はじめての休日④
パチパチと焚き火の中に弾ける火の粉を見ながら、エリスは真剣に魚と向き合っていた。口をぐっと開いて、木の枝をぐいっと奥まで突き立てる。焼いている最中に身がよれてしまわないように、しっかりと貫通させて。出来上がった串刺しの魚四つを焚き火の周りに並べていく。
「残りの二匹はあとでドグラスに捌いてもらおう。魚の捌き方も教えてもらえるんじゃないかな」
「おさかな……おいしそう……」
「聞いてないね?」
エリスはじゅうじゅうと焼けていく魚に夢中だった。キラキラしていた鱗が焼けて銅色になり、透き通っていた魚の目がじんわりと濁った色になっていく。何より、いい匂いがする。木の焼ける匂いが魚の焼ける匂いと合わさって、エリスの鼻腔をずっとくすぐっていた。
「もう食べられますか?」
「もうちょっとかな。っとその前に」
イェンスが何かごそごそと鞄の中から取り出す。ピンク色の小さな石を何に使うんだろう、とエリスが首を傾げていると、イェンスは魚を一度手に取るように言った。
「これは岩塩って言って、俺が小遣い貯めて街で買った調味料。あ、マルガレータにも内緒な? これをこうやって魚の上で削っておいてやると美味いんだよ」
「岩塩、ですか」
「この辺だと街で売ってる塩を行商人から買って使ってる人が多いんだけど、俺は絶対こっちの方が美味しいと思ってる」
ピンク色の石が削られた先からさらさらと魚にかかっていくのを眺めて、エリスは唾液を飲み込んだ。どんな味がするのか、楽しみすぎて気持ちが落ち着かない。
それからもうしばらく待つと、イェンスからのオーケーが出て、ついに釣った魚を食べる時がきた。熱々に焼けている魚に、エリスは勢いよくがぶりと食らいついた。
「おいひい!」
「だろ!」
ふんわりとした魚の身からじゅわりと溢れる甘い脂を岩塩の塩味が絶妙に引き立てている。パリパリに焼けた鰭の部分も食感が素晴らしく、そこだけだって何度でも食べられそうなほどに香ばしくおいしい。腹を食べれば、ほんのり苦いはらわたの部分が身の甘さと合わさってなんとも言えない大人な味わいがした。エリスはあっという間に一匹平らげて、もう一匹に手を伸ばした。何より魚の身が柔らかくて、でも引き締まっていて、いくらでも食べられそうだった。
「おいひい、おいひい……」
「はは、あんまり食べすぎると後でドグラスの料理が食べられなくなるぞ」
「それは困りまふ!」
もぐもぐと頬張りながらエリスは言った。魚の捌き方も教えてもらいたかったために、エリスは急に食べるペースを落としてゆっくりと味わい始めた。よく噛めば噛むほど、身の甘さをより強く感じる。普段スープの中に入っている魚の味とは全くの別物だ。ぷつりと歯を立てて、ほろりと崩れる魚の身は、お肉と同じくらい好きかもしれない、とエリスは思った。
「イェンスさん、本当にありがとうございます!」
「はは、今日一番の感謝をもらっちゃったな」
「こんなに美味しいお魚初めてです!」
「なんでも新鮮なものは美味いからなあ。エリス、今日の魚の味、しっかり覚えとけよ」
岩塩、安くはないんだからな、とイェンスは笑った。エリスは花が咲いたような満面の笑みを浮かべて、はい! と頷いて、イェンスとそのまましばらく川を眺めながらのんびりと食事を楽しんだ。
特に書いていませんがイメージは岩魚の塩焼きです。食べたい。




