アディラの戦い 2
アディラは、総司令部で、自分の事を待っていた女の子にそう言われる。
「ファラリス……兵士たちのテントだ。『あんな所』なんて、言っちゃいけない」
そう、アディラが言うと、ファラリスは、「ふん……」と、小さく言って近くの椅子に座った。
ファラリスは髪を頭の上で束ねている女の子だ。肌は白く、手も小さい綺麗な女の子と言っていいだろう。だが、今は儀礼用の鎧を着ている。ヴァルキリーなどというものが、この世界に存在をしているとすれば、まさしくこの子の事だろうと、思えるような姿をしている。
アディラは青い髪に、戦闘用の軽鎧を着ている。それがよく似合っており、若い冒険者のような風格がある。
「なんで、この戦力差でここまで押し込まれる? 前から考えているんだが、皆目分からん……」
ファラリスは、アディラにとって、昔からの幼馴染である。
昔から、ファラリスは兄妹と一緒に親から剣術を叩き込まれており、武人気質の人間そのままであり、見た目は綺麗であるが血の気が多いファラリスをサポートする役周りになっている。
ファラリスのその様子はアディラにとっては思慮にかけるように見えている。
「ファラリス……戦争ってのは、剣をブンブン振り回すだけじゃ……」
「お前のその話は聞き飽きた。そんなものは気合でカバーしろ……」
いつもと、代わり映えのしない会話の応酬。アディラが何を言っても無駄そうである。
「できれば、相手の拠点の様子も見てみないと……」
「バカな……わざわざそんな危険を冒す必要はない。数はこちらの方が勝っているんだから全力で攻め込めばいい」
ファラリスは言う。これは、ファラリスだけの考えではなく、司令部全体の考えであるのだ。
「一度でいいから……軍隊指揮を任せてもらえないか……そうすれば勝ってみせる……」
「それは、『若いうちはそう思うもんだ。何も知らないくせに生意気なことをぬかすな!』って言って怒られた言葉だろう?」
「何度も同じ事を言うんじゃない」と、言ってファラリスは鼻を鳴らした。
「このままでは負ける……」
アディラがそう言うと、ファラリスは剣を抜いてアディラの肩に剣を置いた。
「その言葉は聞き捨てならんな……わが帝国軍があの小国に負けるだと……?」
「すまなかった……少しナーバスになっていたかも……」
アディラは、とりあえずはそう言った。
鼻を鳴らしたファラリスは剣を鞘にしまった。
「戦力差は歴然なのだ。策を考える必要などない」
ファラリスが、自信たっぷりに言うのを聞くと、結局は何を言っても無駄であるとアディラは考える。
このヴァルキリーのような少女は、司令官の娘であり、彼女の機嫌を損ねると、部隊の先頭に立たされ特攻をする役に、まわされかねない。
「アディラ……幼馴染のよしみで見逃してやっているが、お前の発言が、私の父に届いたら、軍法会議ものだぞ……もう少し発言に気をつけるのだな」
「ああ……そうだが……」
なんなら一部隊でもいい、その一部隊の指揮を任せてもらえれば、結果を出してみせる。
そう思うが、結局「ならまずは、一兵士として結果を出してみろ。敵の大将の首でも取ってくるんだな。そうすれは、百人隊長くらいにはしてやる」などと言われるのがオチだ。
「何かで結果を出せばいいんだな?」
そう言い、アディラは立ち上がった。
「どこに行く気だ? 早まった事は考えるなよ」
ファラリスがそう言うが、アディラはその言葉を聞きもせずにテントから出て行った。




