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やらかし女神と忘却の勇者  作者: 鹿苑寺ゲン
第二章 ドラグマの錬金術師
18/19

魔法の薬『ノアダミンG』

 「尻尾の棘は猛毒を含んでいて危険だから僕が担当しよう。アネモネは爪を頼むよ。ユーセイとサレンは毛皮をよろしく。マンティコアの皮膚は硬いから僕の特性ナイフを使ってくれ」


 ノアは解体用のナイフを俺達に手渡すと、意気揚々と目前に横たわるマンティコアの亡骸へ走っていった。

 ちなみに死体は先程まで固化材によって砂と岩で固められていたものの、ノアが作成した剝離剤と水属性魔法によって完全に落とされているので、余すことなく素材の剥ぎ取りが出来る状態だ。

 

 「・・・サレン、例の魔法を頼む」

 「はぁ、いい加減慣れてくださいね。『ブレイブソウル』――!」

 

 死体処理時の恒例行事と化した精神力強化の魔法をかけてもらう。

 冒険稼業を初めて一ヶ月経ち、自分達で魔物の死体処理をすることが多々あったものの、俺のメンタルが鍛えられることはなかった。

 しかし、戦闘時は話が別だ。

 剣を手にして戦闘態勢に入ると脳が興奮状態に入るためか、頭から真っ二つに斬り捨てる、首を跳ね飛ばす、魔法で八つ裂きにするあるいは焼き殺すといったことを何も躊躇せず行ってしまうため、余計に質が悪い。  

 

 そのせいでサレンからは、二重人格だの戦闘狂だのと言われ、呆れられる始末である。

 一連の儀式が終わって準備が整うと、俺とサレンも解体作業に加わった。

 冒険ギルドの講習で教わった『解体師』のスキルを用いて、皮と肉をナイフで切り剝がしていく。

 おお、さすが国家錬金術師の特性ナイフ。俺が普段使っている物より、断然使い易い上に刃の通りが良いぞ。

 

 『解体師』スキルは使用者の『器用度』に依存しており、数値が高い程きれいに素材を剥ぎ取ることが出来る。 

 素材の状態が良いと、高値で売れたり、装備やアイテムの加工に使えるため、このスキルは冒険者にとって重宝されている。

 だが実際の所は魔物討伐の際、如何に傷つけずに倒すかが一番の肝だ。

 しかし、それに固執していると逆にこちらが討伐されかねないため、ある程度は割り切る必要が出てくる。

 

 「またちぎれちゃったぁ! ノアさん、皮がボロボロになっちゃうんですけど、このナイフちゃんと手入れしてますか!?」

 「鍛冶屋に研いでもらったばかりだから問題ないと思うんだけど・・・。最後の魔法攻撃のせいで脆くなってるんじゃないかな?」 

 

 解体作業を進めていく中、サレンが悲痛な声でノアに訴える。

 ・・・もはや何も言うまい。

 サレンの『器用度』は致命的に低いため、剥ぎ取り後の素材の状態なんて最初から当てにしていない。

 だから敢えて損傷の酷い個所を担当させたのだ。

 それならいくら汚く、ぼろぼろの状態でもしかないと割り切れるからな。 

 

 四人がかりでマンティコアの解体作業を終え、回収した素材をアネモネが次々と鞄の中に放り込んでいく。

 

 「この鞄は『大容量カバン』という物で、空間魔法が付与されている魔道具なんです。いっぱい詰め込める上に重量を気にせず持ち運べるので、とっても便利なんですよ」

 「次から次へと便利グッズが出てくるな。ちなみにその鞄欲しいんだけど、どこで手に入るんだ?」 

 「王都の魔道具店で取り扱ってるのを見たけど値段を見て驚いたよ。確か五百万リギルとかだったかな」

 「ご、五百万!?」

 

 ノアから発せられた驚愕な値段につい声を上げて驚いてしまう。

 なんで鞄なのにそんな高いんだ!?

 

 「空間魔法は無属性魔法の中でも極めて上位の魔法なので、使い手が少ないんです。だから生産数も限られてる上に高値で取引されているんでしょうね。それにしても、そんな貴重な物をノアさんはどうやって入手されたんです?」

 「一年程前にマギアス皇国との国家交流で、錬金術の出張講師をした時にお礼の品として貰ったんだ。それ以来、ずっと愛用しているよ」

 「・・・簡単に手に入る代物でないと十分に分かったよ。ちなみに今回の仕事の報酬はお金じゃなくて、その鞄でもいいんだけどなぁ」

 「残念だけどそれは無理だ。代わりに報酬の金額は弾むし、マンティコアの毛皮は君達に渡すからそれで勘弁してくれ」

 

 さり気なく言ってみたが、丁重にお断りされてしまった。

 それでも金銭だけでなく、マンティコアの毛皮もこちらにくれるのはありがたい。 

 

