アディラの戦い
14部 アディラとファラリス
ラダヴィッツ帝国の前線のテントは疲れた顔をした兵士で溢れていた。
数少ないテント。そのテントも人が一人横になることができるくらいの広さしかない。そのテントを二人で共用で使っている。
テントに入って寝ることができるのは順番になっており、二日に一回しかテントで寝ることができない。
テントで寝れない者は、野宿をして夜を明かす事になる。
そのため、外で寝転がっている者が多い。
アディラは、一般兵達がいる区画を見回っていた。まるで、スラム街のような様子が、目の前に広がっているのを見て、アディラは頭を悩ませた。
「こんなので、戦闘に勝てるのか……?」
ほとんどの兵士は顔色が悪い。それどころか、病気を患っている者もいる。
ゴホゴホとセキをしている者を見ると、『彼らは野戦病院行きだろう……』などと、ぼんやり考えてしまう。
ラダヴィッツ帝国は大国だ。いま戦争をしている相手国のグラセランド王国とは国力が五倍も差がある。単純に見れば、これは勝てる戦いであるのだ。
だが、グラセランド王国は、予想外の反抗を見せていた。ラダヴィッツ帝国とも、三倍もの戦力差があるのにも関わらず、前線を徐々に押し返されているのだ。
「敵の総司令……サーファス……」
三倍もの戦力差で、戦局が押し返されたのは、その男が、総司令についてからである。
いまのラダヴィッツ帝国の前線司令部は、そのサーファスを目の敵にしているが、本当の原因はこういうところにあるのだとアディラは思っている。
「よう、アディラ坊。また見回りとはご苦労なこったな……」
そう、アディラに声をかけてきたのはダウカという老兵だ。
彼は、何年も前から戦場にいるらしく、この戦場の昔の事を知るためには、この老人に聞くのが手っ取り早い。
「昔からこうだったんですか?」
ダウカはシワの寄った顔でピクリと目を動かした。
「俺は資金がおりないと聞いているぞ。勝って当然の戦いには、そこまでの投資ができないのだと……」
そのため、テントは二人で一つ、安い野戦食をかじるだけで食事を済ませてしまう。この兵士達の扱いには問題があると思われる。
だから兵士たちの覇気が無く、戦闘にも力が入らないのだ。
「どうせ資金をケチっても、ワインを買う金に使うだけだろう……そんな金があるならこっちに金を回して欲しいもんだ」
最後に皮肉をいい「けっ……」と、言って話を終わる。これはダウカにとってはいつものことだ。
何年も使い続け、すでにテントの幕もパリパリになってきている。ちょっとやそっとの事でも、破れてしまいそうだ。
ダウカに向けて安酒のビンを投げるアディラ。ビンを受け取ったダウカは、その中身を一気に飲み干してしまった。
「それじゃあ、今度聞きたい事があったら、いつでも言ってくれ! 酒も用意してな!」
ダウカから話を聞く代わりに、酒をひと瓶渡す。これは、アディラとダウカの、暗黙の約束になっていたのだ。




