神獣の子供(火)
池にいる魚の正体が、ダンジョン生物である【水神竜】や【リヴァイアサン】と呼ばれる生き物だと仮定した後、次はその生き物と互角に争っていた赤い鳥の正体を確かめるために近づいた。
近づきはしたが手に触れる距離というわけでもなく、焚き火用の場所の前に折りたたみの椅子を広げて座りながら観察する事にした。なぜなら、思いもよらぬ生き物の正体にほとんど動いていないのに疲労が体に溜まるような感覚になっていたのもあって、とても立ったまま考える気にならなかった。
「あ~~~、このまま目を瞑って寝て。起きた時には何も起こらなかった一日の目覚めに戻らないだろうか・・・」
本当に目を瞑りながらそんなことを呟いて、目を開けた時に視界の端にいた赤い鳥がいなくなっていたので、僅かに首を傾けて探すと灯篭の上に止まっていた赤い鳥がいつの間にか音もなく自作の窯の前に止まっていた。
珍しいなと思いながらそのまま目で追っていたのだが、赤い鳥は自ら窯の中まで入っていくと何の前触れもなくさっきまで争っていた時の姿に戻ると、窯の中で勢いよく炎を生み出し始めたのだった。
「は?えっ、ちょ・・・」
窯の中ではすぐに炎を纏った鳥が見えなくなるほどの炎が窯の中に渦巻いて、全体の火の色が赤からオレンジとなり黄色から青白くなるまで数秒もかからなかった。だが、不思議な事に近くにいるはずのこちらまでは一切の熱気が感じられず、窯の中だけに炎も熱気も抑え込められている様な状況だった。
そして、数十秒もしないうちに今度も何の前触れもなくいきなり炎が消えると、青白い炎を纏った鳥のみが窯の中にいて、軽く身震いしたかと思うと見慣れた赤い鳥に戻っていつものように灯篭の上へと羽ばたいて戻ったが、よく見ると僅かに羽の先が青白く燃えていた時のような色に変わっていた。
時間にしてほんの数十秒の出来事だった為に、何かする間もなくただ見ているうちに終わって、立ち上がる事すらなくただ呆然としていたが、ふっと体の力を抜いてゆっくりと姿勢を戻してイスに深く腰掛けた。
「あ~~寝て起きたらテントの中で目覚めたりしないかな・・・・・・・・・本当に」
さっき見た光景をすぐに受け入れるには時間が足りな過ぎた。そもそもがあの池の生物と互角に争っていた事である程度の仮説を立てていたとはいえ、いきなり証拠を見せつけてくれなくてもいいと思う。
「はぁ~~~、【火の鳥】・・・【フェニックス】か・・・・・」
地球に出来たダンジョンゲートの中でも、火山の近くに出来た場合のダンジョンで見かけられたことがある生物で、海外だけでなく日本の富士山に出来たダンジョンゲートの中でも目撃情報があったので、【水神竜】と同じようにダンジョンの中を自由に移動できていると考えられている。
「ダンジョンを自在に移動できて、人間のことなど意にも介さない圧倒的な力を持つ生物達につけられた総称が、・・・神獣、か」
椅子に背を預けたまま空を見上げて呟くように言うと、苦笑いのような笑みが思わず出てきた。
「なんでそんな生き物たちが一個人の庭にいるんだろうか・・・しかも、多分まだ子供なんだろうけど神獣の生態なんて何一つ分かっていないから、何が地雷になるかも分からないってのに・・・・・親離れが早すぎんじゃないか・・・神獣が子育てするかは知らないけど」
赤い鳥の正体が分かった事で厄介ごとは確実に増えたが、結局は他の人に知られなければまだ何とかなると【水神竜】と同じ結論に至って椅子から立ち上がろうとした時、ふと窯の中がキラリと光ったのが目に映って、若干嫌な予感を感じ取りつつも確認だけはしておこうと窯の中を見ることにした。
「・・・・・まじか」
窯の中を確認すると、さっきまではなかったはずの薄い緋色の属性結晶が少しだけ窯の内部に出来ていた。
