神獣の子供(水)
庭がダンジョンの中にいる様な空間になっている事に気付いた午前。
庭にいる生き物たちも普通ではない事が分かって、その正体を確かめるために池島から池を泳ぐ魚を見下ろしていた。
「見ている限りは普通の魚に見えるんだけどな・・・」
しかし、さっき争っていた時の姿は今の魚とは明らかに違う姿で、蛇のように長い胴体と頭には髭と角が生えていた姿だった。さらには空中に浮遊して水を自在に操っていたが、また池に戻る時には今の魚の姿に変わる所を見ていたので、普段は魚に擬態していて暴れていた時の姿が本来の姿なのは確実だろう。
もう一度その時の本来の姿をよく思い出して考えてみると、どうにもこんな小さな庭にはいるはずのない生き物だとしか思えない。
今は優雅に池の中を旋回している魚を見ながら考えていると、池の水のわずかな違和感や池を囲う岩の隙間にきらりと光る所があるのが目についた。
「それにしても、何で一日見てないだけでこんなに変化があるんだよ。この庭は・・・・・」
昨日一度も池の事を詳しく見てはいなかっただけで、池の中の環境が一昨日に見た記憶と明らかに違っていた。池の中は一切の汚れなく透明な水が溜まってはいるのだが、池にたまっている水からはダンジョンにあるような魔力水のような片鱗が感じられるし、池を囲う周りの岩の隙間からは何故か薄く蒼く色づいた小さな結晶が生えてきていた。
「数日前に池の中で光っていたのはこれだったのか・・」
見つけたのはダンジョンで魔力が多く漂っているほど濃度の濃い場所に見つけられることがある魔力結晶で、本来はその場にいられないくらいの魔力が存在している場所にしか生えていないもので、簡単に手に入れれるものではない物だった。
「なんでこんなところに・・・・しかもこれ、属性結晶になりかけているだろ・・・」
本来の魔力結晶は無色透明なものなのだが、ごく稀に発見されたことがある属性結晶は各属性に特化していてほぼすべての用途で通常の魔力結晶より優れている為、発見されて以来かなりの価値がある物となっていた。
過去にオークションで出品されたビー玉ほどの完全に染まっていた属性結晶が数億円単位で取引されたこともあったほどのもので、公表されている数は今まで片手で数えられるほどの数しか見つかっていなかったはず。
「属性結晶が唯一見つかった場所って確か炎竜の住処だったよな。でも見つけた結晶は薄い赤色でしかなかったはず・・・それと同等の物が家の庭に?」
これで大金持ちになれるラッキーなんて喜びは一切なくて、ただただ一個人の庭で起きていることにしては厄介すぎる面倒ごとになりうるものでしかなく、池の中に生えている属性結晶を見ながら地球の科学者たちが調べて公表されていた情報を必死に思い出した。
確か属性結晶は、多量の魔力が留まる空間で長い年月の末に純粋に魔力のみが結晶化した魔力結晶に、強力な属性を帯びた魔力がさらに長い年月をかけて魔力を浴び続けることにより変質して出来るものだったはずだから、こんなに数日で出来ていいものではない。
ただ、仮説で強力で純粋な一属性の魔力のみの空間で生成できるなら最初から属性結晶を作ることも可能なはずだと発表されてはいたが、まだ属性結晶を使った実験までは出来ていなかったはず。
「だとしても数日で出来るなんてことはないはず・・・」
ある一つの可能性として思い当たる話を聞いた事はあるが、誰も確かめられたことがなく噂だけが広まっている話ではあるのだが、ある生物の目撃情報があった場所で属性結晶が見つかった事がある為、その生物と何らかの関係があるかもしれないという噂。
「純粋で強力な一属性の魔力を持つ生物・・・近づく事すらできず目撃情報では空を飛ぶように泳いでいた事もある生物で、さっき見た姿と姿形が似通っているダンジョンの生き物が一体いるんだよな・・・・・」
その生き物は海洋や巨大な湖での目撃情報が一番多く、うわさには過ぎないが山奥の小さな湖でも見かけた事があるほどに様々なダンジョンでの目撃情報があって、記録として残っている個体はすべて同一個体だと確認されている為ダンジョンを自由に移動している考えられている。
そして、その大きさや出会った時の威圧感でまともに近寄る事すらできていない圧倒的な強者の振る舞いで、各国で様々な異名を付けられている生物。
「確か日本では・・・【水神竜】って命名されていたはず。海外では【リヴァイアサン】だったか・・・・・」
人の気も知らないで悠々と泳いでいる魚を見ながら考え着いた結論に、全身から汗が噴き出る感覚を体に感じて頭を抱えて考え込む事となってしまった。
「いや・・・まさか・・・でも・・・・いやいやいや・・・・そんな、そんなバカな事・・・・・くそぅっ!!」
答えは出たが、信じられないという思いと今までの探索者としての経験上間違っていない事も分かってしまって、様々な考えが頭の中をめぐるうちに一つの結論を出したのだった。
「・・・・・・・・・・は、はは、よし!!いったん後の面倒な事は考えないようにしよう!!!ここにいるのはただの魚で、ちょっと珍しい内装の池にいておよそ普通の魚とは違った行動をするけど、見た目は魚なんだからとりあえずは問題ない!うん」
島にいる人達はダンジョンの事について詳しく知りそうな人はいなかったから、庭を見てもすぐにわかることはないはずだ。後は探索者時代の知り合いが万が一にも尋ねてきた場合に厄介なことになるのは確実だが、ここに移住してきたことを知っているのはごく少数の人だけで連絡もなしに尋ねてくるような人達ではないから、今から来ない人たちのことまで考えて対策する必要はないだろう。
「とりあえずはすぐにどうこうなる事はない・・・・・はぁ、だけど他にまだいるんだよな・・・・・」
見える位置にいる赤い鳥と伏せて寝ている灰色の小狼、姿は見えないが大岩に住むイタチに木の洞で寝ている子ぎつねの事を考えながら、今よりさらに面倒事が増えていく現実にくじけそうになりながらも、ひとまず正体だけでも把握しておくために、火を扱う場所の灯篭の上に止まっている赤い鳥の近くまで移動するのだった。
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