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その後、亡国の幼い姫君は━━  作者: DAKUNちょめ


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15/16

いつもと違う朝、いつもと違う知らない妹。

大柄の老紳士は威圧的な態度に厳しい口調でマーガレットを萎縮させた。


「…わたくしも、大変心苦しく思っておりますわ。

我が国の兵士達は立派な者たちですが、昨夜は思わぬ敵の出現により、本来の力を出せなかったようですの。

ですから、どうか…。」


萎縮したマーガレットだったが、生来持つ性分なのか、無意識に甘い声音を出してしなを作り、甘えるような上目遣いで老紳士を見上げた。

老紳士は「ふむ」と呟くとたくわえた髭を撫で、ため息をついた。


「残念ながら…私は男色家なのでね。

貴女様のそういうのには興味が無いんですよ。」


「ッッ!そ、そんなつもりでは…!」


「小国とは言え一国の姫君が男に色目を使うというのも私には軽蔑すべき行為でして。

まぁ、自覚が無い様でしたら置いて置きましょう。

それより昨夜の責任についての話が終わってません。」


完全に萎縮したマーガレットは言葉を失った状態で、その場に立ち尽くした。

目の前の大柄な老紳士が、マーガレットにはさらに大きく見える。


━━どうして、こんな事に…全て、あの騎士のせいだわ。ううん、アイリスのせいだわ!

アイリスが呼び込んだのに違いないもの!

でも、部屋から出る事の無いお人形のようだったあの子が、どうやって━━


「おはようございます、お姉様。

こちらの方は、どなたですの?

わたくしに紹介して下さいまし。」


不意に声を掛けられたマーガレットはハッと声の方に顔を傾けた。

身動きが取れなくなるほど萎縮した身体が動くようになり、マーガレットの視界にアイリスとヤハールの姿が映る。

マーガレットの中にあり続けるアイリスの印象から、一晩で豹変したかのようなアイリスの姿を見たマーガレットは思わず唇の端を噛んだ。


━━そうよ!今までのアイリスとまったく別人のような

、わたくしの知らない、このアイリスが全ておかしくしたんだわ!

アイリスが昨晩拐われていれば、わたくしも今こんな事には━━


アイリスの姿を見たマーガレットだったが声を出さずに立ち尽くした状態のままだった。

ガデュリオンの使者は、これが昨夜拐う予定だった王太女かと面白い物を見たと自ら声を掛けた。


「これはもしや…アイリス王女殿下であられますのでしょうか?

お初にお目に掛かります。

私はガデュリオン皇国から参りました、マイヅールと申します。」


「歓迎致しますわ、マイヅール殿。

ところで、お話が少し聞こえてしまったのですが…

ガデュリオン皇国の使者の貴方が、お姉様に責を問うているように見受けられましたが。」


マイヅールは胸に手を当て深く頭を下げる礼をしたまま一瞬険しい真顔になったが、顔を上げた際には再び笑顔を浮かべていた。


「アイリス王女殿下、貴女様の知る所では御座いませんよ。」


柔和な笑顔に反し、しゃしゃり出るなと言わんばかりの圧を乗せた言葉をアイリスに返す。

だがアイリスはマイヅールの威圧的な態度を全く意に介せず、静かにマイヅールに答える。


「他国の使者が、王族の者を相手に責を問うているのです。

その様な事、黙って見過ごせるものではありません。

約束事を交わした書面があるのならば、それをお見せなさい。

まさか口約束だけとは言いませんわよね。」


毅然とした態度でマイヅールに訊ねたアイリスと、アイリスの傍らに控えたヤハールは二人共に、マイヅールの背後に控える小柄な従者の男の動向にも気を配った。


「残念ながら…アイリス王女殿下にお見せ出来るような書面は御座いません。

他国の使者風情が王族の姫君に対し大変不遜な態度をお見せしました事、どうかお許し下さいませ。」


自らをへりくだる言い回しをして頭を下げたマイヅールの表情には不満や不快感は無かった。 

むしろマイヅールが浮かべた笑みは、面白い物を見たと満足げな表情にさえ見える。

ピリッと張り詰めた空気感が消え、アイリスとヤハールは従者の様子を確認し、緊張を解いた。


「わたくしは一旦、陛下の元に戻ります。

陛下からお叱りを受けるでしょうが、面白い土産話が出来ましたので、お許し頂けるかも知れません。

では、失礼致します。」


アイリスとマーガレットに深々と礼をし、マイヅールは従者を従えてその場を離れて行った。

ホッと胸を撫で下ろしたマーガレットだったが、アイリスの方に向き直ると焦ったような声を上げる。


「お部屋から出ては駄目でしょう、アイリス!

