神獣の子供(土)
昼前にお試しで焼いてみたサツマイモを食べた後、大岩の生物を観察する為に縁側まで離れて、見ていることを感づかれないように気配を消して座っていた。
「・・・・・お、やっと出てきたな」
今朝の騒動から今まで、少しでも大岩の方向に近づいて行くと姿を隠していたから近くで見ることは出来なかったが、ほぼ庭の対角線上まで離れていると警戒を解いて大岩の上に姿を現した。
見ていることに気付かれないように観察する事数分。遠目ではあるが時々特徴のある本来の姿に戻りながら大岩に何かをしている様子を観察して、大岩に住む生き物の正体が分かったので見るのをやめて縁側に座りながら頭を抱えた。
「・・・カーバンクルか」
大岩に住む生き物の正体は小さなイタチに擬態しているカーバンクルで、額に魔石とは違った輝く宝石を持つ山の神獣と恐れられているダンジョン生物だった。
「まだ一匹だけで良かったと思うべきなんだろうか・・・」
カーバンクルは本来群れで生息している事が分かっており、本体の戦闘力も強くはなく凶暴性もないため遭遇時の危険度は全くと言っていいほど高くない。
だが、昔カーバンクルを捕えようとした者たちの末路を知ってからは、世界中の探索者でカーバンクルに危害を加えようとするものは誰もいない。探索者の決まり事でも山でカーバンクルに遭遇して危害を与えた場合は極刑にすらなり得る場合があるくらいに厳しく警告されている。
「大岩を住処としているならいつかあの大岩もあれになる可能性があるのか・・・・・下手したら島が無くなるかもしれないな・・・それはあいつらにも言えるか・・」
さっきまで調べていた二体を見て、事態の深刻さが増した事にどうしようもない不安を抱えながらも立ち上がると、大岩の方へ向かうために歩き出した。
カーバンクルは神野が立ち上がって一歩踏み出す前に素早く大岩の穴へと隠れて、近づいている間も顔を見せることなく隠れたままだった。
大岩の目の前まで行くと、今朝見た時より少し大きくなっている大岩に手を当てながら呟いた。
「この大岩がいつかベヒモスと呼ばれるようになるんだろうか」
神野がこの大岩を見てベヒモスの名を呟いたのは、カーバンクルの別称がベヒモスとも呼ばれているからだった。
カーバンクルが別名でベヒモスと呼ばれている理由は、カーバンクルが危機を感じた時に起こす行動に由来する。カーバンクルは本体の戦闘力はない代わりに自身が作り出した住処を自在に動かすことが出来て、群れで暮らすカーバンクルは数百以上の群れで生息している為、住処は一つの山が新しく出来る大きさとなっており、もしその住処で危機が迫った時には住処ごと移動するように動き始める。その時の姿が四足歩行の巨大なカバの様な姿に見えて、移動している間はカーバンクルが生み出した魔法金属の影響で虹色に輝きながら物理も魔法も効かない状態となる事で、どうすることも出来ない状態が続きダンジョンブレイクするまでダンジョン内を動き回りいなくならなかった。ただ、ダンジョンブレイクで地球に出てくることはなく、数日後に別のダンジョンに突然昨日までなかった山が出来ていてカーバンクルがいた事で、他の神獣と同じようにダンジョンを移動できて絶対に手を出してはいけない生物として、世界中でカーバンクル=ベヒモスと呼ばれるようになった。
「一体だけならさすがに限度があるから、それほど大きくはならないかもしれないな・・・いや、なったら困るから絶対にならないでくれ」
懇願するように大岩に手を突きながらこれ以上面倒事を増やさないでくれと祈るように呟きながら、一応大岩の中も変化がないか確認する為に中に入った。
「・・・・・分かってはいた・・わかってはいたけど、想像以上のサプライズはもういらないって・・・」
大岩の中は、前に見た時よりさらに様々な鉱石が壁面を覆いつくすほどにちりばめられていて、その中には魔法金属と呼ばれている金属が新たに増えていた。
「魔法金属・・・ミスリルに、・・ヒヒイロカネ・・・・・これは、まさかオリハルコンか?」
例のカーバンクルが徘徊してダンジョンブレイクが起きたダンジョンに、再度ダンジョンゲートをくぐることが出来たパーティーが発見した鉱石の欠片とよく似た色をした見慣れない鉱石があった。
その鉱石の欠片は、現代技術では加工すらできない鉱石の欠片で、オリハルコンと名付けられて今もどこかの展示場で展示されていて、探索者サイトに写真は掲載されていたので一応覚えてはいたのだが、まさか実物を見ることになるとは思わなかった。
「ってことは、やっぱりカーバンクルが作り出していた鉱石だったんだな」
大岩の天井から明るい光で照らされている鉱石を触った。
仮説として研究者がカーバンクルが作り出した可能性が高いと発表していたが、何かあった時のリスクがあまりに高かった為にカーバンクルの住処で調査して確認できることはなかったはず。
「・・・うちの庭だけで世界の謎がどんどん解明されていくなぁ」
大岩の内部の段差に力なく座り込むように腰かけると、さっきから大岩の内部を明るく照らしている天上の属性結晶を見上げた。
大岩の天井の頂点には一つの大きな属性結晶になりかけている魔力結晶が、大岩の内部を明るく照らす光を放っていた。
「わぁ、照明いらずで手間が省けたなぁ・・・推定数億円以上の照明か・・嬉しくはないなぁ」
ぼーっと属性結晶を眺めていると、どうやら太陽の光を利用して明かりを放っているようで、時折薄暗くなる時が外の影と連動していることに眺めているうちに気が付いたが、太陽の光だけにしては増幅されているかのように明るいなと疑問が浮かんだが、今はそれより重要な事がある為それ以上考えるのをやめた。
「絶対に知られたら不味い事になる事がまた増えたな・・・何もかも忘れられるなら引越したいなぁ」
増える厄介ごとに愚痴がこぼれるが、記憶を消して引越す事なんてできないのは分かっているし、無責任にこの状態の庭を誰かに任せることは出来ないとも思っている。仮に国の管理下になるとしても、今迄通りの島民の生活が保障されることもないだろうし、絶対に何かトラブルが起こることは確実だから何の相談もなしにしていい事でもないだろう。
「はぁ、自分で対応できるうちは何とかしていくしかないよなぁ・・・よし」
大岩に住むイタチに擬態した生物の正体も分かったので、残った二匹も確認する為に再び縁側まで戻る為に立ち上がって大岩の中から出て縁側へと向かったのだった。
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