神獣の子供(風+α)
「はぁー・・・・・よっと」
庭に植えた木とその木に住み着く子ぎつねの正体が、噂でしか聞かない【世界樹】と【九尾の狐】かもしれないと分かってから縁側に座って庭を眺めていたが庭から吹く風が心地よくて、縁側に寝転がるように横になった。
昼ごはんにそうめんを食べていた時も心地よい風がときおり吹いてくるなと思ってはいたのだが、それはこの縁側で伏せている灰色の子狼がいる位置に庭からの風が常に吹いていて、その風が小狼に当たって自分の座っていた位置にも風が流れてきていたのだが、いま横になって初めて分かった事があった。
「風の吹く向きが不規則に変わっている?・・・・・それに、なんだあれ」
縁側で横になって庭の風の流れを見ていたら、自分が最初に風の吹く位置を調整したときと明らかに風の流れが変わっていて、何故か一枚だけ地面に落ちることなく庭の中を隅々まで回るようにひらりひらりと風に吹かれている葉っぱがあった。
始めはただ庭に葉っぱが風に吹かれているなと思って見ていたのだが、何度も子狼の前まで風に吹かれてきては庭の上空にまで竜巻の様な風に巻き上げられてから、ひらりひらりと舞い落ちてきては再度庭を漂っていた。
「なんだか、遊んでいるみたいだな」
器用に庭にある灯篭や岩や木を避けながら木の葉が舞う様子は、電流イライラ棒の三次元版をしているようだった。毎回違うルートで子狼の所まで戻って来ているので遊んでいるように思えて、池島にある風の吹き出る灯篭から吹く風が強弱をつけたり風の吹き出る位置が変わったりで、時折意図しない方向に行っているような葉っぱの様子が見受けられたので楽しんで遊んでいるように思えた。
「それにしても、すごいな。よくあんなに小さな葉っぱを、うまく誘導するように風を操れるものだな・・・(ちらっ)・・・人であそこまで繊細に操れる人は見たことがないからすごいな・・・(ちらっ)・・・風量も人とは比べ物にならないくらいの強風を操れるんだろうな・・・(ちらっ)・・」
手で頭を支えるように横になりながら子狼に聞こえるかどうかの声量で呟いていたのだが、思っていた通り人の言葉が分かるようで、子狼の風を操る技術を褒めることを呟くたびに耳がだけがこちらを向き尻尾を床にぱたんぱたんと振るようなしぐさをしていた。
そして自分が強風の事を呟いたからか、まるで見せつけるように庭の上空でスーパーボールサイズの球状に風が渦巻く風玉のような何かが生成されると、少しづつ砂や葉っぱなどの小さく軽いものが吸い寄せられるほどになっていた。
さすがにこれ以上は不味いと思い、やめさせると同時に確認する為にさっきよりも大きな声で独り言を言った。
「・・・ッ、さすがは風の神獣フェンリルとまで言われるだけの事はあるな」
そう呟くと、さっきまで気分良く振っていた尻尾がびっくりしたようにピンっと立ったあとに、ゆっくりと音もたてずに静かに尻尾が下ろされて、それと同時に庭に生成されていた風玉がほどけるように消えると一瞬だが強い風が庭に吹き荒れた。
「うわっ・・・あのサイズで一瞬とはいえこんなにあおられるレベルの強風が来るのか。さすがはフェンリル・・・(やっぱり神獣と区分されているフェンリルだったのか)」
今度は何事もなかったかのように伏せている子狼だったが、さっきの反応を見て正体の確信を得ることができた。神獣と呼ばれているダンジョン生物の中で、唯一人と会話した事例のある神獣だったので一応確認のために呟きながら様子を窺っていたのだが、確実に言葉に反応しているのと話していた内容もある程度は分かっている様な反応だったので、フェンリルなんだろうと簡単に確認できてしまった。
もともと、お昼にそうめんを食べていた時も何かつぶやくたびに耳だけはこちらに向けていたのを見ていたので、始めは警戒しているだけなのかとも思っていたのだが、さっきのやり取りの後では何らかの興味を持って話を聞こうとしていたのだと考え直した。
一応フェンリルは探索者の情報サイトに写真付きで掲載されていたので姿形は分かってはいたのだが、情報サイトの調べでは全長は4~5mほどの狼で銀色に輝く毛並みが特徴と書かれていたので、いま縁側に伏せている灰色の子狼とは全然違ってはいたが、特徴として警告の言葉で語りかけられたことがあるのと風を自由自在に操る様子が目撃されているとのことで、明らかに風を操っている様子を見て試しに思っていることを聞こえるように言ってみたら、思いのほか正直な尻尾と耳の反応にこっちが動揺してしまうほど困惑しながら確認が出来てしまった。
「あとは、一応確認しておくか・・・・・」
そう言って体を起こして庭に出ると、池島にある風が吹く玉を置いた灯篭の所まで行った。
「やっぱりあるんだよな・・なりかけの属性結晶」
今までの事から予想はしていたが、風の玉を置いた灯篭の中に一部が透明になりかけている魔力結晶があった。
「風の属性結晶なんて初めて見たな・・・・・世界でも初めてだろうな・・・」
ますます世間に知られるわけにはいかない事が増えていくが、今日のこれまで立て続けに起こってきた異例の数々に、もう動じる事もなく諦めと虚無の心でただただ事実の確認をしたのだった。
「・・・・・・・・・そういえば、・・・・・特に異常はない・・か」
ふと庭に設置した玉はあと二つあった事を思い出して、二つの設置場所である黒色の玉が置いてある祠と照明代わりにしている光の玉の街灯を見たが、目に見える以上は何もなくほっと一息ついた。だが、一応念のために確認しておこうと思い黒の玉を配置した祠に向かった。
祠の前まで行くと、祠の扉に手をかけながら息を整えるように一度深呼吸をした。
「すぅ~ふぅ~、何もないはず・・何も起こっていないから大丈夫・・・・・え?・・・」
半ば自分に言い聞かせるように呟きながら少しずつ扉を開けたのだが、祠の中が想像と違っていて思わず疑問の声をあげてしまった。
祠の中には黒色の玉を転がらないように台座を用意して設置していたはずなのだが、何もない真っ暗な空間があるのみでどこにも黒い球は見当たらなかった。
「一体どこに・・・ッ!?」
一応祠の中を確認する為に手を祠に入れようとしたのだが、明らかに何か柔らかいものに触れたような感覚があって思わず手を引っ込めて祠の中を見ていると、突然真っ暗な闇の中に小さな二つの目が現れた。
「・・・・・んなぁ・・・・・・・・・・・」
暗闇の闇の中から目だけが見える状態で、縦長の瞳孔をした目がちらりとこちらを見たかと思うと、迷惑そうにひと鳴きしたあと勝手に祠の扉が閉まった。
「・・・・・・・・・・さて、今日はもう寝るか」
さっき見たことがなかったかのように目を瞑って空を見上げたあと、まだ夕方にもなっていない時間帯なのだが庭から部屋に戻りテントへと一直線に向かって頭から倒れこむようにテントに突っ込むと、そのまま今日一日出てくることはなく時間が過ぎていったのだった。
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