神獣の眷属
朝の陽ざしを感じて目を開けると、見慣れたテントの天幕があった。
普段ならすぐに起きて庭の様子を見ながら朝食でも作ろうとするのだが、今日は起き上がることなく前を見ながら昨日までに庭に起こった数々の出来事を振り返りながらなぜこうなったのかの原因を考えていた。
昨日の最後に確認した黒の玉にも見慣れない生き物がいた事で、今までダンジョン領域になった原因を仮説で考えていたことに確信を持つことが出来た。
「やっぱり庭に設置した各属性の玉が原因の可能性があるよな・・・・・あいつの話をもっと真剣に聞いておけばよかった・・・・・・・・・・・・フッ」
かつて、一緒に探索者をしていた事もある同じ孤児院出身の探索者仲間に言われていた事をふと思い出して懐かしい記憶が思い起こされたが、さすがにあいつもここまでの事態になるほどの想像はしていないだろうなと、自分の庭にいる生き物達の事を考えると思わず吹き出すように鼻を鳴らした。
「さて、・・・」
たまに原因があることは間違いないと思うが、現状好き勝手に調べることは難しいだろう。まだ何とか制圧は出来とはいえ神獣の幼体であることには間違いないので、もし俺が原因で幼体に何かがあった時に万が一にでも親の神獣に変化が起こって、それが人類へ敵意を持つ事にでもなったら最悪の場合人類の滅亡に繋がるかもしれない。
「まずは、現状維持か・・俺が人類滅亡の引き金を引くとか・・・・・冗談じゃないのが笑えねぇよ・・・」
最悪の事態を考えた結果に引きつるように頬がぴくぴく動いた。
「これからのやることを整理してみるか」
まずは庭の現状を外部に知られない事が重要事項なのは間違いないだろう。俺でも制圧できるという事は他の探索者が危害を加えようと思ったら出来るという事だから、いま世界に知られると絶対によくない事を考える輩が絶対に出てくることは間違いない。
「神獣の隠蔽と庭の偽装・・・」
価値を知っている人に見られたら厄介なものは、各属性結晶・魔力結晶・ダンジョン鉱石・世界樹などだろうか。幸い島民の人でダンジョンの事に詳しい人はいなさそうだったから、仮に庭を見られても探索者時代の取得物を飾っているとかで何とか誤魔化せるだろう、たぶん。
「そういえば神獣達が何か食べている所を見てない」
始めに餌をやろうと思って山の川から取ってきた虫などは青魚は食べなかった。他の神獣達には何か食べるか試してもいなかったが、特に何かを食べた様子がなくても問題なさそうなので今は俺が神獣達の食べれるものを用意する必要はないのだろう。
「自分の食事を作りながら興味がありそうな反応を見ていくぐらいでいいか。となると後は、最低限の意思疎通ができる関係になる事と叶うならば会話が出来たら一番いいんだがな~」
頭の後ろで手を組みながらテントの天幕を眺めながら呟いた。
現状ではどの神獣が何処までこちらの意図を察してくれたり、こちらの意見を聞くつもりがあるのか分からない状態なので、そのあたりを一度確かめておかないといけない。
確実ではないが神獣フェンリルの子はこちらの話の内容を理解できている可能性が高かったので、後は会話できるのか確かめてみて、もし会話できるのならば神獣達の考えが分かるかもしれないから最優先で仲良くなっておきたいところだな。仲良くなるためにはどうすればいいか分からないのが問題なんだけどな。
「・・・・・餌付け、いや・・お供え物として肉をお供えしてみるか?・・・でも、あいつら何も食べてないしな・・・一応はやって見るか。食べなさそうだったら俺が食べればいいだけだしな」
これ以上庭に何かが起こる前に神獣との意思疎通を出来るようにすることを決めて、ふと腕時計の時間を見ると10時過ぎになっていて、思っていたより時間が経っていたことに驚きつつテントから出た。
「・・・・・・・・・・・・」
部屋の中のテントから出るといつも起きた時より強い日差しがテントの前にまで伸びてきており、一瞬目がくらむような感覚になった後に目が慣れてきて、最近の日課のように庭の様子をまず確認しようと見渡したところ、昨日までは絶対にいなかったであろう存在達が庭を自由に飛び回っていた。
「なんで、・・・・なぜ一日も経たないうちにこんなことになるんだよ!?」
先日と同じように膝から崩れ落ちるように床に手を突きながら叫ぶ事となった。
庭には昨日まではいなかった小さな精霊達が自分の属性に合う場所の付近に一体ずついて、神獣達と一緒に自由に動き回っていた。
水の精霊は、池の上を移動しながら水の輪っかを池の上に幾つも作りながら、その輪っかの中を青魚が上手く潜り抜けて遊んでいるようだった。そのうち輪っかの大きさを小さくしたり一度ではくぐれない配置にしたり難易度をあげていっているうちに、青魚が本来のリヴァイアサンの姿に戻って空中浮遊を織り交ぜながらどんどん難易度をあげて遊んでいた。
