アディラの戦い 4
アディラはいつも携帯している酒をダウカに渡す。そうすると、酒で舌を湿らせ、酔いのまわった喋り方で、ダウカが言った。
「敵の方に有能な人材が入ったらしいぜ。なんでも、炊事兵として働いているらしいんだが、そいつの作る料理が旨くてな。グラセランドの奴らは、メシの時間が楽しみで楽しみでならないらしい」
それを聞いて、アディラはうつむいた。
「なんだ? 気に入らなかったか? アディラ坊は昔から兵站が重要だって話ばっかりをしていたよな? 当然それには兵士の食うメシも含まれているわけだ……」
「いや、情報そのものに不満があるワケじゃない」
アディラは考えた。携帯食料で食事を済ませているラダヴィッツ軍と、美味しい食事を摂っているグラセランド軍。兵士の健康状態に、如実に差が出てくるのは、この先明らかだ。
「偵察をしてくるか……」
首脳陣にこんな話をしても、事の重大さに気づく事はないだろうと思う。ならば、自分で偵察をして実情を知るしかない。
「もしかして、その炊事兵を暗殺すれば……」
大きな武勲になるかもしれないと考えるアディラだが、その考えを首を振ってかき消す。
『炊事兵一人の命を奪ったところで、首脳陣が戦果だと納得をしてくれるかどうか……?』
おそらく、首脳陣はアディラの行動を正当に評価しないだろう。
むしろ、『自分の身を危険にさらしてまで、倒さなきゃいけない相手でもないだろう』などという理由で、無茶な行動をした自分にファラリスが怒ることだろう。
『この戦争には勝たないと……』
軍団を指揮し、負けて本国に帰ることになれば、司令官はただでは済まない。
一昔前なら敗軍の将は一族揃って処刑をされてしまうくらい、重い罪になるのだ。勝って当たり前。負けて帰ってくるなんて、言語道断だという考えが、ラダヴィッツ帝国にはある。
『そんな事になれば、ファラリスも……』
アディセにとって、幼馴染の彼女も、刑罰は免れない。
『それだけでも、十分危険を冒す理由になる……』
そう考えたアディラは、駐屯地を抜けて、敵のキャンプに向けて歩いて行った。