 「マンティコアの肉と尻尾の棘にある毒は秘薬の材料になるし、爪は加工すれば色々なアイテムが作れる。今から楽しみでしょうがないね。アネモネ、帰ったら忙しくなるよ」

 「先生の顔が輝いていらっしゃる・・・!」

 

 ・・・今回の依頼にこいつらが付いてきたのって、実はマンティコアの素材目当てだったんじゃ。

 

 ◇


 マンティコアの討伐が無事完了し、素材も回収。

 最後に死骸を燃やし、土に埋めて後処理を終えた俺達は下山の準備に入るのだが・・・。

 

 「何で散らかし始めてるんだよ・・・ここで店でも開く気か?」

 

 帰ろうと支度している最中、ノアが鞄から水の入った瓶、薬草の束、先程解体し、氷魔法で冷凍保存されたマンティコアの肉を地面に並べ始めたのだ。


 「回収した素材で良いレシピが思い浮かんでね。すぐに出来るからちょっと待っててくれ」

 

 ノアが並べ終わった素材に手をかざすと、地面に魔法陣が浮かび上がる。

 

 「魔力開放――"錬成開始"!」

 

 詠唱を行うと、魔法陣が発光し始め、光が素材を包み込む。

 光がやむとそこには、黄色い液体の入った小瓶が四つ現れた。

 

 「よし出来た。さて、効き目はどうかな?」

 

 瓶を一つ取ると、ノアは躊躇することなく口をつけて中の液体を飲み込んだ。

 

 「だ、大丈夫なのか、いきなりそんなの飲んで・・・」  

 「おお・・・すごい、一気に疲れが吹き飛んでいく! やはり強靭な生命力を持ったマンティコアの肉を材料にして正解だった! 新しいスタミナポーションの完成だ!」

 

 ノアが得体のしれない薬品を飲み終わったと同時に突然、両手を真上に上げて叫びだした。

 

 「ちょっとぉ!! 日が暮れる前に関所まで戻らないといけないのに、二人で何してるんですか!?」

 「どうかされましたかぁー・・・ってああ! 先生! ひょっとして待ちきれずにマンティコアの素材で何か錬成されたんですか!?」

 

 こちらの騒ぎを聞きつけて、女性陣が駆け寄ってきた。

 サレンは鬼の剣幕で、一方のアネモネは目を輝かせている。

 

 「聞いてくれよ。ノアがおもむろに怪しい薬を作り出して、それを飲んだら大騒ぎし始めたんだ」

 「怪しい薬じゃない! これはマンティコアの素材を使った新作のスタミナポーション、その名も『ノアダミンG』だ!」

 「いつの間に命名したんだよ!? アネモネからも何とか言ってやってくれ!」

 「さすがは先生! 私も早速試させていただきます!」

 「ア、アネモネさん!? 大丈夫なんですか、そんなの飲んで!?」

 

 師に続いてアネモネも小瓶の蓋を取ると、ためらわずに飲み干した。

 

 「ぷはぁ・・・こ、これは・・・美味しい上に力がすごい増してきます! これなら帰りの山道なんてへっちゃらかも!」

 

 そう言って、アネモネはその場でぴょんぴょんと飛び跳ねる。

 先程までマンティコアとの戦闘で疲れ切っていたというのに、妙に動きが軽やかだ。

 なんなら戦闘前よりも元気そうである。

 それが益々怪しさを感じるため、サレンも俺と同様に疑いの目を向けていた。

 

 「さあ、二人も飲んでくれ。安全性と効力は僕とアネモネが保証する。万が一何かあっても、すぐに薬を調合するから心配無用さ」

 「い、いや、少し休んだし、俺は大丈夫だよ。てか、飲んで何かあったら困るんだよ!」

 「私も元気いっぱいなんで! お気持ちだけありがたく頂戴いたします!」

 「そうか、それならしょうがない。『クリエイト・ゴーレム』―!」

 

 突然、背後から何者かに羽交い絞めにされて動けなくなる。

 サレンも同様、パニックに陥って両手足をバタバタさせてもがいていた。

 ノアが『ノアダミンG』を全力で拒否をする俺達にしびれを切らし、ゴーレムを使った強硬手段に出たのだ。


 「彼らは今日の功労者だ。アネモネ、特別に飲ませてあげなさい」

 「おい待て! ゴーレムは卑怯だ・・・イデデデデ、こいつ腕力強すぎだろ!?」

 「きゃあああああ!? おねがい、お願いですから解放してください!!」

 「さあ、二人とも。口を開けて大人しくしててくださいねー・・・!」

 

 必死に抵抗する中、小瓶を持ったアネモネが顔をニコニコさせ、目前に迫ってくる。

 

 「頼む! 実は俺、マンティコアアレルギーなんだ! だからそんなの飲んだら死んじゃう!」

 「アネモネさん! 私たちお友達でしょう!? 友達ならこんなことは今すぐやめてじゃないと私――」

 「ええい、問答無用! 先生特性のポーションを飲んで早く帰りますよ!!」

 

 俺達の必死の訴えが、錬金術師の師弟コンビに聞き入れられることはなかった。

 

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