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その後、亡国の幼い姫君は━━  作者: DAKUNちょめ


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13/16

亡国は亡国とならず、お人形な姫は明日から本気出す。

「とにかく、もう遅いのだから寝なきゃ駄目よ、アイリス。

今夜あった事は、みんなを不安にさせてしまうから私たちだけの秘密にしましょうね。」


「はい、お姉様。」


アイリスの返事を聞いたマーガレットは、ホッと安堵したかにも似た優しい微笑みを浮かべて頷き、アイリスを緩く抱き締めるとこめかみに軽くキスをした。


「ゆっくりお休みなさい、アイリス。」


「では、また明日な、アイリス。」


アイリスはニコリと微笑みながらマーガレット王女とカミル王子が部屋を出て行くのを見送った。

二人が出て行ったドアが閉まり、部屋に残されたアイリスとヤハールはドアを見つめつつ暫し黙り込んでいたが、やがて作り笑いをやめたアイリスが本音を口にする。


「賊も捕まってないのに拐われかけた妹に、ゆっくり休めって…お姉様、馬鹿なの?

それに賊が城に入って王女を拐おうとした事を内緒にしておくなんてのも、普通ではあり得ない話よね。

それでも5年前、この時の私はお姉様とカミル王子が言う言葉は全て正しいのだと思い込んでいたから、二人に対する疑念すら浮かばなかったでしょうけど。」


「マーガレット王女、かなり頭がおかしい事を言ってますよね。 

あと従者の僕が言うのも何ですが、婚約者と言えど深夜に他国の王女殿下の寝室を訪れるカミル王子も、王族とは思えないほど常識を知らない頭がおかしい人だと思いますよ。」


姉と婚約者、自分を愛してくれていると信じていた二人の語る世界が常識の全てだと思い込まされていた当時を振り返ったアイリスは、ヤハールに苦々しい顔を見せた。


「今日という日を迎えるにあたり、お姉様達に警戒されないよう、当時の自分をずっと演じていたけど、改めて知ったわ。

私が、大事にされている風に見せかけて部屋に引きこもらせ、城の内外を自由に出歩く事もさせず人との交流も絶ち、私が知識を得る機会を得ないようお姉様達に管理されていたのだと。」


「今の姫様を知る僕から見れば、姫様にそんなお人形のような時代があった事の方が驚きですが…

実際5年前には、そんな世間知らずだったお姫様を他国の暴君に差し出したんですからね、あの二人。」


よほど腹立たしく思うのか、不機嫌な面持ちで文句を口にするヤハールだったが、「思い出した!」と言いたげにパッと顔を上に向けた。


「それはそうと姫様、この先どうします?

姫様は今日、暴君の陛下に拐われる予定で、従者の僕も姫様と共にガデュリオンに行くハズでした…が、

姫様の暴走のせいでガデュリオンに行く機会が絶たれてしまいました。」


ガデュリオンが滅ぶ日まで約5年。

二人は今日ガデュリオンに向かい、ガデュリオン帝国を守るべく情報収集などをして、5年後の来たる日に備える予定だった。

だが、アイリスの身勝手な暴走によりその計画は潰えてしまった。


「そうよね…ごめんなさい考えが浅かったわ。

お姉様達が仕組んだとは知っていたけど、城内に旦那様達ガデュリオンの兵士を引き入れた計画の協力者が誰だったのか、あの日どうやって国が亡くなったのか気になって…つい。」


「気持ちは分かりますけど…

結局、国を裏切って敵国兵士を城内に入れたのは近衛騎士の皆さまでしたっけ?

