスはおっさんと言っていたけれど、エリスにはそうは見えなかった。ドグラスよりも若く見えるし、髪にはほんの少し若白髪が混じっているものの黒々としていたし、肌艶もある。身長はイェンスより少し小さいくらいだろうか。差し出された手をエリスはおそるおそる握り返した。
「初めましてエリス。私はレーヴィ。ここのシェフをしている。ドグラスは私の弟弟子でね。可愛い女の子が料理人を目指しているから面倒を見てくれないかと手紙が来た時には胸が躍ったと同時にとても驚いたよ! あの! あのドグラスが! 料理以外目に入らない料理バカのドグラスが! 女の子を可愛いと形容するなんて!」
「そこなんですか?」
よっぽどドグラスとは仲がいいのだろうな、とエリスは思いながら一歩後ろに下がった。熱弁をふるいすぎていてちょっとエリスには刺激が強い。イェンスがそっと背中に隠してくれたのにほっとする。兄弟弟子のやっているレストランがあるから、そこにお世話になりなさいと他ならぬドグラスから言われていなかったらたぶん逃げ出していただろうな、と思いながらエリスはレーヴィの話に耳を傾けた。
「そうだとも! あいつは腕は確かだが見た目にこだわらなすぎる! その点私は違う。私は美味しいものと同じくらい美しいものが大好きだ! 料理は味ももちろん大事だが見映えというものも大切だ! 美しい料理はそれだけで本来の味よりもさらに数倍美味しくなる! もちろん私の料理は味も一級品だがね」
エリスの記憶の中のドグラスの料理は、エリスが元々知っていたジビエがメインの原始的な料理に比べれば十分きれいに盛り付けられていたのだが、レーヴィはそこまで思い至らないらしい。エリスも、まだ食べたことのない『美しい』料理がどんなものなのか、緊張から興味に気持ちが移っていた。
「見映え……ですか?」
「ああ、君のことはドグラスからだいたい聞いている。可哀想に、まだ美しい料理を食べたことがないのだろう! なんて悲劇だ! 今夜は歓迎を兼ねて私自ら全力で腕を奮おう! 期待してくれたまえ!」
さっさと厨房に下がってしまったレーヴィの背後から、ひょこっと背の低い男の人が顔を出した。まだ若く、イェンスと同じくらいの年齢に見える。
「師匠がすみません。あれでも腕は確かなので……。ここからは僕がご案内します」
「あなたは?」
「オッシと言います。ここの見習いやってます。久しぶりイェンス」
エリスと握手をしつつ、オッシはイェンスの方へと視線を向けた。イェンスの方もどこか嬉しそうにしていて、エリスは一歩避けてイェンスを前に押し出した。
「去年の出稼ぎぶりだな。また小さくなったか?」
「イェンスが大きいんだよ。それはいいから早く部屋に行こう。荷物が重いでしょ?」
それから、せっかくのディナーだから素敵な服装で。そう言いながらエリスはしばらくお世話になる部屋へと案内されたのだった。
やっと次の街についてくれました。ここはそんなに長く書かない予定です。