火の精霊は、また窯の中に入って燃えている赤い鳥の窯の前から勢い良く炎を窯の中へ向かって吹き付けていた。そして、火力をもっと増やそうとしたのか網焼き用の場所や焚き火用の場所から勝手火が付くと、どんどん大きくなる火力に慌てて止めようと動き出そうとした時、大きくなっていた火がまるで炎のトルネードのようにうねりながら自ら飛び込んでいくように窯の中へと入ったまま燃え続けていた。まるで炎のアーチが出来たかのようにコントロールされて一切乱れる様子もなかったので、片膝を立ち上げたままその場にとどまった。
「あぶねぇ。危うく火事になるかと・・・・ん?」
片膝をついたままほっと一息ついたと同時に、すぐ近くからざわざわと木々が揺れ動いた時のような音が聞こえたので音の聞こえた方へと目を向けた。
すると、木の精霊と子ぎつねが梅の木の周りを精霊を追いかけるように走り回りながら木の枝にまで飛び移ったりしていたのだが、精霊と子ぎつねが通った後には昨日までは成長はしていても葉っぱの一枚すらついていなかった梅の木に、早送りで見る映像のように葉っぱが幾つも出来ていくと、最後には梅の花が咲くところまで止まることなく成長し続けた。そして、世界樹にまで飛び移って追いかけているうちに、世界樹についていた属性結晶の葉っぱが二枚へと増えていた。
「・・・・・うわ!?」
驚くままに梅の木を眺めていると、急に何かに押されるように体が倒れそうになったところを踏ん張っていると、目の前を横切るように何かが通りすぎていった。
その正体は、風の精霊と子狼で昨日葉っぱを庭中に移動させていた時のように、今度は自らが庭の至るところを駆け回るように精霊を追いかけていた。それも、地上だけでなく空中を自在に駆けまわって、時折空気の塊をぶつけるように精霊が進路の妨害を仕掛けてくるのを華麗に避けながら動いていたので、そのうちの一つがさっき自分に当たったのだった。
「これは、まずいな・・・・・これだと誰が見ても普通じゃない事が丸わかりだ。それに、精霊の姿がハッキリと見えるなんて・・・」
これまでに精霊の存在は探索者には認知されていたが、何かのきっかけで仲良くなった人たち以外は一切姿を見ることは出来なくて、自分も今まで気配のみで精霊かもしれない何かがいる程度の物だったのだが、今庭にいる精霊は以前から感じていた気配そのままにハッキリと姿形まで認識できる状態だった。
水の精霊は、ヒレの様な耳をした人型の上半身に、魚の様な下半身の周りを常に水を纏っている姿
火の精霊は、赤く燃える髪の人型の上半身に、尾羽が生えた下半身の周りを常に火を纏っている姿
木の精霊は、髪が緑で葉っぱに包まれた人型の上半身に、下半身が木で出来ており蔦がらせん状に巻き付いている姿
風の精霊は、長い耳と透けるような白い髪の人型の上半身に、透けているほどに薄く白い服が下半身を渦巻くように常に風に舞ってひらひらと流れるままに飛んでいる姿
今確認できているのは四属性の精霊だが、土の精霊はここから見ても見当たりはしないがおそらくいる可能性が高い事はここ最近の出来事の流れで分かる。そして、おそらくまだいるのであろう生き物と精霊も確かめておかないといけないだろう。
「確認はしておかないとな・・・おっと」
ずっと立ち上がっていなかった為に、立ち上がった時に少しふらつきながら立ち上がると、今なお騒がしい庭の中を通って大岩へと向かって行った。
大岩の前まで近づいたのだが、昨日のように大岩に何かが起こっている様子はなくて、周りを見渡しても外にはカーバンクルや精霊は見当たらなかった。ただ、昨日閉じていたはずの大岩の扉が僅かに傾くように開いており、扉の前には自分とは違う小さな靴の足跡がついていた。
「・・・・・」
予想はついていたが、一応様々な可能性を考えながら大岩の扉をそっと開いて外から中を覗き込んだ。
大岩の中にいたのは、外の足跡の大きさで予測していた通り、島民唯一の子供の女の子が大岩の中で座っていた段差で眠るように仰向けになっていた。
精霊を胸に抱きしめたまま・・・
「・・・・・これは、・・・まさか・・いや、でも・・・」
一瞬ある可能性を考えたが、まだ分からないと思いなおして少し様子を見ることにしたのだが、見れば見るほど信じられない光景に驚きと不安が入り混じる時間が過ぎていった。
女の子の手の中で、気持ちよさそうに帽子をかぶった小人の姿をした土の精霊が眠っている光景を見て精霊も眠るんだなと、どうでもいい事なども思い浮かびながらしばらく様子を見ていたのだが、一向に起きる様子がないので事情を聴くためにも声をかけて起こすことにした。
女の子の事情以外にも確かめておかないといけない事があるので、どうすれば怯えられないようにすればいいかを声をかけると決めてから一分間ほど考えたのちにいざ声をかけようとした時、いつの間にか女の子の足元にいたカーバンクルが仁王立ちしながら小さく鳴いた。すると、精霊が女の子の手から離れてカーバンクルに近寄った後に大岩の中へと溶けるように消えて、女の子は精霊が動いた時に段差から落ちた手の衝撃でもそもそと動きながら体を起こそうとしていた。
そして、上半身を起こして意識がはっきりしてきて辺りを見渡した時に、大岩の外から覗き込んでいる人を見つけて驚いたのだろう。驚きと恐怖が入り混じったような悲鳴が大岩の中からあたりに響くのだった。