国王陛下を守るべきエリート騎士じゃないですか。

スティング様がマーガレット王女をアバズレとおっしゃってましたね。

そのアバズレに、たらし込まれたんでしょうか。」


アイリスは、王女である姉に対し辛辣な物言いを控えるつもりも無いヤハールに「どうかしらね」と苦笑しながらベッドに腰掛けた。

月灯りが窓の枠の影を部屋の中に落とし、床にマス目の様に区切られた格子模様が浮かぶ。


「まずは、この国を知る事から始めるわ。

以前の私は、この国、この城の事を知らな過ぎたわ。

5年前、私を拐った時に旦那様が、この国に何度か使者を送ったけど父が聞く耳を持たなかったと言っていたの。

…私はガデュリオンの使者がファルナウスに来ていた事すらも知らなかったし、勿論その理由も知らない。

でもお姉様は、ガデュリオンから使者が来ている事を知っていて、使者を通じて今回のファルナウス襲撃を旦那様に持ち掛けたのよね。」


アイリスは自分の言った言葉を自身の耳で聞き、ピキッとこめかみを引きつらせた。


ヤハールの言った「アバズレのマーガレット王女に、たらし込まれた」が近衛騎士だけではなく、もしやガデュリオン皇帝にまで及んでいるのでは、ふと思い付いてしまった。

二人が会った事もないと分かっていても、文書とかで色目を使った?とか、そんな想像だけで沸々と沸き起こる嫉妬心。


「……これは…決闘ね。」


「ハァ!?いきなり何で!?誰と!?なぜ!?」


何の脈絡も無く、アイリスのいきなりの決闘宣言にヤハールが思わず声を上げた。




アイリスの部屋を出たマーガレットは、何がどうなって計画が頓挫したのか分からずに困惑していた。



計画では城の皆が寝静まった頃、まず近衛騎士達が王族の王城脱出用の隠し通路を使えるようにし、その通路を使い外部からガデュリオン帝国の兵士達を城内に誘導。

城内になだれ込んだガデュリオンの兵士達に国王を捕らえさせ城を制圧、王太女であるアイリスは捕虜としてガデュリオン兵士に拐わせるつもりだった。


マーガレットは、傍若無人だと世間ではその横暴ぶりが知られるガデュリオン皇帝にアイリスを人身御供として差し出す事に迷いや罪悪感を感じる事は無かった。

どんな辱めを受けようが残酷な仕打ちをされようが構わないと━━むしろ辱めを受け泣き叫ぶアイリスの姿を想像するだけで、笑いが込み上げてくる。

そこには「いい気味」と思うような気持ちは無く、マーガレットの胸中にあるのは、子どもが持つような「おもしろそうだから」といった無邪気さからの純粋な悪意だ。


━━なのにガデュリオン兵士は一向に現れず、ガデュリオン兵士達を制する小芝居をしながら共になだれ込んで来る近衛騎士達の姿も見えない。

不安に駆られたマーガレットは、アイリスの様子を見に部屋に行ってみたが、アイリスは寝入ってはおらず大窓の前に立ち、外を見ながら静かに佇んでいた。


━━今から起こる事も知らずに呑気なものよね━━


そう思いフッと鼻で笑いはしたが、ガデュリオン兵士が侵入して来る気配がない。

アイリスの部屋を離れたマーガレットは、なるべく近付くつもりのなかった隠し通路の方に足を向けた。


「マーガレット王女殿下!」


物陰から呼び止められたマーガレットとカミル王子は、暗がりに身を潜めた8人の近衛騎士達に近付いた。


「まぁ皆さま、なぜこんな所に…どうなさったの?

ガデュリオンの方々は?」


「それが…謎の騎士に邪魔をされまして…失敗に終わりました。

我々は先ほどまで地下通路で拘束されていたのです。」


「謎の騎士だと?それはガデュリオンの騎士ではないのか?」


カミル王子の問いに、近衛騎士の一人が「お前と話してんじゃねぇよ」とばかりに仏頂面になり、「いいえ」と小さく答えた。


「多分違います。ガデュリオンの兵士は一人も城内に来てはおりません。

現れたのは青いマントを羽織った白銀の鎧の騎士でしたが…そやつは此度の我々の計画を知って、阻止しに来たかのようでした。」


「そやつに拘束されたためにガデュリオンの兵士を呼び込む事が出来なかったというワケだな?

8人も居てたった一人に拘束されるとは…。

せっかくの計画が役立たずなお前たちのせいで水の泡だ。どうしてくれる。」


カミル王子の言葉に苛立つ近衛騎士達が舌打ちする。

王族とはいえ、彼らにとって他国の王族であるカミル王子は仕えるべき主君ではない。

そんなカミル王子の横柄な態度に兵士達の不満が募る。


マーガレット王女は近衛騎士一人ひとりに触れ、「大丈夫?」「無事で良かったわ」と優しい言葉を掛けた。

カミル王子のせいで険しかった近衛騎士達の顔がホロッと緩む。


「では、今ファルナウスのお城にガデュリオンの兵士は居ないのね…謎の白銀騎士?