「・・は、はは・・・仮説は正しかったみたいだな。何処にも報告は出来そうにないけど・・・・・」
強力な属性魔力による属性結晶が生成されるという世界初の現象を観測して、仮説の証明がなされたことは世界にとってはいい事なんだろうが、ただの平凡な日常を送ろうとしている人間にとっては全く嬉しくもない事だった。
「しかし、耐火煉瓦で作っていたとはいえ、よく壊れもせずに形が残ったものだな」
さっきは内部に新たに出来ていた属性結晶に目がいって、手作りの窯を詳しく見ることはなかったのだが、詳しく見てみると特に溶けた形跡や脆くなっているところなどもなくて、念の為強化した手を窯の中に入れてみたがほんのりと暖かい温度で、とてもさっきまで激しく高温の炎が燃え盛っていたとは思えないほどだった。
「やっぱり、地球の火とは根本から違う炎なんだろうか・・・・・ん?」
不可思議な現象に疑問を持ちつつ窯の内部を触っていたのだが、明らかに窯の内部の表面のレンガと外側のレンガで見てわかる違いと触って分かる違いが生まれていた。
「これ、窯の内側の面だけレンガが変質してないか?」
窯の内部のレンガを触っている時に、始めはレンガがまだ熱を持っているだけかと思っていたのだが、窯の内側のレンガだけ触っているとじんわりと熱を帯びてきてそのうち触れないほどの熱さにまでなって手を離した。すぐにもう一度触れてみてもそこまで熱くなかったので不思議に思い色々試しているうちに、レンガ自体が熱を発していてレンガに触れて長く時間を置くほど高温になっていくようだった。
見た目も多少変わっており、ただレンガを積み上げていただけの状態だったものが、窯内部のレンガの隙間が無くなって滑らかな手触りになっているのと、僅かに赤みがかった色へと窯の内部のみ変わっていた。
「何だかよくわからない事になっているな・・・・・・ん~、そういえば・・」
そう言って【収納】から取り出したのは一つのサツマイモと紙だった。そして、紙をサツマイモをくるむように巻いた後、庭の滝の水で湿らせたサツマイモを窯の内部へと入れた。
「遠赤外線効果みたいにもしかしたら美味しくなるかも・・・」
窯の中に入れられたサツマイモは、始めは変化がなかったが窯の下に接している部分から煙が出始めたので、慌ててサツマイモの下にレンガを敷いた上に置きなおして事なきを得た。
「そうか、下も徐々に熱くなるのか」
それからは、一応何か起きないように椅子を窯の前に置いて座ってぼーっとサツマイモを見続ける時間が続いた。
しばらく眺めていると、窯の方から今までに嗅いだことのないほど美味しそうな焼けたサツマイモの匂いが漂ってきて、すぐに【念動】で窯からサツマイモを取り出して目の前に持ってくると真ん中から二つに割った。
すると、サツマイモの甘い香りがさらに広がり思わず生唾を呑むほどだった。
「な、なんでこんなにうまそうな匂いが・・・いや、今は食うことが最優先だ」
そういってかぶりついたサツマイモは今までに食べたことがないほど美味しくて、ねっとりとした舌触りと口の中に感じる甘みで思わずすぐに食べつくしてしまうほどだった。
「・・・・・は!?いやいや美味すぎだろ!ダンジョン産でもない普通の芋なのに・・・」
食べた余韻に浸ったのちに、なぜこんなにも美味しい焼き芋が出来たのか考え始めたのだが、どれだけ考えてもハッキリとした理屈は分からなかった。
「・・・飯が美味しくなることはいい事だ。今後の楽しみが増えたことを喜んでおこう」
今日だけでもいくつもの面倒事が増えていく中で、やっと一つ目の利点が見つかった事でポジティブな気分になれた事を最大限かみしめながら、まだ確認しないといけない3匹を観察する為に縁側へと向かうのだった。
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