はじめての休日⑤
食べ終わってからも少しの間二人がぼーっと川を眺めていると、上流の方から丸太が流れてきた。
「おうイェンス! デートか!」
「ちげーよ! 村の案内してたとこ」
「いいなあ、エリスちゃんとデートできてよ! 筏流し、そのうちお前も手伝えよー!」
「明日な!」
丸太と一緒に流れていったのは、エリスも見覚えのある美食亭の常連さんだ。いつも酔っ払ってはエリスにご飯のお裾分けをして、最終的に奥さんに引き摺られて家に帰っている人だったな、と思いながらエリスも小さく手を振った。
「あのまま街の方まで持って行くんですか?」
「いんや、もうちょっと下流のところに運送屋が待ってるから、そこでお代をもらって仕事完了、ってとこ」
「なるほど、毎回街まで行くのは大変ですもんね」
丸太を流せる程度には広さもあるし角度も急すぎはしないが、戻ってくるために船を漕ぐ、と思うとノストヴァインの川は急流すぎる。丸太を筏にしてそこに乗って途中まで届けて、人間は歩いて村に戻る、というのは理に適っていた。
「じゃ、エリスがさっき言ってた教会でも見に行こうか」
「お魚はどうするんですか?」
「道具を置いてるところにちょっとした生簀があるから、そこに入れておくよ」
いけす? と首を傾げたエリスに、イェンスはそれを見せてくれた。掘立て小屋の床板が一箇所だけ四角く切り取られており、そこには目の細かい網がセットされていた。そのさらに下には川が流れていて、イェンスは網の中に無造作に残り二匹の魚を放り込んだ。網が魚の重みで川の中まで届き、魚は狭い空間で泳ぎ回っていた。
「なるほど、こうやって生きたまま保存しておけば夕飯でも新鮮なものが食べられるんですね」
「そういうこと。んじゃ、行くぞ」
広くないノストヴァインの村の中を五分も歩けばすぐに教会に着いた。丘の上では大きく見えたそこは、実際に行ってみると思ったよりも親近感の湧くようなこじんまりとした造りだった。美食亭と同じかそれより小さいとんがり屋根の建物をエリスは一目で好きになった。
「素敵な場所ですね」
「そうだな。村の人間全員の憩いの場みたいなところはあると思う」
「イェンスさんもよく来るんですか?」
「うーん、俺は、昔マルガレータの体のことでしょっちゅうお祈りに来てたから、最近はあんまり」
マルガレータが熱を出す度に薬師を呼びに行き、教会に祈りを捧げ、ちょっとした手伝いに走って薬代を稼いでくれた、とマルガレータ本人が言っていたのをエリスは思い出した。それにしても、なんだかほっとする空間だった。色の付いたガラスがほんのりと内部を照らしているのが綺麗だ。
「私はその神様のことは存じ上げないんですけど、イェンスさんとマルガレータさんが今も仲良しなのは、きっとその頃のイェンスさんのお祈りのおかげですね」
「はは、そうかもな」
横に長い椅子に腰掛けてイェンスが穏やかに笑う。お腹もいっぱいで、村のことを少し知ることができて、いいお休みだったな、と思いながら、それでもエリスはやっぱり。
「そろそろ包丁を握りたいです。イェンスさん、さっきのお魚を持って美食亭に戻りましょう。今ならお店もまだそんなに混んでいないはずですから!」
「やっぱりそうなるよな。いいぜ、ドグラスに教えてもらえ」
綺麗な景色より、川のせせらぎより、美味しい料理とそれを作る瞬間を見ていたい。包丁さばきにも少し慣れてきた今なら、ドグラスもきっと魚の処理の仕方を教えてくれるという確信が、エリスにはあった。
ここ数回予約掲載にしていたのですが、家族が体調を崩し看病で何もかも予定がめちゃくちゃになっていたので大正解でした。GWですがほとんど外に出ていません。エリスちゃんが羨ましい。




