はじめての休日③
イェンスが連れてきたのは川沿いに建っている小さな掘立て小屋だった。釣りのための道具らしきものがずらりと並んでいる中から、イェンスは細長い棒を一本取り出してエリスに手渡した。
「朝の漁は網でわさーっと一気にやるんだけど、何回もやると獲りすぎになっちゃうからね。こういう時の釣りは釣り竿で。懐かしいなあ、マルガレータともよく川釣りをしたんだよ。最近は付き合ってくれないけど」
「言ったらきっとマルガレータさんは来てくれますよ」
「そうかなあ。服が汚れる! って絶対言うと思うよ」
確かにマルガレータなら言いそうだ、とエリスは思って、それから釣り竿をぎゅっと握った。この辺りの木で作ったらしいそれは、とてもシンプルな造りをしていた。木の棒の先に糸がついていて、その糸が垂れた先には針がついている。これをどう使って魚を釣るのだろう、と思っていたら、イェンスがはい、と何かの入った箱を差し出した。
「なんですか? これ」
「魚を釣る餌のミミズ! って、驚かないんだねエリス」
「村の畑に集めたミミズを放り込むと褒めてもらえたんですよ。これを針に通せばいいんですね?」
「う、うん。なーんか、エリスといるとたまに調子狂うんだよなあ」
機嫌よくミミズを針に通すエリスを見ながらイェンスは苦笑いしていた。同じことをマルガレータにやった時は、悲鳴を上げられ、怒られ、その後釣りの間中口をきいてもらえなかった記憶があるのだが、エリスは虫も大丈夫らしいことにイェンスは驚いた。そういえば美食亭で毛皮で会計しようとしてたんだっけ、と思いながら、イェンスは自分の釣り竿にもミミズをセットしながら、座って釣りのできる岩場まで移動した。
「気をつけてね。あんまり滑らない場所だけど、万が一落ちたら深いし流れも早いし、助けられないから」
「はい。ありがとうございます」
二人で並んで座って、川に向かって糸を垂らす。穏やかなせせらぎの中に流れる無言の時間は心地よかった。思えば、エリスはノストヴァインに来てからずっと誰かに囲まれていて、こんな静かな時間を過ごすのは久しぶりだった。お休みっていいなあ、と思いながらエリスがぼんやりと空を眺めていると、ぐい、と竿が引かれる感触がした。
「エリス! かかってる、引っ張って!」
「は、はい!」
エリスが力いっぱい竿を引くと、きらきら銀色に光る魚が一匹、水面から飛び出してきた。隣からイェンスが差し出した網に入った魚は、木桶に入れられてビチビチと尾鰭で桶を叩いていた。
「初めてにしては随分上物が釣れたんじゃないか?」
「楽しいです、これ!」
「その調子であと三匹くらいは釣ろうか」
「はい!」
エリスの方の竿はすぐに何度もしなり、結局イェンスの分の魚もエリスが釣ることになった。釣った魚は合わせて六匹。木桶いっぱいになった魚を見て、イェンスはにやりと笑った。
「エリスは美味いもん好きなんだよな?」
「大好きです!」
「んじゃ、これ、早速食べようぜ!」
エリスの目が桶の中の魚たちの鱗よりもキラキラ輝いたことは言うまでもないだろう。




