タイムスリップ?
もう分からない事は深く考え込まないように眠ってから起きた早朝の庭を眺めて一言。
「・・・・・俺って一週間ぐらい寝てしまっていたのかな?」
今日は朝から野菜の水やりと昨日出しっぱなしだったドラム缶風呂を片付けないとなと思いながら起きて庭を見ると、明らかな違和感しかない状態に理解が追い付かなかった。
昨日花を植え替えて多少は見た目が良くなっただけの所が、何故か一面花が咲き誇る見事な花壇のようになっているし、梅の種を植えた所からは明らかに成長速度がおかしい木が生えてきている。
「え、いや、・・・あ?えぇ?」
混乱の極みに達しながら、ふと横のプランターを見ると家庭菜園で植えた野菜が全てもう芽が出ているまで成長していた。
「な!?えぇ?・・・なんで?本当に3日ぐらい寝てたのか?いや、3日でもこうはならんだろ」
もう一度生えてきた木や増えた花を見ながら、しっかりしろと自分に言い聞かせながら改めてよく見てみると、不自然に一か所だけ花が避けるように生えていない場所があったので、縁側から覗き込むようにして見てみると、尻尾を丸めて寝ている子ぎつねがいた。
「キツネ・・・だよな?かなりちっさいけど、このくらいのキツネってまだ親離れしていないんじゃないか?何で庭に?」
呟いていると目を覚ましたのか尻尾をあげてこちらと目が合ったので逃げるかと思ったが、再び尻尾を下ろして動くことなく逃げることはなかった。どうやら再び寝ているようだった。
「・・・俺の庭の生き物は、野生の自覚がない奴ばかりだな」
魚は池に手を入れるとぶつかるように近寄ってくるし、鳥はどれだけ周りで作業してようが警戒すことなくずっと灯篭の上に居座っているし、子ぎつねは明らかに目が合ったのに逃げようともせずに呑気に寝ている。
一匹づつ改めて見ながら庭を歩いていると、昨日まではなかったはずの大岩の上に小さな岩が積み重なっているのを発見したので、何だろうかと近づくと石が積みあがっているのとは別にかなり小さな生き物が子ぎつねの時と同じように丸まっている状態でいた。
「イタチ?にしては小さいような・・・」
思わずつぶやくように言葉を発すると、ピクリと動いてこちらを見てからすぐに大岩の中に隠れてしまった。
「そうそう!野生の動物ってそういう動きをするよな普通・・・・・そんなところに穴なんてあったか?」
昨日見た時にはなかったはずだったので大岩の上に乗って、イタチらしき生き物が消えた所を詳しく見ると直径3センチほどの穴が空いていた。上からのぞくと下の空洞までは貫通していないようで、代わりに横穴が出来ていてその穴にさっきの生物は逃げ込んだようだ。
「元から住み着いていたことは絶対にないから最近できた穴なんだろうけど・・・岩、だよな?」
しゃがんでノックをするように大岩の感触を確かめたが、確かに岩の硬さがあり道具もなしに掘れるような硬さではない事は確実だった。昨日みたいに触っただけで崩れるような事もなく一応周りを触っていると、穴から顔だけを出してこちらを見つけるとすぐに引っ込む事を繰り返すので、小さなイタチ?の警戒心を刺激し続けていることに申し訳なさを覚え始めたので、一旦その場から離れることにした。
庭の置石で靴を脱いで縁側から見渡すと、大岩の穴から再び頭を出して周りに誰もいないのを確認すると、穴から出てきてせっせと穴の近くにあった小石の山に新しく持ってきた石を置いて行っていた。
「・・・・・はぁ、庭にいろんな生き物がいて嬉しいな・・・本当に・・」
そりゃあ庭に生き物が一匹もいなくて気配すら感じられない庭よりはいいだろうけど、ちょっと不可思議な事が起きる生き物ばかりというのはやめていただけないだろうか。
庭の青い魚や赤い鳥、小さいイタチに子ぎつね。確かに見た目は何処にでもいる?かもしれない生き物だけど、起きている現象ややっている行動が普通とはいいがたいものばかりなのが、これからの生活に不安がよぎる。
「もういいや、今日はもう庭で何かしたりしない!一日庭を眺めるだけで過ごすことにする。今まで何かしてきた後に変な事が起こっている。だから、今日一日何もしない事で明日何も起こらない事を確認する!」
そう言うと、その場で横になって庭を眺めるのだった。
昼までずっと横になったり座って庭を見たりしていたのだが、あまりにも暇なので池島の灯篭にある風が出る玉の風がときおり当たる時にこの風で何かできないかと考え始めて、そういえばこの家の玄関に前の住民が残したままの風鈴をそのまま飾っていたままだったのを思い出した。
そして、庭ではなくここは縁側だからと謎の言い訳を呟きながら、玄関から風鈴を持ってきて欄間の下に垂れ下がるように紐で吊り下げた。
そうすると、庭からの時折流れてくる風でチリンチリンと高く澄んだ音がなって、日本の夏の風物詩の一つだなと満足げに庭を見ながら横になった。
「今日はもうこれ以上本当に何もしない・・・・あっ、風車を庭に置いてもいいかm・・・・・」
その後も、暇で何も動かないとあれこれ試してみたいことが次々と思い浮かんできてはいたが、何もしなければ何も起こらないと信じて、一日を過ごすのだった。
その夜
池島にある灯篭に固定されている透明の玉から吹いていた風がぴたりとやんだ。
その数秒後、強烈な風が吹いたかと思うと風が渦を巻いて灯篭を僅かに持ち上げるほどに強力な風が灯篭の周りにだけ吹き荒れて、消える時もいきなり風が無くなって微かに音を鳴らしながら灯篭が着地した。
それと同時に、どこからか音もなく黒い影が飛び跳ねるように、池島から橋と置き石を踏み台に縁側へと着地した。
そして、その弾みで微かに鳴った風鈴の下まで行くと丸まって動かなくなった。
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