お部屋の外は危険なのよ、王太女の貴女が危険な目に遭ってはならないわ!」


アイリスは笑顔で頬に指を当て、あざとい仕草で小首を傾げて答える。


「あら、わたくし今、お困りだったお姉様を助けたつもりだったのですけれど。

それに、お姉様とカミル王子様が自由に歩き回る城内の危険なんて、たかが知れてますわよ。

わたくしよりお姉様の方が危険かも知れませんわね。

お姉様を大事に思う方々は、他のどなたかの大事な方だったかも知れませんもの。」


「な…!」


今までアイリスに反論された事など無かったマーガレットは言葉を失った。

まして、アイリスが知り得るはずもなかったマーガレットの「姉」以外の顔を知っているとは思いもしなかった。


「まぁ…少なくとも、カミル王子殿下は、わたくしの大事な人では御座いませんので、お好きなようになさって構いません。

さ、ヤハール城内探検を続けるわよ!」


呆然と立ち尽くすマーガレットから離れたアイリスとヤハールは、しばらくしずしずと歩き続けた。

誰の気配も無い通路に出た時に、初めて二人は素で声を上げる。


「驚いたわ!

ガデュリオンの使者ってマイヅールさんだったのね!

大の女好きのクセして男色家とか大嘘こいていたけど!」


「それよりマイヅールさんの従者ですよ!

背を丸めて存在感の薄い害の無い地味で小さな男を演じてましたけど、あれお師様のユーエン様でしたよ!」


興奮気味に話すヤハールに、アイリスは大きく何度も頷いた。

ユーエンは、ガデュリオン皇国の暗部に所属する優秀な間諜であり最強の暗殺者でもあった男で、スティングに命じられ、およそ王女が身につけるべきではないような間諜としてのスキルを渋々アイリスとヤハールに授けた人物でもある。


「最初は渋々だったくせに、妥協は許せないとか言って色々と教え込まれたわよね。

そのお師様が、従者に成りすましてファルナウスに来ていたなんて…目的がお父様の暗殺で無くて良かったわ。そんなの、守れないわよ。」


「ん〜今の姫様ならユーエン様にも負けないのでは?

膂力では男性にかないませんけど、剣の腕前も一流ですし、間諜の技も暗殺の技も全技量習得済みですし…

姫様は、姫君ってよりも化けも…」


「ヤハーーールぅ?久しぶりに打ち合ってみるぅ?」


「イエ、遠慮シマス。身ガモチマセン…

そ、それより!探検続けましょう!

ガデュリオンに行くためにも!

きっと陛下が姫様を待ってますよ!」


「えっ!旦那様が私を!?」


キュルンッと恋する乙女の顔になったアイリスを見たヤハールは、「ええ!」と頷きながらひそかに呟いた。


「チョロ…」




一方━━

ファルナウスから僅かに離れた野営地で、ガデュリオン皇帝は腕を組み深く思案中。


頭にモヤモヤした吹っ切れない何かがあり、ガデュリオンに帰る足取りが重い。


「陛下、浮かない顔をしていますが何か困り事でも?」


兵士達に野営の支持を出していたスティングはガデュリオン皇帝の様子に気付くと声を掛けた。


「いや、あの白騎士の言う姫君とやらが気になってな。

マイヅールを通して聞いた姉の話だと、親父の言いなりで人形遊びばっかしてる心身共に幼い娘と聞いていた。

将来、親父と同じような国民の声を無視した国主になりうると。

だが白騎士の言う姫君は、なんか、そーゆーのじゃない気がすんだよな。」


「あの変態白銀騎士の妄言が気になるのですね。」


「変態……いや、変態か。」


否定し切れなかった皇帝は腕を組んだままスティングに頷いた。

そして組んだ腕を解き片膝をパン!と叩くと、馬の方に向かった。


「おい、半数はこの場に待機、半数はスティングと共に俺について来い。

ファルナウスの城に挨拶に行く。

国王のアホヅラも気になるが、娘二人のツラが見たい。」


「お供致します、私も…気になっていたんですよね。」


会った事が無い筈なのに、なぜか懐かしい気持ちさえ浮かぶ。

この不可解な考えは皇帝やスティングに留まらず、他の兵士たちにも僅かにある様子で、僅かに表情を綻ばせる者さえいる。


皇帝とスティングは馬にまたがり、道を引き返してファルナウスに向かった。






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