誰なのかしら…私達の計画を知っているの…?」


マーガレット王女の頭に計画の一端である「アイリス誘拐も知っている?」と疑問が浮かんだ。

アイリスの部屋に謎の騎士が現れるかも知れない。

たった一人で8人もの近衛騎士を制した手練れの騎士、ぜひとも味方に引き入れたい。


そう思い、マーガレットはアイリスの部屋に向かった。

だが、先ほどまで居たはずのアイリスは部屋におらず大窓が開いており、なぜか従者の衣服だけ床に落ちていた。


━━え、どこへ消えたの?アイリスは━━


開いた大窓を見ながら無人となったアイリスの部屋で呆然としている所で、背後のドアからアイリスと従者のヤハールが入って来た。

なぜか従者はアイリスのナイトガウンを羽織っている。


「アイリス!アイリス!無事だったのね!

良かったわ!

近衛騎士長から怪しい人物が城内に侵入していると聞いて、アイリスの事が心配で…!

部屋に来たらアイリスが居ないのですもの!」


マーガレットはアイリスに駆け寄り抱き締めた。

その表情は、妹の無事を喜ぶ優しい姉の顔だ。

一瞬、アイリスの身体が強張ったのを感じたマーガレットは、アイリスが怖い思いをしたのだろうと考えた。


「わたくし、侵入して来た賊らしき者に拐われかけたのですが、中庭の方で見知らぬ騎士様とヤハールに助けられましたの。それで部屋には居なかったのですわ。」


アイリスが語る、部屋に居なかった理由に、更に新しい人物が挙げられた。

救出したのがくだんの白銀騎士ならば、城に侵入してアイリスを拐った別の者がいる。


表情を取り繕う事が苦手なのか、カミル王子はマーガレットの方に不安げに目配せをした。


━━そいつはガデュリオンの者ではないのか━━


同じ疑問を持ったとして、何も知らないマーガレット達がこの場でそれを顔に出すべきではない。


マーガレットはアイリスを救出した騎士の所在を訊ね、何も知らないアイリスは騎士は去ったと答えた。

自身を拐った賊も逃げてしまったのだろう。


全ての計画が失敗した今、今夜の事は全て無かった事にした方が良い。


マーガレットは「私たちだけの秘密」だとアイリスを言いくるめて部屋を出た。


そして今、計画では現れるハズが無かった謎の騎士の存在が気になる。

その騎士の出現により全ての計画が失敗に終わった。

ファルナウスの城を度々訪問するガデュリオンの使者を通し、「圧政をしく父王から民を救うために、父と父の言いなりの妹を王の地位から降ろしたいのです」とガデュリオン皇帝に訴えた。

約束の今夜その計画は実行され、すべて上手く収まるハズだった。


城の中に黒い甲冑に身を包んだ多くのガデュリオンの兵士が現れ、ひときわ大柄な黒い騎士がアイリスを肩に担ぎ上げて去る情景が、まるで現実を見たかのようにマーガレットの頭に浮かぶ。


「…あの時はそんな騎士なんて居なかった…あら…?」


━━あの時って、いつの事かしら━━


「マーガレット…大丈夫か?この計画は父も…」


不安げに問う、カミル王子の「大丈夫か」がマーガレットを心配しての言葉ではなく、悪事を計画した事がバレて自分も罪を咎められたりしないかの自己保身的な言葉だとマーガレットは気付いている。


「カミル…私を心配してくれるのね、優しい人。

そんな貴方が大好きよ…

やっと貴方の妻になれると思ったのに…。」


マーガレットの部屋に入った二人は抱き締め合った。

触れる事が出来ない幼い婚約者のアイリスより、触れる事が出来、甘い言葉を交わし合える「女」のマーガレットは簡単にカミル王子の心を奪っていた。


「僕もマーガレットが大好きだ、愛している!

絶対にマーガレットを妻にする…!」


カミル王子から不安を疑問を遠ざけたマーガレットはカミル王子の肩に顔を寄せながら考えていた。


━━お父様を捕らえアイリスが拐われ、国王が居なくなったファルナウスは一時的にカミル王子の隣国が預かる事になった。 

隣国預かりの領となったファルナウスの領主にカミル王子がなり、私はその領主の妻に…

なぜか、その光景がとても現実味を帯びて頭に浮かぶ…

いいえ、それより謎の騎士の存在だわ…何者?

なぜ私たちの計画を知っていたの?

仲間に出来たら…心強い味方になるわ━━



本来、この日亡国となっていたファルナウスは亡国とならず

本来、この場に居なかったアイリスが居るままに夜が明け、ファルナウスは新しい日を迎えた。




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